精密に組み上げられた、情緒ある手工品

江戸と聞いて、時代モノの好きな私は読み始めました。
設定としては入り込みやすい、兄を探す旅の途上。

そこで出会う、様々な出来事と、人物。
それを軸に、物語は旋回する。
その面白いことはまず読めば分かるのでここではあえて言わぬが、特に目に止まったのは、人物、描写、背景が、実に巧みに、寄せ木細工のように組み立てられ、一つの造形を成していることであった。

繊細な心理描写は、触れれば壊れそうな硝子細工のようで、勢いづいたシーンにおいてそれは岩を鑿でもって削り込んだようになる。普段の会話の軽妙なやり取りは、街の職人の造る竹細工のように、日常的。

さまざまな、それらの手工品が並ぶ店先を、ちょっと覗くような楽しみ。
その店内深くにまで入り込めば、びっくりするような掘り出し物がある。
そんな期待に胸躍る感覚に似た気持ちで、ページをめくれる秀作です。

江戸の情緒に溢れたこれらの手工品、好きなものを手に取って、是非眺めてみてほしい。
楽しめます。

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