第十六話 ―― きゃあああああああっ⁉ 絹を引き裂くような悲鳴とはこのコトかっ?

 翌朝、花楓かえでからLINEがきていた。

 『毎週、月曜日のお昼でどうかしら?』という打診だった。

 俺は『了解』の返事と共に氷上ひかみにも空けて貰うように伝えておく、とLINEして登校したのだった。


 教室では軽く「おはよう」の挨拶だけの俺たちを貴澄きすみ胡乱うろんげな目で見てきたのだが(笑)。


 この女は、花楓の親友にして97センチHカップの〝きすみん〟こと鬼崎きざき 貴澄きすみだ。

 俺を揶揄からかって遊ぶ〝性悪女〟だ。


 そして、予想通り俺の首に両腕を廻してきたのだった。

 俺の背中で97センチHカップが、むにょん、と潰れた。

 今は時期的にブレザー着用の季節なのだが、わざ、わざ、ボタンを外してブラウス越しに、そのオッパイを押しつけてくるのだ。

 いや、まさか今朝はかっ⁉


 ―― ぽ、ぽっち、がぁうえおほおぅ⁉


 あ、朝ははイロイロ拙いんだがぁ⁉

 この後ホームルームなので立って全員で『礼』をしなければならない。

 俺がになるのを知っていて(今までも何度もやられた)愉しんでいるのだ。

 なのに……


「見ろよ、またモブが良い思いしてやがる!」

「モブの癖に許せねえっ!」

「俺たちの至高のオッパイを弄びやがって!」


 いや、幾つか間違ってるぞ。

 『お前たちの』オッパイじゃないから!

 『モブの癖に』って何だよ?

 俺は『良い思い』なんぞしていない!


 まあ、こいつらカースト最下層の野郎どもがどう思おうと気にしないが……

 何故、花楓が睨んでくるんだ?

 俺は〝いぢめ〟に合っているんだがっ⁉


 俺が嫌がっているのに気づいた貴澄が、更にを、ぐり、ぐり、と押しつけてくる。

「ひゃいっ⁉……ひゃめへぇ⁉」

 俺の悲鳴を聞いた花楓が、ふんっ、と鼻を鳴らしてあっちを向いたんだが?


 その時、教室の前の引き戸が開いて担任が入ってきた。

 ―― あ、アウト~~~っ⁉

 俺は、朝のホームルームを前屈みで過ごす羽目になったのだった。


          *


 そして、放課後 ――


 多分、放課後は『漫研』の部室でマンガを描いている筈の秀流ひずるに『毎週月曜の昼休み』の件を伝える為に遣ってきた。

 いつも通りノックもせずに、勢い良く部室の扉を開くと……


 ―― きゃあああああああっ⁉


 絹を引き裂くような悲鳴とはこのコトか……と言わんばかりの聞き覚えの無い女子の声が。

 慌てて扉を閉めたが秀流の他に知らない女子が見えた気がする。

 しかも、何故か、上半身裸だった……よう、な?


 俺はこの場を去る訳にもいかず閉じた扉に凭れ掛かって数分。

 室内から、がさ、ごそ、音が聞こえ、それが鎮まって……

「モブくん……いる?」

 控え目な秀流の声が聞こえた。

「お、おう……取り込み中に、悪かったな…」


「違うからっ!?」


 ソッコー駄目だしが(笑)。

「ま、まあ入って…紹介するから…」

 部屋の中に居たのはお下げ髪の小柄な美少女だった。

 勿論、制服はキチンと整えられていた。


「彼女は二回生で一文字いちもんじ 一栞いちかくん……入部を薦めている」

 次いで俺を見て続けた。

「彼が、もう一人の部員でモブ…じゃなかった……夛茂たもくん、あたしと同じ三回生だ」

「宜しく」

「こ、こちらこそ…」

 俺にと思ったからか、視線が泳いでいる(背中しか見てないけど)。


 それで、何故、上半身裸だったのかも説明が欲しいトコロだが。

 俺の無言の圧力を感じたのか、秀流が、ぽつ、ぽつ、と話し始めた。


「一栞には、モデルをやって貰っていた…」


 ヌードモデルとは言わなかったが、俺も改めて確認するようなコトはしない。


「もうじきコミティアがあって、そこに出展する作品の貰っていた…」


 うん、上手い表現だな。俺もいつか使わせて貰おう(笑)。

「コミティアと言うのはコミケみたいなモノ?」

 俺は同人誌は全てDLダウンロードサイトでのデジタルのみの販売で、コミケとか行ったコトがなかった(コミュ障だからじゃ無…ま、まあ良いか)。

「いや、コミティアはオリジナル作品だけの同人誌展示即売会だよ……規模もずっと小規模で3500サークルくらい、かな?」


(オッパイが見える同人誌の販売も可能か訊いてみたいトコロだが(笑))


「せ、先輩は『壁サークル』なんですよっ!」


 そこまで黙っていた一栞が自慢気に言った。

「『壁サークル』?」

 聞き慣れない言葉に秀流を見ると困ったような顔をした。

「ま、まあ、そこそこ大手サークルだという意味だ…」


「そこそこ、なんかじゃありません!…先輩は、百合エロのダントツのトップサークルなんですからっ!」


「こ、こら、まて、ストップ!」

 秀流が慌てて一栞を止める。

 何か、ワードが聞こえた気がするが?


「モブくん……じゃなかった夛茂くんはイベントには参加しない人なんだ……確か、デジタルオンリーだったよね?」

「へ~え…」

 一栞は突然全ての興味を失ったような顔をして俺を見た。

 顔だけでなくのある言葉も洩れ聞こえてきたのだが。


「なんか、キメラ先生のマネでもしてるんですかね?」


 編集部のHPホームページの俺(キメラ)の紹介ページにはDLサイトにてデビュー云々が記されている。

 いや、勿論、俺がキメラだというコトは秀流にも内緒にしているのだが。

 そんな一栞の言葉を聞いて秀流が困ったような顔をした。


「一栞は如月きさらぎ キメラきめら先生の大ファンでね」


「あの、おっぱい、は至高ですぅ♡」


(そ、そうなんだ……)

 俺は返事に窮したのだったが。



            【つづく】

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