第十五話 でもぉ、まだ、見せてないトコ、あるしぃ♡…………あわわ…わ、忘れてっ⁉

「いや、女子に電話したコトないしぃ……」

「ぷっ!…なにそれ~(笑)…ウケるぅ~(笑)」

「じゃあ、花楓かえでは男子に電話したコトあるのかよ?」


「さて、お昼休みも終わりだから帰りますか」


 ご、誤魔化したよな?……絶対、誤魔化したよなっ!



 秀流ひずるが空けてくれた『漫研』部室で、ちょい、デート気分を味わった俺は(いや、俺だけかも知れないが)花楓と時間差で教室に戻った。

 この時間差でってトコが、俺的にはかったが(笑)、それも俺だけかも知れない。

 先に戻っていた花楓は貴澄きすみと楽しそうにお喋りしていたしぃ(笑)。


 まあ、それでもその日の午後は、何故か、心配していた貴澄からのは無かったのだったが。

 ―― 不気味だ(笑)。


          *


 そんなこんなで午後の授業も無事終えてスタジオ(編集長が借りてくれたマンションだ)に戻った俺には、二つの難儀なミッションが待っていたのだが。


 一つは、言わずと知れたアイテム譲渡の為のフレンド登録の方法を調べるコトだ。

 『あかつきのエスペヒスモ』に限らないが、俺はスマホゲームは殆んど初心者だ。

 つまり、なのである(笑)。

 因みにエスペヒスモとはスペイン語で『蜃気楼』のコトだ。

 まさに俺にとって砂漠の蜃気楼である。

 取説のサイトをあっちへ行き、こっちへ戻り、漸く理解できた時には午後10時を廻っていた。


 本日二つ目の難儀なミッションが生涯初めての女子への電話である。

 午後10時はだろうか?


 大丈夫ではないような気がするが、万一待っていてくれたら申し訳ない……と勇気を振り絞って掛けました。

 しかし、コールが10回を越えてもでないんですけどぅ!?

 これ以上鳴らすのは不味くないかと思い始めたコール17回目。


「ごめんなさ~い、今お風呂からでたトコで髪を乾かしてたのぉ…」


 聞こえてきた声はどこか華やいでいるようでもあった。

「ドライヤー使いながらでも良い?」

「ど……ど、どうじょ……う、うん…どうぞ…」

「ね、わたしの格好、想像した?」

「ぱ、パジャマだろ?」


「ぶっぶー、バスタオル一枚でした♡」


「………………」

「想像、した?」

「し、してねーから!」


「ふふふ、ホントはパジャマでした(笑)」


「………………」

「因みにブラはしてません」

「………………」

「ぱんつは穿いてるけどぉ」

「………………」

「ね、想像した?」

「………………だ、誰かさんの裸は見飽きてるから~」

「い、言ってくれるじゃん!」

 花楓が拗ねた声をだした。


「でもぉ、まだ、見せてない、あるしぃ♡…………あわわ…わ、忘れてっ⁉」


 する花楓が可愛いしかないんですけどぅ(笑)。



 それから、無事アイテムの譲渡を終えた俺は、花楓とのお喋りを楽しんだ。


 学園での花楓からは想像できないお喋り好きな一面を知って楽しかった。

 まあ、可憐としての姿を見てはいたが、あれは【営業用の二次人格】かとも思っていたのだが……どうやら、こちらが彼女の本質らしかった。


 その後、花楓が改まった感じで言った。


「えっと、あのね……さっき戴いたの……その、お礼だけどぉ……な、なにか希望が……あ、あったり、する?」


「えっ!?……いや、いや、そんなつもりじゃなかったから……だいたい、ガチャ一回廻しただけだし……」

「むうううっ!?」

 花楓が面白くなさそうな声をだした。

 ま、まあ、そうだよな……失言だった(笑)。


「えっとぅ……」

 実は希望があるにはあった。

 さっきのお喋りでも花楓は『あかつきのエスペヒスモ』の楽しかった冒険について話してくれた。

 俺は、まだそこまで遊んでいなかっので、判らない話ばかりだった。

 だから、一緒に冒険ができたら……なんて思ったのだが。

 しかし、多分だがレベルが違い過ぎたら足手まといにしかならないし、逆に花楓が詰まらない思いをするだろうと気づいたら、言いだせなかった。


 俺が言葉にできずにいたら、花楓がこんな案をだしてきた。


「あのね、今日の漫研の部室って時々は使えたり、する?」

「うん、大丈夫だよ」

「えっと、氷上ひかみさんも、いつも居る?」

「いや、頼めば大丈夫だと思うけど……何か、あるの?」

 花楓が何を言いたいのか判らず俺は話を促した。


「え、えっと、ね……毎日とか無理だけど、週に一回くらい……お、お弁当を作って行くから……その、一緒に……た、食べない?」


「え!? それ、花楓が作ったお弁当?」

「う、うん…ま、まだ、あまり上手じゃな…」

 俺は花楓の言葉を遮って叫んでいた。

「食べたいっ!……すげー、食べたいっ!」

「そ、そそ、そんな期待されると…こ、困るんだけどぉ…」

「でも、マジ嬉しい♡」

「お、美味しくなくても…せ、責任とらない、からね?」

 ここまで言うってコトは美味しいに決まっている。


「じゃあ来週……あ、ごめん、お母さまが呼んでる…ちょっと待ってて…」


 『お母さま』ときましたよ(笑)。やはり、のお嬢さまなのね(笑)。

 そして、待つ程もなく電話口に怒りのオーラが(笑)。


「もお、『下らないお喋りしてないで早く寝なさい』って、小学生じゃないんだからっ!?」


「ま、まあ、長話をしちゃったね、ゴメン!」

「あ、モブちぃのセイじゃないから……わたしこそごめんなさい、詳しいコトはLINEするね」

「判った」

「じゃまた明日、学園で…お休みなさい♡」

「うん、お休みっ!」


 こうして俺の初ミッションは成功裏に終了しました、とさ(笑)。

 寝しなに女子の声で『お休みなさい』とか、ヤバい(笑)。

 未だ、ドキ、ドキ、してるんだが。

 眠れるだろうか?


 ―― はい、五分で夢の世界でした。



            【つづく】

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