ちょっとそこのお兄さん、試しに読んでいかないかい?

 本作は時代小説のようであって、時代小説ではない。強いて言うならば、江戸時代を舞台にした出会いの物語だろうか。
 そう、まったく異質な二人の男女が出会う。それが偶然、江戸だったというだけ。

 ただし、しっかり時代考証された舞台は、現代とはちがう価値観があり、命の軽い時代だからこそ、その大切さが際立つ。

 妙に現代的なカップルが出て来たと思えば、いまの時代の人には描きづらい大器の殿様が登場したりと、キャラクターの幅も広い。だがやはり白眉は、現代人には皆無と思える、相模の骨太なキャラクターであろうか。

 時代劇のように型には嵌まらず、かといって好き勝手するわけでもなく、そのくせ美味しいところは持ってゆく。そんな本作の中心に一本通る筋とは、生きること。生きていたいと強く願う結衣の想い。

 こうゆう書き方もあるのだな、と本作を読んでひとつ、首肯した。

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