第二話 わたしだって、どうかしてると思うわよぅ……でも、あの編集さんに、とっても、と~っても、と~~~っても、シツコク勧誘されたのよぉ⁉

「こちらに御座おわしまするのが、まんが家の如月きさらぎ キメラきめら先生でございますわんっ♡」


 沙耶香さやか女史の芝居がかった紹介に花楓かえでが(いや、可憐かれんが ← メンドイので『可憐』で統一しよう。本人も「気軽に『可憐』と」呼べと言ってたし)退いている。


(な、なな、なんで……モブくん、じゃなくて夛茂たもくんが居るのよぅ!?)


「キメラ先生っ!……可憐さんなら、間違いなく先生の『どストライク』ですよねっ♡」


(ま、まあ、それは認めざるを得ない…)

 俺は可憐に、ちらっ、と視線を投げて頷くしかなかった。

 俺が頷くのが見えたからか、可憐が頬を染めて視線を逸らした。


(いや、単にモデルとして……あ、あくまでモデルとして……だから、ね)


 そんな俺の態度に気を良くした沙耶香女史がのたまったものだ。


「ですよね~♡……前回の轍を踏まないように、キメラ先生の秘蔵のDVDコレクションを拝見して、中でも『女子校生モノ』に度々登場するアダルト女優『比々野ひびの 妃莉ひまり』さんに酷似こくじのモデルさんを探しに探して、探し尽くしたんですモノぅ♡」


 !?


 色々トンデモ発言が聞き捨てならないんだけどぅ!?

 可憐もドン退きなんだけどぅ!

 て言うか、ジト目が痛いんだけどぅ!


 処が、爆弾だけ投下して沙耶香女史は澄まし顔で言ったものだ。


「それでは、わたしは次の打ち合わせがあるので、これで失礼します」

 更に、何かを可憐に手渡して言った。

「キメラ先生って、(わたしの時も)チキンだから手なんか出せないと思いますが、念の為、これを渡しておきますねっ!」

「ええっと⁉……なんです、これ?」

「スタンガンです……使い方は、こうして、こうです……後、遠慮なく110番通報してくださいねっ♡」


「「……………………」」


 可憐と俺のジト目を物ともせず、沙耶香女史はさっさと次の仕事へと向かったのだった。



 残された俺は……

 取り敢えず、可憐に…………いや、この場合は同級生の片桐かたぎり 花楓かえでさんにだ……訊かずには居られない。


「えっとぅ……片桐さん…」

「センセぇ……わたくしのコトは花棲かすみ 可憐かれんと、気軽に『可憐』とお呼びくださいマセぇ♡」」


 花楓が奇妙なイントネーションで、あくまでシラを切るつもりらしい。

 学園での澄ました花楓との落差に付いていけないんだが。

 あれか?……芸名(?)を名乗るコトで別人格を創っている?


「つまり、この怪しげなバイト(あるいは仕事)は学園に知られても問題ない……と?」


「あ、……って、なによぉ⁉」


「男の前で〝すっぽんぽん〟になるのがでないとぅ?」


「くっ⁉」

 花楓が何やら呻いて視線を逸らす。

「片桐さんって、結構良いトコのお嬢さんだと思ったんだけど……何か緊急にお金が必要なの?」

「うぐぅ⁉」


 ……っと、何やら再び呻いた花楓がポケットからスマホを取りだし少し操作してから俺に画面を見せた。

「えっ?……『あかつきのエスペヒスモ』?」

 それは、人気のスマホRPGだ。俺も最近遊び始めた。


「モブくん、じゃなくて夛茂くんもやってるんだ?……なら、これも知ってるでしょ?……期限限定でガチャでしか出ない『女神の純白ドレス』……しかも三着限定で、チャットを見るともう二着出てるのよぅ!」


 花楓が一気に捲くし立ててくるので負けそうなんだが(笑)。

「つまり、そのアイテムが欲しい……と?」

 迂闊うかつに訊いたら速攻で怒鳴り返された(笑)。


「欲しいわよっ⁉」


(しかし、それですっぽんぽんになるって、どうなんだ?)

 口にだしたつもりは無かったが、睨まれました。


「わたしだって、どうかしてると思うわよぅ……でも、あの編集さんに、とっても、と~っても、と~~~っても、シツコク勧誘されたのよぉ⁉」


「そ、それは、申し訳ないコトで……むにゃ、むにゃ…」

 俺にも沙耶香女史には言葉にできない不満むにゃ、むにゃはあって(笑)。


「…………そ、それにぃ…」

「それに?」

 何か言い難そうにしていた花楓が吹っ切るように言い放った。


「お、お手当てが……信じられないくらい、破格だったのぉ⁉」


(そ、そうなんだ……)

 詳細を訊くのはマナー違反だよな……と、思ったのだが花楓が、あっさり、喋っていた。


「わたしも、ヌードモデルなんてしたコトないけど……普通のモデル撮影が時間2,000円~3,000円くらい、水着モデルで時間5,000円~7,000円くらい……それが一時間30,000円って……」


「えっ!?……マジでっ!?」


「しかも、現役の女子高生か確認したいと言われて学生証を見せたら……」

「見せたら?」

「こんな有名ドコの現役女子高生なら、ウチの先生も大喜びだろうから、制服で来てくれたら、倍額出すって(笑)」

「は、はいぃ!?」

 花楓が俺を指差した。


「ウチのセンセっ♡」


「いや、いや、いや、『バカ』は付いてなかったのでは?」

 しかし、俺の反論を完スルーして花楓が続けた。


「でね、事務所の所長も流石にと思ったのね……『仕事内容は、本当にヌードデッサンですよね?……行為を強要される、なんてコトはありませんよね?……貴女のトコのような相手でも泣き寝入りなどしませんが、宜しいですねっ!?』って(笑)」


「そりゃあもう、しつこく確認してたら……その場で、ドン、と五時間分、三十万円ですって、テーブルに置かれたのよぉ(笑)……封筒がわよぉ!?」


(俺の原稿料、ページ5,000円なんだけどぅ(笑))



            【つづく】

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