第三話 えっと、オールヌードをスケッチして良いという契約だと聞いてるんだけど……

 取り敢えず、同級生の片桐かたぎり 花楓かえでが、至急お金が必要な理由は判った。

 更に、沙耶香さやか女史が、また自分が生贄にされないように手を打ったコトも理解した。

 しかし、同級生の……しかも、禄に話をしたコトもない隣の席の美少女のヌードデッサンとか、冷静にできるだろうか?


「あのう……センセ?」

「ひゃいっ⁉」

「ど、どうされました?…センセ?」

「か、片桐さん……『先生』は、やめて!」

「じゃあ、わたしのコトも『可憐』でっ♡」

「わ、判った……か、可憐……で、なに?」

「えっと、センセ……じゃなくて、キメラ…さん?…のまんが、見せて貰えます?」

「えええっ⁉……お、俺のマンガを?」


「だって、これから……わ、わたしの裸を、それを元に…え、えっちなまんがを描くんでしょ?」


「言い方⁉」

「だったら、どんなまんがになるのか、知っておきたいじゃない!」

「ま、まあ……それは確かに一理あるか」

 俺は棚から唯一の自分の単行本を取って可憐に手渡した。


 受け取った単行本を捲っていた可憐が、濡れ場になった途端、ぱたん、と閉じて俺を睨んだ。

「す、すけ、スケベっ⁉」

「いや、マンガだしぃ(笑)」

「……ま、まあ……そ、そうだけどぉ?」

 もう一度、ちら、ちら、と濡れ場に目を落とした可憐が俺に視線を合わせずに言った。


「こ、こういうのって……モザイクが掛かってると思ったのに……も、モロ、じゃん……く、黒い線が二本くらい申し訳程度に掛かってるけどぉ……お、女の人も、男の人も……か、形が、わきゃる、って……はぅううっ⁉」


 舌を縺れさせた可憐が真っ赤になった。いや、真っ赤になったのは理由か?

 そうだった、モザイク対応されてる雑誌の方を見せれば良かった……とは、後の祭りだったが(笑)。

 それから、濡れ場が終わるまで読み終えた可憐が俺を、ちら、ちら、見て訊いた。


「こ、これ……ホントに本屋さんで売っても大丈夫なの?」


「一応、18歳以上なら買える筈だけど?……可憐ちゃんも欲しかったらネットでポチってくだされ(笑)」

「ポチらないわよぉ⁉」


「そ、それより……こ、ここまで……も、もも、もろ、彼女が居るなら、わたしのヌード、必要ある?」


「はいぃ?」

 俺は意味が判らず訊き返した。

「彼女とか、居ないけど?」

「じゃ、じゃあ、あの美人の編集者さん?」

「いや、何の話かわから……」

 その時、俺は気がついた。

「いや、はネットとかで拾ったを参考にして描いているんで……」


「ふ、ふ~ん……もしかしたら、この男の人って、センセを参考しにしてるのかしらぁ?」


 『先生』は止めてと言ったのにぃ!


「……………………の、ノーコメントでお願いします!」


「こんなにおっきいんだぁ♡」

 可憐が単行本を開いて見比べている。

「いや、みてるのさっ⁉」

おっきくなって、ない?」

「なってませんっ⁉」



 俺は話題を変える為に鹿爪らしい声をだした。


「えっと、オールヌードをスケッチして良いという契約だと聞いてるんだけど……全部、まるっと、見せて貰ってスケッチして良いという意味で……あ、合ってる、かな?」

「そ、そ、そうね……わ、わた、わたしも、そう聞いて、る……」

 しかし、可憐が慌てて付け足した。


「で、ででで、でも……あ、は……み、み、見せなくて…い、良いんでしょ?」


「あそこ?」


「だ、だから、判るでしょ?……お、お股の…お、奥の、方……あぅ!?」


 可憐が視線を泳がせて耳まで真っ赤になっている。

 可愛い(笑)。

「うん、は今回のお手当てに入って居ません(笑)」

「よ、良かった……はぅ!?」


「ただ、デッサンの補助的に写真も撮らせて貰うけど、それも了解済み、だよね?」

「う、うん……聞いてる、けどぉ…………あ、あとで…へ、変なコトに……つ、使わないでよねっ!」

…………って、可憐ちゃんの、エッチぃ!」


「ば、ばば、莫迦、ばか、バカ~~~っ⁉……モブのえっちぃ、スケベぇっ⁉……し、死んじゃえっ⁉」


 可憐が真っ赤になって、ぽか、ぽか、攻撃をしてきた。

 ヤバい、可愛過ぎるんだが(笑)。


 普段、学園では顔しか見せない(いや、そもそも会話とか殆どしたコトもない)彼女の、この距離感の近さは何故だっ!?

 しかも、俺には、夛茂たも 太夫たゆうという名前があるのだが、『夛茂たもくん』と呼ぶのは隣の席の可憐(いや、この場合『花楓かえで』さん)だけで、他のクラスの奴らは『茂夫もぶ』と呼びやがるのだが……。

 今、何気に『モブ』と呼び捨てにしてなかったか?


 まあ、可愛かったから、許す(笑)。


 俺はデスクの引き出しから一眼レフカメラを取りだして可憐に言った。

「先にポーズ等の確認をしながら写真を撮らせて貰うけど、良いかな?」

「うん……」

 視線を泳がせながら頷いた可憐だったが俺が取りだしたカメラを見て、ぎょっ、となった。

「えっ⁉……そんな凄い本格的なカメラで撮るのぉ?」

「そうだけど?」

「わひぃいいっ⁉」

 良く判らないが可憐が更に視線を泳がせて言った。


「えっと、もう……にゅぐ、う、うん…脱ぐの、かな?」



            【つづく】

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