撫子踏まずに焔を背負え

作者 秋保千代子

92

32人が評価しました

★で称える

レビューを書く

★★★ Excellent!!!

 レビュータイトルで、もう、私の言いたいことは凝縮してしまった感じだが、それだけでは味気なかろう。
 忠邦、もとい、叩くにもってこいの木魚と誹られるわけにもいくまい。

 そう、水野忠邦――時は、天保である。

 大飢饉も、失政も。お上がどうであろうと、下々の者は、生きねばならぬ、食わねばならぬ。ままならぬ世の中にあって、逞しく、或いは。慎ましく。知が無くとも、血を吐こうとも、地に伏せようと、恥に泣こうとも。
 童や生娘、芸者や商い人、果てはお侍からお殿様まで。

 そんなご時世、そこかしこに描かれる生きる日々の触れ合いは、かすがいであり、縁を結び付けるものである。その生活臭、息遣いを、この作品から感じ取ることが出来る。

 膝を打つのが、人間模様だ。
 国家を論ずるも良い。大局を憂うも良い。愛に殉ずるも良い。
 聴き心地の良い、見栄えの良い、大輪の花を、誰もが夢想する。

 だが、しかし。
 ふと、足下に咲き、小さな花を愛でても良い。
 撫子には、早咲きと遅咲きがあるのだそうだ。

 早咲きは結衣、遅咲きは相模であろうか。
 この二人の抱擁に思うことは。
 人は、顔を上げ、前を向き、歩みを進める生き物であり、しかし、その背に負うものを捨てることもまた、出来ぬ生き物であるということだ。
 誰かを抱き締める、という触れ合いは、その背に負う過去、その人生を受け止める行為ではないだろうか。

 さてに、さてはと、お立ち会い。
 江戸は千住、榮屋、縁の結び目。
 誰もが何かを背負いし人情絵巻。
 これを読まずに、何を負う?

★★★ Excellent!!!

喧嘩が強くて男前の口入れ屋、相模。
兄を探して江戸に来た、田舎娘のお結衣。
ひどい目に合いそうになるし、探していた兄は大変な事になってるし……
同僚はクセのある人ばかり、裏のある人だらけ!
目に涙を浮かべながらも踏ん張るお結衣を応援したくなる。
何と言っても相模がカッコイイので、和物好きさんだけでなくイケメン好きにもオススメです。

★★★ Excellent!!!

 突然失踪した兄を探しに江戸にやってきた結衣は、到着早々危険な目にあい、相模と名乗る男に助けられます。
 泣き虫で、受難だらけの結衣が、口入屋の榮屋に身を寄せ、兄を探し続けるうちに、さまざまな人に出会い、事件に遭遇し、やがて、恋を知ります。


 江戸の街の時代背景、活気、たくましく生きる人々の伊吹が伝わってくる、とても素晴らしい作品です。

 その中で、とにかく結衣ちゃんのけなげさ、可憐さを、ひたすら応援したくなりました。
 彼女の周りの人々も、とにかく個性の塊です。
 しかし、まさか兄様とお奈津ちゃんが、ああいったお人柄だとは……。
 どっかの二人みたいに苛々しないから、という台詞に思わずうんうんとうなずいてしまいました。

 そして、相模さんの芯の通った男前っぷりに顔が緩みっぱなしです。
 とても素敵です。
 これかの彼らが、幸せであらんことを願ってやみません。

★★★ Excellent!!!

 江戸の天保年間、老中・水野忠邦の改革がたけなわのころ。
 下総の出身である少女「結衣」は、叔父に連れられ江戸に行った兄を探しに千住まで来ますが、危ない目に遭う所を「榮屋」の相模なる男に助けられます。
さらにお結衣ちゃんの身の上はある事情で一転、榮屋に寄寓することに。彼女の眼を通して、榮屋はじめ周囲の人々の人間模様が描かれます。
めっぽう強いばかりか、何やら「訳アリ」な相模を始め、個性的な人物が絡み合い、やがて…。

 読む者の鼻腔にまで江戸の香りと情緖が漂ってくるような、味わい深い文章で、男気、おきゃん、優しさ、強さだけではなく、人間の弱さやどうしようもなさも余すところなく描かれています。

 結衣ちゃんが可愛いです、どうか幸せになっておくれ。相模さんのカッコ良さは言うを俟たず。

 中盤から終盤はハラハラ・ドキドキさせられますが、最後はさっと粋に締められ、余韻が残ります。

 そして、天保ということは、幕末・明治維新まであと少し。激動の時代でもここの人達はきっと逞しく生きていくんだろうなと、物語が終わった後にも思いを馳せ、またこのような良き時代小説、心が満たされるような物語に巡り会いたいと願うのでありました。

★★★ Excellent!!!

