第二十五話 三代目担当編集者は93センチGカップの無垢ビッチだった(笑)

「おい、今後、俺と花楓かえでに関わらない証拠に、そのティバックを寄越せっ!」

「はい、ご主人さまっ♡」

 何かが聞こえた気がしたが、貴澄きすみが素直に応じるようで、一先ず安心だ。


 そして、貴澄は頬を染めてショーツを脱ぐと両手で捧げるようにして差しだしてきた。

 それは、豹柄のだった。



 そのをポケットに押し込んで俺は『部活棟』に急いだ。

 今日は花楓との二回目の〝お弁当デート〟だ。

 ……なのだが、俺の足は段々重くなっていった。

 全てはあの『糞ビッチ』の所為だ。


 大事な、大事な、俺の宝物花楓とのキスの記憶が上書きされて消滅したのだ。




   ■片桐かたぎり 花楓かえで 視点■


 おっそいっ!?

 折角のモブちぃとの〝お弁当デート〟なのにぃ!?

 二回目で遅刻って、どゆコトよぉ!?

 愛情が足りないわよぉ!?

 わたしなんか、さ……昨夜ゆうべ木嶋きじまさんに教わりながら二時まで仕込みをして、今朝だって五時起きで眠いの堪えてお弁当作ってえっ……


「ああ、やっと来たあっ!?……おっそいぃ!?」

 ……って、どしたのっ!?

 モブちぃ、死にそうな顔してるっ!?

 やだあ、そんな不細工な顔しない、でよぉ……ま、まあ、元々イケメンじゃな……ま、まあね…な、並みの顔だ……

 か、顔のコトは、良いのぉ!?


 ま、まさか……〝きすみん〟に何かされたのかしら?

 最近、彼女ちょっと可変おかしいのよね!

 『カエちぃの為にも〆なきゃならない』とか、スケバン(ふ、古い)…いや、ヤンキー(ふ、古い)みたいなコト言うしぃ!?


「えっ?……なに?」

 モブちぃ……なにか言ってる?

「なに?……聞こえない?」

「……き、キス……し、したい…」

 声が小さくて良く聞き取れなかったけど、キスしたい、って言った?

「良いよ、いつでもシテ良いんだから、ね♡」

「でも、今日は仕事じゃないし……」


 ん?……お仕事以外で、わたしたちって……まだ、ちゅー、シテなかった?

 ……って、コトは?

 もしかして、これがホントの……ふぁ、ファーストキス、なのぉ!?

 ど、ど、どうしよっ!?

 き、緊張してきたあっ!?


 で、でもぉ……いっつも、わたしからシテるんだからね?

 写真の時だって、振り返ったわたしに、ちゅー、する設定でぇ……待ってたのにぃ、ヘタレなんだからあっ!?

 こないだのスタジオでの、ちゅー、のレッスンだってぇ……殆ど、わたしからシテたじゃないぃ!?


「きょ、今日くらい、モブちぃから…し、し…してっ♡」

 ……きゃ、きゃあ、きゃあ、きゃあああっ♡

 ち、ちゅー、のなんてぇ、恥ずかし過ぎるんだけどぉ♡




 ―― えっ、今のって……か、花楓からの……き、き、キスのオネダリっ!?


 よ、良し……か、覚悟を決めろっ!?

 男を(いや、おとこを)見せる時だぞっ!?

 い、いくぞっ!?……き、きき、キス、しちゃる、かりゃ、なあっ!?

 俺が肩を両手で掴んで〝キス待ち顔〟の花楓に唇を寄せた時 ――


 バタンっ、と部室のドアが開いて……

「うわっ、と、と、とっ⁉」

 そこに居たのは……〝チビ巨乳〟こと、お下げ髪の小柄な美少女(二回生の)一文字いちもんじ 一栞いちかと……

「だ、だから、止めなさいって、言ったでしょ⁉」

 〝氷の麗人〟という二つ名を持つ我が学園の漫研所属、いや部長の氷上ひかみ 秀流ひずるだった……


 良いんだ、知ってるよ……俺って役回りだよね(笑)。

 しかし、二人の乱入者が慌ただしく、ばた、ばた、と出ていった時 ――


 花楓が、ちゅっ、と啄むようなキスをくれたのだった。

(も、もぉ!?……次はモブちぃからシテよねっ♡)

 何やら呟く声も聞こえたような気がしたのだが?


          *


 そして放課後、俺は編集長に呼ばれてWマガジン編集部に遣ってきた。


 何でも俺の二代目担当編集者である笹目ささめ 沙耶香さやか女史が体調不良で一般誌の編集部に配置換えになったのだと言う。

 若干、自責の念に駆られもするが……まあ、彼女には、この部署アダルトマンガ編集部、は向いていなかったのだろう。


 そんな訳で、三代目担当編集者の一之江いちのえ 一縷いちる女史を紹介された。

 ソバージュ髪の美人さんだ。スタイルも大変宜しい(笑)。

 思わず、黒パンツスーツの胸元に目がいってしまう。


「93センチGカップです♡」


 空かさず情報開示戴きました(笑)。

 実は彼女はこのWマガジン編集部の副編集長でもあるらしい。

「キメラ先生には期待しているからね」

 と、編集長から言われたが、プレッシャーでしかない(笑)。


 一縷女史から名刺を戴き、改めてWマガジン編集部を見渡すとアダルトマンガ編集部にしては、何故、女性編集者が多いのだろうと思わずには居られない。いや、殆どが女性(十数人は居るぞ)で、男性は隅の方に二、三人しか見えない(まあ、外回り中かも知れないが)。

「女性が多いんですね」

 つい、訊いてしまったのだが、一縷女史から衝撃の事実が開示された。


「それは、全員編集長のだからです♡」


「………………ま、また、また、またあ……いや、そのピンクジョーク、面白くないですよ(笑)」

 と、編集長を見ると、あっち、を向いているんだが?

 ―― いや、マジかっ⁉ マジなのかっ!?

「わたしも、編集長に《女》にして戴きましたのよ♡」


「う、うん…」

 編集長が咳払いして話題を変えた。

「一縷くんの二つ名は〝無垢ビッチ〟と言ってね、ウチの雑誌の作家さんには好評だから、キメラ先生もお世話になると良いよ」


 いや、その二つ名からは、ヤバい雰囲気しか感じられないんですが?


 何でもの画像フォルダのレパートリーが半端ないとかで、更にその場で提供してくれるので、引く手数多あまただそうだ。


「あ、むら、むら、したら解消のお手伝いも致しますので、ご遠慮なくぅ♡」


「ああ、そこは駄目ですよ……キメラ先生は、貴重なで描く作家さんですから、ね(笑)」


 い、いや、その情報開示は嬉しくないんですがあっ!?


「しかも、とても美人の彼女さんも居ますしね♡」


 それを聞いた一縷女史、曰く。

「まああっ♡、それでは、その彼女さんとの初体験が済んだら、になりま~す(笑)」



            【つづく】

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