第二十話 夕食後、キッチンを借りたいとお母さまにお願いしたら大騒ぎになった……な、何故よぉ!?

「おおぅ、83センチBカップのも棄てがたいっ♡」

「でしょ、でしょ、Bカップって、男にとって……感がイイらしいっすよっ♡」

「あ、あんまり褒められた感じがしないんだけどぅ!?……て、言うかぁ、なんでモブくんがあたしのサイズを知ってるのよっ!?」


 秀流ひずるの、ジト目、が痛いんですが?


 こ、ここは、あれだな?……休憩タイムだな?

 と、言っても烏龍茶しか、無いんだが?


 その時 ――

「お待たせしました~~っ!」

 と、オートロックの筈の玄関ドアを開けて勝手に入ってきたのは、二代目担当編集者の笹目ささめ 沙耶香さやか女史だった。

 いや、俺以外編集長しか持っていない鍵を、何故、お前が持ってるんだ。


 しかし、その手に提げた『ぷるぷる~ん』(有名洋菓子舗らしい)の紙袋を見て俺は、全てを許した……

 のだが ――


「きゃあああああっ!?」


 いきなりの乱入者に両手で胸を隠した秀流が悲鳴をあげた。


 その悲鳴に反応した沙耶香女史が、何と、その『ぷるぷる~ん』のケーキが入っているだろう紙袋を床に落とし(許すまじ!)、肩に掛けていたセカンドバッグから黒い異形の(笑)物体を取りだして俺に向かって突いてきたのだ。


 ―― スタンガンだっ⁉


 焦る俺の前に上半身裸の一栞いちかが立ち塞がる。

「何者よ、お退きっ!」

「あたしは、キメラ先生の信奉者であるっ!」


 そして、一栞は手にしたペンタブを、ブブブブブぅと唸りをあげるスタンガンに突き刺したのだ。


 ―― ガキぎゅガガがっ⁉


 不気味な擬音を発したスタンガンを沙耶香女史が取り落とす。

 いや、逆流(?)したのか、沙耶香女史は痺れたかのように硬直して、バタっ、とその場にくずおれた。


「い、一栞くん……こ、殺しはダメだよ?」

「スタンガンで死んだりしませんよ、はっはっはっはっはぁ!」

 不気味に笑って沙耶香女史を片手で摘まみあげた一栞は扉の外に放り投げたのだった。


 ―― ま、マジ、かっ⁉……、侮りがたし!


 そして、一栞は拾ったセカンドバッグと紙袋を俺に差しだす。

 俺としては『鍵』を回収したかったのだが、一緒に入っていた銀行の封筒に編集長の書き文字を見つけた。


 『これで、キメラくんにケーキでも差し入れてやってくれ』


 編集長おおおぅ、ありがとうございました~~~っ⁉ 沙耶香女史の屍を越えて俺はWマガジン社の星になりま~~~すぅ⁉


 そんなこんなで、無事だった『ぷるぷる~ん』の『カリカリバニラシュークリーム』を三人で美味しく戴きました……とさ(笑)。


          *


 明けて日曜日 ――

 俺は花楓に少しでも追い付くべく、『あかつきのエスペヒスモ』のレベルあげだ。

 いや、だって、折角『フレンド登録』したんだから、一緒に冒険をしたいじゃないか♡


 一方、その頃、片桐かたぎり 花楓かえでは……




   ■片桐 花楓 視点■


 明日は愈々いよいよ『お弁当デート』だ!

 モブちぃがどう思っているかは知らないけれど、【 明日は『お弁当デート』だ 】モ~~ン♡


 そして夕食後、キッチンを借りたいとお母さまにお願いしたらメイドたちを捲き込んでのになった……な、何故よぉ!?


 お父さままで私の顔を見にきたんだけどぉ?

 作るのは明日のお弁当の下準備で、お父さまの分はないのよぉ……と、言外に匂わせたら引きあげたんだけどぉ?

 悪いコトしたかしら?

 でも、料理担当のメイドを借りられたので……まあ、良しとしましょう。


 本当を言うと、モブちぃに作るお弁当は全部自分の手で作りたい。

 と、言っても、料理担当メイドの木嶋きじまさんの知識や技術力は得難いモノがあるのよね。


 それに、なんと言っても、男子を落とすならって諺にもあるんだしぃ!

 えっ?、あるよね?、ある筈、あるのぉ!?


 でもぉ、わたしには更に取って置きのがあるのよぉほほほほほほほほほほほほほぉん♡♡♡


          *


 そして、月曜日 ――

 昼休みは、待ちに待ったお弁当デートである(笑)。

 ん?…デート、で良いよね?

 花楓がどう思っているかは判らないけど、俺にとっては、デートだっ♡


 そんな訳で『漫研』の部室の机の上に三段の重箱が積まれていた。


「えっ、美味しいっ♡……この出汁だし巻き玉子、俺の好みの味だよぅ♡」


「ホントにぃ♡……こっちの唐揚げも自信作なのぉ、食べて、食べてぇ♡」


「や、ヤバい……全部、美味しいんだけどぅ♡」


          *


 前の晩、わたしはモブちぃの実家に電話した。


「わたくしは、『元祖味の本舗』の研究員の片ぎ…いえ、木嶋と申します?……お宅さまには高校生の息子さんはいらっしゃいますか?」

「高三ですが?」

「只今、高校生男子の味覚調査をしておりまして…」

「アンケート?……面倒ねえ…」

「お答え戴いたご家庭には、当社の食用油半年分を進呈させて戴いておりますが…」

「は、半年分っ!?……い、良いわよ、何でも訊いて頂戴っ!」


 そして、わたしはお母さまからモブちぃの味覚を、嗜好を、好みの味を、全て聞きだしたのである。


 お父さまにも作ってあげてるんだから……食用油半年分くらい、どうってコトないわよね?

 お父さまの会社で作ってるんだしぃ、売るほどあるんだしぃ(笑)。

 裏の会社の倉庫にも山と積まれてるんだしぃ(笑)。


 なんとしても、モブちぃの胃袋をゲットするわよぉ♡


            

            【つづく】

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