『ご縁があったら、またいつか』❷


 両親は、私のためなら何でもするということで、すぐに色野さんの学校を調べて転入手続きをした。幸い、今住んでいる家からさほど離れていない学校だったので、引っ越しをせずとも通う許可をもらうことができた。


 先生に事情を話しておいたこともあり、色野さんとは同じクラスに……しかも隣の席にまでなることができた。


 本当はお話をしたいのだが、学校となると周りの目があるからやはり話しづらい。


 しかも、色野さんは色んな人と仲が良く、いわゆる「リーダー的存在」で私が近寄る隙がなかった。


「むむむ……」

 と私が一人唸っているところに、担任の先生がやってきた。


倉橋くらはしー、お前、部活何か入るのか?」

「部活、ですか?」

「ああ。一応、ここの学校では部活参加が強制されているんだ。だけど、事情がある場合は例外とされているから、無理に入らなくてもいいんだが……」


 色野さんと関わることだけを考えていたので、自分の生活、ましてや部活なんて考えてもいなかった。しかし、出来ることならば普通の人と同じように生活をしたい。


「……何の部活があるかわかりますか?」

 と私が聞くと、先生はあらかじめ用意していたのであろう「部活一覧表」というプリントを渡してきた。


「ここに載ってあるのが全部だ。ちなみに、運動部はマネージャーも可能だから、あまり負担をかけないでも入部できる」


 今月中ならいつでもいいから、ゆっくり考えなさい。そう言って、先生は去っていった。



 私はすぐにプリントに目を通した。


 ご丁寧に部員数や、練習日程、大会成績なども書いてあり、わかりやすい。


 なんとなくザッと見ていたが、『美術部』という文字を見た途端、私の思考は止まった。



 ……これだ。



 友達がいなかった私が、唯一仲良く遊んだ人。私のおじいちゃん。

 そのおじいちゃんが教えてくれた水彩画の描き方。



 私の特技。


 このとき、私の残された時間にやりたいことが一つ増えた。



 私にしか描けない絵を、描く。




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