第39話 クラリネットのクラリス♪
小さなガラステーブルの上に置かれたクランポンR13。それをキラキラと目を輝かせながら眺めている弘之と琴映の2人。
「ねぇ、琴ちゃん。クラリネット組み立ててみてよ」
暫く2人して眺めていたのだが、完成状態を見てみたい弘之が琴映にクラリネットを組み立てる事を促す。
大抵の少年は合体ロボットや変形ロボットなどのメカニカルなモノが好きだが、弘之も例外ではなくワククして期待した目で琴映を見ている。
「うん、わかった。確かねー…」
弘之から期待の目で見られた琴映は少し照れながらもケースからクラリネットのパーツを取り出して、辿々しい手つきで組み立てを始めた。
ケースに仕舞われたクラリネットのパーツはベル・下管・上管・バレル(樽)・マウスピースとなっており、これを下から順番に組み立てて行くのが手順だ。
琴映は「うんしょ、うんしょ」と言いながらベルと下管を組む。独り言の言い方が弘之みたいなのは小さい頃から一緒にいたせいだろうか。
次に上管と下管を組む。
「この時に上管の2番目の穴が空いたトコ(リングキー)を押して、下管とジョイントするパーツを持ち上げるんだよー」
琴映は得意げにそう言って弘之に見せながら説明する。
「わー。凄いねー、合体ロボットみたいだね。」
弘之がそうやって時々ワクワクとした声で合いの手を入れるので、琴映は「えへへー、でしょ?でしょう?」とより一層得意げに組み立てる。
琴映はその後続けてバレル、マウスピースとくっつけると、両手を伸ばして組み上がったクラリネットを弘之の方に押し出して見せる。
「じゃじゃーん、完成♪クラリネットのクラリスだよ」
「クラリス?」
琴映の口からいきなり出てきた固有名詞がわからず首を傾げる弘之。
そんな弘之を見て直ぐに補足する琴映。
「あ、この楽器の名前ね♪可愛いでしょ?」
「うん、可愛いと思う」
弘之が褒めると琴映は気を良くして更にクラリスについて語り始める。
「あのねー、クラリスはねー…etc。でねー、クラリンとも迷ったんだけどー…etc」
クラリスの命名について語り始めた琴映、しかし弘之はまた頭の中で(変形ロボット・クラムボンとか時空戦隊・クラリンジャーとかがカッコイイなー)とか全く別の妄想していた。(あれクラムボンって何だっけ?かぷかぷ笑うやつか。変形ロボットがかぷかぷ笑ったら怖いな「変形ロボットのクラムボンはかぷかぷ笑ったよ」とか)
一通り語り終えたのかクラリネットを持ったまま天井を眺めて話していた琴映が笑顔で弘之の方を向き同意を求める。
耳から聴こえてきた言葉に対しての疑問と一緒に。
「略…なんだよー♪すっごく可愛いよねっ?で、何がかぷかぷ笑うの?」
「え?クラムボンでしょ…?」
「え?」
2人の間にしばしの沈黙が訪れる。
2秒程の沈黙のあと琴映はそっとクラリネットのクラリスをケースの上に置き、近くにあったくまモンのぬいぐるみを掴むとそれを振り上げる。
それを見た弘之が必死に弁解する。
「わ、わー。聞いてたよ。ちゃんと!ク、クラリス可愛いなー」
しかしまだ琴映の弘之を見る目はうろんげだ。
「あ、そうだ、吹いて見てよ。琴ちゃんの演奏聴きたいなーぁ♪」
弘之がなんとかこの危機を脱しようと咄嗟にそう言う。
すると琴映は「ホントに聴きたい?うへへー♪わかった」と機嫌をなおしてぬいぐるみを床に置きクラリネットを手に取る。
そのままそれを吹こうとマウスピースに口をつけるが、ふと気がついてクラリネットをケースに置く。
「あっ、リードつけるの忘れてたー♪」
琴映はそう楽しそうに言うとリードケースからヴァンドレン3半のリードを一枚だすと「ハム」っと口に加えながらケースに置いたクラリネットを取りマウスピースを外す。
そして外したマウスピースに「ハムハム」してたリードを付けると、リガチャーの金具を「クルクル」と言いながら回してそれをとめる。
まだ慣れないのか真剣な眼差しだ。
それが終わるとケースに置いた楽器を手に取り再びマウスピースを着けて、それを構え「じゃあ吹くね♪まだそんなに吹いてないから下手くそだけど気にしないでね」と言って曲を吹き始めた。
〜Amazing grace 〜
Amazing grace how sweet the sound
That saved a wretch like me.
I once was lost but now am found,
Was blind but now I see.
アメージング・グレース
何と美しい響きであろうか
私のような者までも救ってくださる
道を踏み外しさまよっていた私を
神は救い上げてくださり
今まで見えなかった神の恵みを
今は見出すことができる
※注)250年以上前の曲につき著作権外
初心者らしく拙(つたな)い演奏だが、その暖かな音色は弘之の心を打つ。
琴映の演奏が終わると曲の余韻が消えない様に小さな拍手を心からの笑顔でパチパチとする弘之。
演奏を終えた琴映は「えへへー、ちょっと間違えちゃった」と照れながら言ってクラリネットをケースの上に置く。
そんな琴映を見て弘之は「ううん。凄い良かったよ。琴ちゃんみたいにとっても優しくて暖かい音で」と褒める。
すらと琴映は何故か下を向いて「弘之ってバカでエッチでどうしようもないけど、そう言う所がズルいよね…」とボソボソっと口にした。
「え?なに?」
琴映の声が良く聞こえ無くて聞き返す弘之。
そんな弘之に琴映は「ありがとうって言ったの!」と今度は大きな声で言うと先程近くに置いた「くまモン」のぬいぐるみを掴んで投げた。
結局投げられたよ。くまモン…
続
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます