第52話 三枚の楽譜1 「校歌と星条旗よ永遠なれ」

母親からのながーい事情聴取(途中でカツ丼付きの夕食有り)を終えて部屋に戻った弘之。


机の前に座ると、部屋に来る前に入れた砂糖無しミルクのみのコーヒーをモキュモキュと飲み一息付く。

その後、右手にコーヒーカップを持ったまま左手で膝の上に置いたカバンをゴソゴソとあさり今日部活でやった「楽器のお片付け方法」が書かれたメモと貰った楽譜が入ったクリアファイルを探す。


長くつらい事情聴取の事を思い出してブツブツと呟きながら。


(全く、事情聴取が長すぎだよ。ホントに僕は何にもやって無いのに! だいたい、何で僕がこんな目に!? 確か琴ちゃんに頼姫ちゃんと姫乃先輩の百合話しをして、それから琴ちゃんが不機嫌になり出して、最後に……ってそれか!!)


ビチャ

急に思いついた謎への解答に思わず大きい声を出して思わず手を動かして反応してしまった為軽くコーヒーが机に飛び散った。


弘之は一度コーヒーカップを机に置き、カバンを床に置くと近くに置いてあるフキンで机を拭く(よく、考え事をしながら飲み物を探してカップを倒したりするので、弘之の机にはフキンが常備されている)。


「あーあ。またやっちゃったよ……」と言いながら机を拭き拭きする弘之。

飲み物をこぼすのは毎度の事ながら机を拭くその手は非常に億劫そうだ。

しかし、先程ブツブツと口に出す事で頭が整理されたのか謎であった「何故琴映が不機嫌になったのか?」が解けたのは行幸だ。


だがそれは弘之に新たな疑問を呼ぶ。


(でも何で、姫乃先輩と頼姫ちゃんのはなしで琴ちゃんが不機嫌になるんだろう?2人ともなんか良かったのに←)


「うーん」


暫く腕を組んで考えるも全く理解出来ない。

鈍感小僧だからね。


「まっ、いっかっ! ちっちゃい事ーは気にすんな♪ワカチコ、ワカチコ♪」


考えるのが面倒くさくなった弘之は、昔流行った謎のギャグを口ずさみながら、それ以上「伊達 琴映の謎」への追及を辞める。


面倒くさい事は後回し!

事前に貰った譜面は初練習で読む!

小説は行き当たりバッタリ!

吹けない譜面も、書けない文章も後回し!

良い子のみんなは真似しないようにしないとダメな大人になっちゃうぞ!

誰の話だろうか……。


「それより、クリアファイルー♪クリアファイルー♪」


どうでも良い考え事(失礼)から解放された弘之は再び床に置いてあった鞄を膝の上に上げると、今度は両手を使ってゴソゴソとクリアファイルを探す。


「あったー♪」


今度はファイルを両手でちゃんと捜索した為、今度は直ぐに見つけた様だ。


「貰った譜面も気になるけれどー、先ずは……」


弘之はそう言うとクリアファイルから今日部活で姫乃から教わった「楽器のお片付けの仕方」を書いたメモを取り出し、それを「とろんぼん練習ノート」に書き写していく。


「ふぅ」


無事に楽器のお片付けの仕方を書き写した弘之はやや疲れ気味にため息を吐くとペンを置く。

途中でコーヒーを飲んだり、シャーペンをくるくるしたり、机に有るガ◯ダムのプラモデルで宇宙戦争ごっこをしたり、スマホでツイ◯ターなるものを起動させたりしてたら思いの外時間がかかってしまった。


ツ◯ッターは沼。

ハマると出てこれないからね。


弘之はペンを机の上に置いた後、背筋を伸ばしたりして一息つくとクリアファイルから今日部活の終わりに配られた三枚の譜面を出して机に並べる。


横にずらりと並べると三枚の譜面に書かれたタイトルを確認する。


「富士見ヶ岡中学校校歌」

「星条旗よ永遠なれ」

「The Fairest of the Fair(美中の美)」


「ふむふむ」

それらを確認すると1つづつ見ていく。

(「富士見ヶ岡中学校校歌」はあれだな。入学式で聴いた酷い(?)やつだ。最近音楽の授業でもやったし。んー、トロンボーンパートの譜面は何だか全然わかんないな……)


「次はー」


(「星条旗よ永遠なれ」か、なんか名前だけは聞いた事ある気がするな。でも校歌より難しそうだなぁ、何この2ndtromboneって?野球?)


「んで、最後はー」


(「The Fairest of the Fair(美中の美)」かぁ。全く知らないな……今度は1st、tromboneって書いてあるし益々野球か?)


「んー、楽譜の読み方は先輩に聞くとして、どんな曲なのかだなっ。先ずは星条旗を調べよう。よしっ、困った時はぐぐる先生に相談だ! スマホ、スマホっと……」


弘之は再びカバンをゴソゴソとしてスマホを探すが中々見つからない。


「あれー? 無いぞー? あっ、ポッケか」


どうやら先程カバンから出してツイッ◯ー等をやった後無意識に上着のポケットに仕舞っていた様だ。

弘之はその事を思い出すと家に帰ってからも着っぱなしだった制服の上着のポケットからスマホを取り出して「ぐぐる様」を開いて曲名を入力し検索する。


「えーっと、星条旗よ永遠なれっと」ポチポチ


すると直ぐにスマホの画面に曲についての詳細な説明が浮かび上がる。


「ふむふむ。ジョン・フィリップ・スーザ?が1896年に作曲した行進曲で1987年にはアメリカ合衆国の公式行進曲にも指定されている。曲の構成は……であるか。構成とかわからないけど取り敢えず聴いてみよう」


そのまま解説な添付された「ゆーちゅうぶ」の演奏を聴く弘之。


「なんか行進曲だけあって、整列して歩くのにピッタリな感じだな。太鼓(スネア)が小刻みで軽快だし大太鼓(バスドラ)とシンバルは重々しくて、途中の高い音の楽器(ピッコロ?)が可愛く踊ってて、同じメロディの2回目ではトロンボーン(多分?)が華々しい曲だな」


と大まかに曲の印象について考える弘之。

何事も第一印象は大事だからね。

特に曲に関しては初めて聴いた時の印象が1番鮮明に心に刻まれて、記憶に残ったりするものだし。

噛めば噛むほど味わい深いスルメの様な曲も多いけれど。


※この「星条旗よ永遠なれ」ですが、一般の方には前半部が有名で、聴くと「あー、これね」となるのですが、吹奏楽やクラシックに馴染みが深い人ほど後半部の方が印象に残っている不思議な曲です。


※2.スーザは曲の後半にアメリカの3つの地域をイメージしたと語っています。主旋律は北部、軽快なピッコロの旋律は南部、力強いトロンボーン(大抵曲のクライマックス、繰り返しの2回目より入ってくる)のメロディーは西部。この3つを同時に響かせることで国旗(星条旗)の元にアメリカが一つになって団結し頑張って行こう! という気持ちを込めているようです。


「取り敢えずもう一度聴いておこう」


弘之はもう一度聴く事にしてからスマホの再生ボタンをポチッと押す。

今度は手元に譜面を置いて。

譜面はわからないけど拍は数えられるので目で追うだけでもと。


「うーむ。中々の名曲であった! えーっと次はThe Fairest of the Fair(美中の美)だな」


弘之はもう一度「星条旗よ永遠なれ」を聴きその余韻に浸ると、次の曲のスマホ検索へと取り掛かる。


「助けてぐぐる様」


と言うわけで長いので分けます♪


次回、美中の美


じゃーんけん、ぽん。うふふふふふふ♪

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