現在
ニュースのアナウンサーたちは、淡々と事実を伝えていく。
「昨日、作家の
画面が、師匠の家の映像に変わる。
「おととい午前十時頃、作家色野さんの家の窓が割れていると、近隣に住む男性から通報があり、警察が駆け付けたところ、色野さんが部屋の中で、複数の箇所に小型ナイフで刺された状態で倒れているのが発見されました」
警察と立ち入り禁止のテープがアップで映しだされる。
「その後、色野さんは病院に搬送されましたが、死亡。警察は、犯人の行方を追い、昨日、容疑者を逮捕しました」
若い女の人の写真が出る。
「逮捕されたのは、二十三歳の色野さんのマネージャー、
私はテレビの電源を切った。
あのあと、私はショックで気絶してしまったらしく病院に運ばれた。目を覚ましたのは昨日の朝で、父さんと母さんが泣いて私に抱きついてきた。
が、私は何も感じなかった。ただ、ああ、師匠は殺されたんだな、とぼーっとしていた。
涙は出なかった。
よくよく考えれば、出会ってからの時間は長いかもしれないが、実際に師匠と過ごした時間は一年にも満たない。だからってわけじゃないけど……泣かなかった。
師匠の葬式は身内だけで行われたらしい。
ひとことも別れを告げられなかったなぁ……。
それだけが大きな後悔であり、泣いて悲しむことよりもよっぽど辛い気がした。
部屋にこもっていると、ドアがノックされ母さんが入ってきた。
「これ、彩美宛てに。誰からかは、書いてないのだけど」
と言って、手紙を渡してくれた。
その手紙を見て、ハッとした。文字の形に、見覚えがあった。
「母さん、ちょっとひとりにさせて」
師匠からだ。
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