江戸時代も後期になると、あちこちの沖合に外国船の姿がちらつき、
町人文化が爛熟する一方で、幕府財政の破綻が深刻化し始めている。

作中で「妖怪爺」と渾名された老中の土井利位《どい・としつら》は、
大坂在任中に大塩平八郎の乱の鎮圧に功績のあった遣り手の政治家だ。

大塩の乱は、天保の大飢饉による庶民の窮状を顧みない幕府に対し、
与力の大塩が決起したものだ。その鎮圧を成した土井は何を思ったか。

いきなり話が変な方向へ行ってしまったが、
本作はそんな天保年間、改革の世を背景に、
大江戸八百八町の隅にある宿場、北千住で
逞しくも粋に生き抜く人々を描いた作品だ。

結衣は、失踪した兄を捜す為、江戸の入口である北千住へやって来た。
偶然から、栄屋の相模という男の世話になり、兄捜しの協力も得る。
結衣の兄は老中の土井に才覚を見出され、召し抱えられたのだが、
唐突に行方をくらました。同僚の近野や恋人の奈津も彼を捜していた。

訳ありの口入屋、栄屋に集う面々の力強く洒脱な人柄に心を惹かれる。
皆、一度は踏み外した道を、脛にキズを持つ脚でしっかり歩んでいる。
中でも、相模という男。極悪人と名乗りながら、何て温かいんだろう。
ふんどし一丁で奔走する入墨男たちのむさ苦たのしさも、すごくいい。

儘ならない世の中で「正しさ」とは何なのか。誰の為のものなのか。
結衣は、悔しさや理不尽やすれ違いに泣きべそをかきながら前を向く。

身の丈に合った幸せを見付け出すのは、きっと、とても難しいことだ。
背負い込んだ咎こそが、或いは、幸せの在処を照らすのかもしれない。

★★★ Excellent!!!

こ、これが江戸っ子……なんて粋なんだ!!と、思わずその生き方を真似したくなってしまうような素敵な作品です(でも絶対真似できない)。
軸は恋愛に置かれていますが、んもーー、義理と人情の江戸っ子たちのかっこいいことかっこいいこと。
そしてそれだけではない、人間のどうしようもなさもしっかり描かれていて、読後に深い余韻を残してくれます。
みんないろんなものを抱えて、それでも生きていく。
最後は顔を上げて歩き出したくなる、力強い物語です。

★★★ Excellent!!!

舞台は江戸、千住宿。
これだけで「私時代劇嫌いor苦手だし~」という人は敬遠するかも知れない。
でも、そんな人にも是非読んで欲しい。読まなきゃ損するよ!

行方不明になった兄を捜して江戸に出て来た結衣。彼女は泣き虫で、ちょっとしたことにもすぐ涙をぽろぽろ零すけれど、それは心が優しく温かい情に厚いからだろう。
そんな結衣が危険な目に遭っているところを助けてくれたのが、ちょっと訳ありの口入れ屋の男相模。
結衣は相模の下で炊事などをして働きながら兄の行方を捜すことに。
相模のいる榮屋に出入りするのはやはりちょっと訳ありで、強面な男達が殆ど。初めは怯えていた結衣も彼等の優しさや気の良さに触れ、次第に慣れて気さくに接するようになっていく。

登場人物達の誰もが活き活きとしていて、情景が目に浮かぶようです。
主人公達は有名なお奉行様でもお忍びの将軍様でも縮緬問屋のご隠居でもなく、市井に暮らす人々だけれど、それがまたいい。

時代劇や時代小説を読んで目が肥えた人でも楽しめるだろうし、
普段そういうのはまったく読まない人も、結衣というひとりの年頃の女の子の物語として楽しめると思います。

★★★ Excellent!!!

江戸と聞いて、時代モノの好きな私は読み始めました。
設定としては入り込みやすい、兄を探す旅の途上。

そこで出会う、様々な出来事と、人物。
それを軸に、物語は旋回する。
その面白いことはまず読めば分かるのでここではあえて言わぬが、特に目に止まったのは、人物、描写、背景が、実に巧みに、寄せ木細工のように組み立てられ、一つの造形を成していることであった。

繊細な心理描写は、触れれば壊れそうな硝子細工のようで、勢いづいたシーンにおいてそれは岩を鑿でもって削り込んだようになる。普段の会話の軽妙なやり取りは、街の職人の造る竹細工のように、日常的。

さまざまな、それらの手工品が並ぶ店先を、ちょっと覗くような楽しみ。
その店内深くにまで入り込めば、びっくりするような掘り出し物がある。
そんな期待に胸躍る感覚に似た気持ちで、ページをめくれる秀作です。

江戸の情緒に溢れたこれらの手工品、好きなものを手に取って、是非眺めてみてほしい。
楽しめます。

★★★ Excellent!!!

