『ご縁があったら、またいつか』❺


 それから、ほとんど毎日、私は公園に通った。そして、会話を重ねるごとにタクとの距離は縮まっていった。


 そんなある日、タクは私に相談をしてきた。


「あのさ、俺の妹も俺と同じように色覚障がいをもってるのは知ってるよな」

「うん、この前話してた彩美ちゃんでしょ? 今、小学四年生だっけ?」

「そうそう。俺は一度アイツに、『自分で色を創造する』ように言ったんだ。けどな、どうも本人、苦戦してるみたいなんだよな。ハナはなんでだと思う?」


 ううーん、と私は大袈裟に首を傾げた。以前から、何度も彩美ちゃんのことは聞いていた。その中で、私が感じたのは彩美ちゃんは物事の本質を大切にしている子なんだということ。それから、自分が正しいと思ったことはきちんとそう主張できること。


 しかしその半面、物の見方が一方的である可能性が高い。


 私はそのことを踏まえて、自分の想像を伝えた。


「多分さ、色が見えることが必ずしも良いことだとは思っていないんじゃないかなぁ」


 タクは目を見開いた。


「なんていうか、『色よりももっと大切なものがある』って信じちゃってて、まだ心から『色をつくりたい』って思えてないんじゃない?」


 タクはしばらく、じっと考えた後「そうかもしれない!」と納得した様子だった。


「いやー、やっぱりハナに聞いておいて良かった! ありがとなー」

 そう言って嬉しそうに笑うタクを見て、思う。



 私、タクのことが好きだよ。



 今まで何度も伝えようと思ったけど、言葉にしようとすると、どうしても喉の奥の方でつっかえてしまうのだ。


 それは多分、余命2年という厳しい現実が私の目の前で横たわっているから。


 それさえなければ、気負いなく告白できた。



 悔しかった。


 今まで、そんなに『死ぬのが怖い』と思わなかった。なぜなら、病院で沢山の人が死んでいくのを見ていたから。死は、私にとって日常だったから。


 けれど、ここに来て初めて、死ぬのが怖くて、悔しくて、悲しくて、苦しくなった。




 タク。



 私、死にたくない。


 もっとあなたと話したい。


 一緒にいたい。






 けれど、その日の夜。私の強い思いとは反対に、私の病気はどんどん悪化していることが判明した。


 病院での検査結果が、良くなかったのである。医者は「夏休みが明けたら、学校に通うのは控えてください。可能であれば、○○大学病院へ入院をするべきだと思います」と冷酷に告げた。


 それは、私に残された時間が短くなっていることを示していた。


 私は死ぬ直前まで学校に、皆と同じように通っていたかった。しかし、こればかりは両親も認めず、私は入院せざるを得なかったのだ。



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