概要
時は天保。処は江戸の北の端、千住宿。飢饉も悪政もなんのその、人は逞しく生きて、恋をする。
※「残酷な描写」「暴力の描写」「性的な描写」全てございます。
江戸の時世では『普通』だったことを『普通』として書いておりますので、そのお心づもりでご覧くださいませ。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!下町風情の溢れる人情物。恋愛物、一種の道徳本。
宮部みゆき先生の時代小説、深川シリーズを思い起こす文章。
江戸の下町を舞台にするだけでなく、人情物的な進め方をする一方、決してご都合主義には甘んじない。馬鹿な奴は幸せになれぬ、と言うか世間の理を曲げることなく、筋を貫いた点に好感を持ちました。そこが宮部作品群に通底すると思う。
私自身は深川にも千住にも住んだ事が無い。住民性に関しては不案内なのだが、話は変わって、何故か個人タクシーの運転手には千住近辺にお住いの方が多い。あなたも街中で観察すれば、足立ナンバーの多さを確認できるだろう。
まぁ、私が知ってるのは、深夜営業の残業や接待帰りの客を相手するタクシー。2000年前後に「居酒屋タクシー」と呼…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ちょっとそこのお兄さん、試しに読んでいかないかい?
本作は時代小説のようであって、時代小説ではない。強いて言うならば、江戸時代を舞台にした出会いの物語だろうか。
そう、まったく異質な二人の男女が出会う。それが偶然、江戸だったというだけ。
ただし、しっかり時代考証された舞台は、現代とはちがう価値観があり、命の軽い時代だからこそ、その大切さが際立つ。
妙に現代的なカップルが出て来たと思えば、いまの時代の人には描きづらい大器の殿様が登場したりと、キャラクターの幅も広い。だがやはり白眉は、現代人には皆無と思える、相模の骨太なキャラクターであろうか。
時代劇のように型には嵌まらず、かといって好き勝手するわけでもなく、そのくせ美味しいとこ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!過去を背負い、罪を背負い、仲間を背負う咎人が居た。
江戸末期、悪名高き『天保の改革』が背景に色濃く描かれた千住。
えっ、この時期を舞台にしちゃうの!? すごくない?
非常に難しい時代背景です。
江戸は江戸でも、中期くらいの安定した時代にすればもっと楽に書けたはず。有名どころの時代小説もその時期が多いのに。
あるいは、もう少し後の黒船だ尊王攘夷だので倒幕される激動の時代なら人気が出やすいのに。
でも、あえて天保の改革。
老中・水野忠邦が失政した時代。
改革のうねりに巻き込まれるようにして、失踪した武士の兄。
兄を探しに江戸へ旅立った妹。
右も左も判らぬ都会で、命を救ってくれた一人の男との出会い。
兄探しとともに明かされる水野忠邦との関連…続きを読む - ★★★ Excellent!!!恋は匂えど散りぬるを、それでも咲かせん江戸の花
舞台は天保時代、江戸の千住。
兄を探して遥々この地へとやってきたヒロイン・結衣は、危ういところを相模と名乗る男に助けられ、榮屋で働くことになり――というところから物語は始まります。
この相模がとにかくカッコイイ!