時は天保――、天保といえば、大飢饉が国を恐れ戦かせていた時代。
そんな激動の時代に生き抜く、江戸下町の人びとの粋をぎゅうっと詰め込んだ、魅力溢れる物語がこちら。

失踪した兄を探すため、結衣は江戸を訪れる。しかし、協力者だと思っていた叔父は、実は彼女を売り飛ばそうと画策していて――?

そんなときに、飄々と現れた男――、相模。
煙草の灰がとん、と落ちる時、彼の腕が振るわれる。
それは武だけではない。人情味溢れる彼の周りには、多くのワケアリ連中が自然と集まり、悲喜交々が交錯する。
彼らが織りなす物語は、ときに心をきゅっと締め付け、ときに心をふんわりと安らがせる。

物語は、天保ならではのシリアスさも孕みながら、どんどんと転がっている最中。
私たちも、結衣と共にその結末を最後まで追いかけていきたい。

2018/1/8追記
完結に寄せて。
最後まではらはらどきどき、どんでん返しの連続に、胸が締め付けられ、そして熱くなる。
愛情。痴情。激情。すべての感情を綯い交ぜにして、物語は辿り着く。
大団円に、胸がすく。是非、多くの方に堪能して欲しい。

★★★ Excellent!!!

兄を探すために江戸までやってきた、結衣。
危ない目にあう彼女を助けてくれたのは、南千住界隈で慕われ、怖れられる一癖も二癖もある男、相模。
果たして兄は見つかるのか? 兄が失踪した目的とは?
そして結衣は、江戸での暮らしの中で何をみつけ、これからの人生をどう決意していくのか。



もうとにかく、地の文、会話から匂い立つような江戸情緒が素晴らしい。
相模を初めとする江戸で生きる人たちの、粋な姿が格好良いい。
生き生きとした、江戸での暮らしが、まるでいまそこにあるようで。
気がつくと、その世界にどっぷり浸っていること間違いなし。

かと思えば、ストーリーはなかなかにシリアスでシビア。それでも、江戸の人たちはきっとその日その日を笑いながら、逞しく超えていくんだろうなと頼もしく思いながらも、でもやっぱり今よりも民衆は生も性も軽い時代。どうなるのか、はらはらしっぱなしで、続きが気になって止まらなくなります。

個人的には、結衣ちゃんが想い人とこれからどうなっていくのか、とても気になります!

★★★ Excellent!!!


 会話でのやり取りが実にいい。
 健気で優しい主人公の感情がすんなりと入ってくるし、相手の反応もとても自然で、場面が変わってもシーンごとに作品世界をすんなりと楽しめる。

 また、地の文で情景をさりげなく補足し、目の前で起きている場面のように感じながら読み進められる。
 タグにもあるように、まるで時代劇をTVで観ているような感覚で、気楽に気持ち良く楽しめる作品です。

 置かれた状況が辛めのものでも、地道に、そしていつも通りに生きる主人公達の様子も所々で察せられ、それが作品世界を厚くし、リアル感あるエンタメと感じた。

 時代小説と意識することなく、作品世界の時代感に没入させてくれる作者さんの手腕には素直に脱帽です。

 ストーリーはこれから佳境にはいるのでしょう。

 きっと最後まで、読者を作品世界へ浸らせてくれるに違いありません。

★★★ Excellent!!!

 時代小説とといえば、人の機微。ちょっとした心の触れあいが丹念に描かれていると、江戸というある種のファンタジー空間との相乗効果もあいまって、素晴らしい輝きを発する。登場人物のわずかな喜怒哀楽が、読み手の心を揺るがす。

 千住を舞台としたこの物語では、心の動きが丹念に描かれていて、自然と引っ張り込まれてしまう。設定や時代考証も巧み。やわらかい文章も物語にマッチしている。時代小説が好きな人ならばするっと読んでいけるし、詳しくない人でも登場人物の心情に絞って読んでいけば、さして気にすることなく、先にいけるんじゃないだろうか。

 本当におもしろい。今は連載中なので、先が楽しみ。

 あと、登場人物の一人が本編中で、何度かある仕草をする。それが当人のキャラをよくあらわしているのに加えて、時代小説っぽくて、本当にかっここいですねえ。