第22話 拉致事件発生!?
翌日教室に来ると琴映は既に席にいて友達とお喋りをしていた。
弘之が琴映を見ながら席につこうとすると、こちらに気付いたのか少し微笑みながらこちらに手を振って来た。
弘之が手を振り返すと琴映は1度小さく頷きまたお喋りに戻っていった。
「うん、大丈夫そうだな。」
琴映は今日は仮入に来そうな気がする。弘之はそう安心して朝の準備に入ろうとする。
ツンツン、ツンツン。
弘之が安心したのも束の間、後ろから誰かが突いてくる。
ツンツン。
いや、誰なのかは分かっている…そして何を言いたいのかも…
弘之はその後の対応を考えると、とても面倒になり、無視して机に頬杖をついてボーッと黒板を見ていた「早く先生来ないかな」とでも言いたそうだ。
ツンツン、ツンツン。
ガシガシ、ドンドン…
「痛い痛い、何だよ?」最後の方は拳だろ…?拳、ダメ、ゼッタイ。
無視を決めこんだ弘之だが、後ろからドンドンと拳で叩かれ仕方が無く振り返る。
するとやはり、後ろの席にいる拓郎がニッコリと破顔してこちらを見ていた。
「弘之と伊達さんはどう言う関係なのかなーぁ?」
満面の笑み。そう、信じられない程の満面の笑みで予測と全く同じ内容を聞いて来た拓郎。
「何でも無いよ…タダの幼馴染だから…。そう聞かれると分かってたから振り向きたく無かったのに…」
恨みがましい目で拓郎を見ながら、面倒くさそうにそう言うと直ぐに前に向き直る弘之。
「その幼馴染ってとこを詳しく教えてくれないかなーぁ?」
すると拓郎はいつの間にかすすーっと横に来ていて相変わらずニッコリとしながら詳細を求めて来た。
そのニコニコ顔が逆に怖いんだけど…。
目は全く笑ってないし…。
「だからタダの幼馴染だっ…て」
弘之が最後まで言い終える寸前でガラガラとドアが開き、担任の鈴木(あれ?田中だっけ佐藤だっけ?)が入って来る。
すると拓郎は「ちっ、惜しいなぁ」と言いながら仕方なく席に戻って行ったのだった。
「鈴木(田中?佐藤?)先生ナイス!」
弘之が呟くと「橋本君、何がナイスなのよ?」と先生に言われてしまった…。
さっきまでザワザワとしていた教室は先生が入って来たことにより、静かになっており、思いの外、弘之の独り言が通ってしまったみたいだ。
クラス中の視線を一身に集めた弘之が「アハハ、何でも無いです…」と照れたように頭をかきながら、後ろを振り向き拓郎を「ぐむむ」と眉根を寄せて見ると、拓郎に両眼を大きく開き「へへーん」っといった小馬鹿にした様な顔で返された…。
く、くやぴー
鈴木先生は一つため息を吐くと「まあいいわ、出席を取るわよ。赤間…芦田…石井…」と言って出席を取り始め、朝のホームルームを始めた。
そんな1日の始まりから、授業・休み時間と拓郎からの追求をかわしてる内に放課後がやって来た。
ま、実際タダの幼馴染である事に違いは無いのでどのように追求されようと何も出ては来ないのだが…。
さぁ楽しい放課後である!
待ちに待った放課後。
「今日も楽しくとろん、ぼーーんを吹くぞー!」っと意気揚々とカバンを持ち席を立つ弘之。
すると、席を立った瞬間、拓郎に「よしっ、じゃあ一緒に行こうかー」っとまたもニッコリ笑顔でガシッと肩を掴まれた。
拓郎…そんなんしなくても逃げないから…そんなに一緒に行きたいのかー。仕方がないなー。
そんなこんなで教室を出る2人。
弘之が教室の出口付近で琴映を見ると何やら楽しそうにお喋りしていた。
「サッカー部のー〇〇先輩がぁー。カッコよくてー…。」
「だよねー…」
「琴映は今日も行くでしょー?」
教室を出る際に何やら不穏な会話が聞こえてきた様な…
そんな会話は気のせいだと、意識的に思い込みつつも教室を出てしばらく拓郎と話しながら歩いていた弘之。
階段を上がってあと少しで音楽室…っといった所で急にシャツの後ろの所をグッっと誰かに掴まれた…
「にゃ?」
驚きながらもゆっくりと恐る恐る後ろを振り向く弘之…
ギギギギ
何とそこにはメリーさんが…
じゃ無くて、紺の上着に黒のハカマを履き、肩に竹刀を持って、朝の拓郎の様に目が全く笑ってないニコニコ顔で立つ弘之の兄がいた。
その後に30人程の同様にして立つ剣道部員達を従えて…。
弘之は拓郎に助けを求めようとして顔をゆっくりと前に戻す。
すると直ぐ近くにいた筈の拓郎はそこにはおらず、いつの間にか先にいて、逃げる様に音楽室のドアを開けて駆け込んでいるのが見えた…
教室でのやり取りは何だったのか…。
「う、裏切り者ーーっ!!」
既に視界に拓郎の姿はなく、ただ一人、剣道部員に囲まれた弘之の声だけがコンクリートの良く反響する廊下に響いた。
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