女性の目から見てももちろん、訳ありの男衆達からも人気があるのも頷ける問答無用の格好良さ。
飄々としていながら心にはしっかりと熱いものを持ち、怖そうに見えて誰よりも優しい彼の人柄に、結衣だけでなく私も惚れてしまいました。
また結衣という女性も素晴らしく魅力的。
健気で純真で無垢で、時に悩み時に言いたいことを言えずに立ち竦みますが、しっかりと芯の強さを秘めていてます。もどかしいま…続きを読む - ★★★ Excellent!!!タイトルに込められたひとつの思いを知るとき、胸の奥に確かな熱が芽生える
恥ずかしながら時代物の小説を読むのは初めてだったのですが、冒頭でのヒロイン結衣さんの危機とそれを救う相模さんの二度の出会いに引きつけられ、舞台となる榮屋とそこに出入りする人々を眺めているうちに、気づけば夢中で物語を追っていました。
物語が、よいです。
お兄さんを探しに田舎から出てきた結衣さんが、ひょんなことで奉公人として働くことになった旅籠と口入屋をかねた榮屋で頑張っていく、という親しみやすいお話に、自分を助けてくれた相模さんに対する恋心と、失踪したお兄さんに関わる大きな事件というふたつの流れが加わって、物語の続きへ、続きへと誘ってくれました。
健気な結衣さんと人情に溢れた相模さんをはじ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!人情あり、刃傷あり、背負うに痛く、腕に抱く、衣結びて、今日も生きる
レビュータイトルで、もう、私の言いたいことは凝縮してしまった感じだが、それだけでは味気なかろう。
忠邦、もとい、叩くにもってこいの木魚と誹られるわけにもいくまい。
そう、水野忠邦――時は、天保である。
大飢饉も、失政も。お上がどうであろうと、下々の者は、生きねばならぬ、食わねばならぬ。ままならぬ世の中にあって、逞しく、或いは。慎ましく。知が無くとも、血を吐こうとも、地に伏せようと、恥に泣こうとも。
童や生娘、芸者や商い人、果てはお侍からお殿様まで。
そんなご時世、そこかしこに描かれる生きる日々の触れ合いは、かすがいであり、縁を結び付けるものである。その生活臭、息遣いを、この…続きを読む - ★★★ Excellent!!!たくましく生きる人々の中で咲いた恋の花
突然失踪した兄を探しに江戸にやってきた結衣は、到着早々危険な目にあい、相模と名乗る男に助けられます。
泣き虫で、受難だらけの結衣が、口入屋の榮屋に身を寄せ、兄を探し続けるうちに、さまざまな人に出会い、事件に遭遇し、やがて、恋を知ります。
江戸の街の時代背景、活気、たくましく生きる人々の伊吹が伝わってくる、とても素晴らしい作品です。
その中で、とにかく結衣ちゃんのけなげさ、可憐さを、ひたすら応援したくなりました。
彼女の周りの人々も、とにかく個性の塊です。
しかし、まさか兄様とお奈津ちゃんが、ああいったお人柄だとは……。
どっかの二人みたいに苛々しないから、という台詞に思わ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!健気な少女の幸を願う。
江戸の天保年間、老中・水野忠邦の改革がたけなわのころ。
下総の出身である少女「結衣」は、叔父に連れられ江戸に行った兄を探しに千住まで来ますが、危ない目に遭う所を「榮屋」の相模なる男に助けられます。
さらにお結衣ちゃんの身の上はある事情で一転、榮屋に寄寓することに。彼女の眼を通して、榮屋はじめ周囲の人々の人間模様が描かれます。
めっぽう強いばかりか、何やら「訳アリ」な相模を始め、個性的な人物が絡み合い、やがて…。
読む者の鼻腔にまで江戸の香りと情緖が漂ってくるような、味わい深い文章で、男気、おきゃん、優しさ、強さだけではなく、人間の弱さやどうしようもなさも余すところなく描かれています。…続きを読む - ★★★ Excellent!!!咎無くして死するか、咎を負いても生くるか。大川の畔に仇花は咲き乱れる。
江戸時代も後期になると、あちこちの沖合に外国船の姿がちらつき、
町人文化が爛熟する一方で、幕府財政の破綻が深刻化し始めている。
作中で「妖怪爺」と渾名された老中の土井利位《どい・としつら》は、
大坂在任中に大塩平八郎の乱の鎮圧に功績のあった遣り手の政治家だ。
大塩の乱は、天保の大飢饉による庶民の窮状を顧みない幕府に対し、
与力の大塩が決起したものだ。その鎮圧を成した土井は何を思ったか。
いきなり話が変な方向へ行ってしまったが、
本作はそんな天保年間、改革の世を背景に、
大江戸八百八町の隅にある宿場、北千住で
逞しくも粋に生き抜く人々を描いた作品だ。
結衣は、失踪した兄を捜す為、江戸の…続きを読む