第三十九話 涙が一滴、萌々の頬を、つうぅ ―――――― っ、と伝い落ちていった。ヤバい、激し過ぎたのか?……それとも、俺とキスするのが厭過ぎた、とか?

「ええと、ちょっと聞いてください……今日の予定ではなかったのですが、少し先のシーンをやりたいのですが、良いですか?」


「俺は構わないよ」

「どこかしら?」

「ここ、です」

 秀流ひずるが開いた下書きは……


 ―― キスシーンだった。




   ■百々生ももき 萌々もも 視点■


 嘘っ!?……き、キスシーンは予定に無かったじゃないっ!?

 無理、むり、ムリぃ~~~っ!?


 〝童貞キラー〟として数多あまたの男たちを捩じ伏せてきた、あ、あ、あたしが……絶対唇だけは許さなかったのにぃ!?


 思えば学園生の時、イケメンの生徒会長に口説かれて、、ヴァージンを捧げてしまった時だって……『唇だけは、将来の〝旦那さま〟の為に』、と拒んだのにぃ!?

 その後、『大学デビュー』の時に、、調子に乗って〝童貞キラー〟を語って(いえ、騙って)しまって…………ま、まあ、『数多の男たちを』ってのは…い、言い過ぎ、だけどぉ……片手から両手の間くらい、だしぃ(いえ、言うなら『片手』に、近い、って言うか……ほぼ、片手って言うか…)


 そ、それが…こ、こんなモブ顔の醜男非イケメンに、初ちゅー、をくれてやるだなんてぇ!?


「ええと、ひずポン先生…ふ、…振りで良いのよね?」


 そ、それとなく確認したら……


「おや、『お出来になりませんのぉ?』(笑)」


 こんの、醜男があ……『ち○び』の時のセリフを嗤いながら被せてきやがりましたんですがぁ!?


 まずい、まずい、マズイですわ~~~っ!?


 『ち○び』の時、(なんなら、絶対【童貞】の)この醜男キメラ先生を、おちょくるんじゃなかったですわっ!


 ―― はっ!?……ま、まさか、こんの醜男キメラのヤロウ……非 童貞っ!?


 し、しかも、見れば悠然とソファーに坐ったまま、わたくしに向かって…さ、逆手にした右手で(まるで格闘ゲームのカタキ役さながらに)、くいっ、くいっ、と挑発してきやがりましたんですがぁ!?


 ―― あ、あうちぃ!?……わたくしの、初ちゅー、はあああっ、風前の灯ぃいいいっ!?



 ―― わたくし、、その後の記憶が……記憶がございませんんのですわあああああっ!?



          *


「どした?……萌々?……百々生ももき 萌々もも女史?」

 何やら固まっている萌々に声を掛ける。


「萌々ちゃん?……どうかした?」

「萌々嬢?」


 秀流も一栞いちかも心配そうだ。

 俺が手を伸ばし、萌々の頬を軽く、ぺち、っと叩くと、こくん、と頷いた。


 ―― 何か、『頷いた』というより、『条件反射』だったような気もするが?


「時間もないし、始めよう」

 俺は秀流に合図してPC画面で下書きを確認する。


 ―― 何故か、俺の得意な(笑)なんだが?……どうして、秀流が知ってるんだっ(笑)


 まあ、いっか(笑)……得意技で萌々をワカラセてやりますかね?

 考えてみれば、二代目担当編集者の沙耶香さやか女史とも、三代目担当編集者の一縷いちる女史とも、半裸や全裸は見ていても、身体に触れたコトは無かったなあ。W社編集女史編集長のお手付き初攻略(いや、イミフだが(笑))なるか?



 俺は三人掛けソファーの背に萌々を押し倒すように圧し掛かった。

 あまり反応(抵抗?)が無いが気にせず、右手で顎を、左手で後頭部を固定して口付けた。

 もう、花楓かえでや、董乃とうのや、いたると、散々レッスン(笑)し捲くった〝俺の得意技〟だ。

 考える前に唇が萌々の唇をこじ開けて舌を口腔に侵入させる。


 ―― って言うか……〝キス素人〟じゃあるまいし、舌くらい絡めてこいよ(笑)


「萌々、口開けて舌をだせよっ!」

 幾分、いらっ、とした声がでた。

 、びくっ、と震えた萌々が薄く口を開ける。その奥の方にピンク色の小さな舌が(まるで猫の舌のようなそれが)震えている。


 これは、これで、(萌々)らしくなさが、微妙に可愛い。


 俺は薄い花びらのような萌々の下唇と上唇を、ちゅぴっ、ちゅぷぅ、とわざと水音を響かせて交互に吸い立てた。

 更に、顎に宛がっていた右手で口を大きく開かせてから幾分、とろん、と開いてきた唇の間に舌をこじ入れる。

 逃げ惑う萌々の少し、ざら、ついた舌と俺の舌を絡ませて唾液を攪拌する。

 後頭部に宛がって固定していた左手が後ろに押される。


 ―― えっ?……これって、逃げ腰、なのか?


 〝ニセビッチ〟疑惑はあったが、こいつが萌々のクセになんてあり得ないだろう。

 だいたい、今だっての前で〝真っ裸〟だし……な(笑)。


 俺は一旦唇を離して萌々を見た。

 慌てて目を瞑る様子が、拾われてきたばかりの子猫のようで、可愛さと(それ以上に)嗜虐心がそそられた。


 ヤバいっ!?……俺は夢中で萌々の唇を吸い、舌を吸い立てていた。


 ―― はむんっ…(れるっ、えりゅ、るろぅ)…(ちゅろ、ちゅる、ちゅぷっ)…んぅ、あふっ…(にゅぷ、にちゅ、にゅぽっ)…ぅん、くっ…


 更に、水音高く唇を舌をしゃぶり、唾液を混ぜ合わせ、それを啜り、卑猥な音を部屋に響かせた。


 ―― あむんっ、はむぅ…(じゅるる、ぢゅずずっ)…れるっ、んふっ…(じゅるっ、じゅじゅぶ、じゅずっ)…(ずずずぅっ、ずじゅっ、じゅずずっ)…あふっ…(じゅぷ、じゅぶぶぶぅ)…


 ふと、萌々の両手が俺の胸を押しているような気がして唇を離した。

 見ると、


 ―― 涙が一滴ひとしずく、萌々の頬を、つうぅ ―――――― っ、と伝い落ちていった。


 ヤバい、激し過ぎたのか?……それとも、俺とキスするのが厭過ぎた、とか?

 気になって秀流と一栞の様子を、ちら、見ると……

 一栞はビデオカメラを構えながら内股になった膝を、もじ、もじ、と擦り合わせているし、秀流の左手は(つまりペンタブを持っていない方だ)スカーt……いや、コメントは控えよう。


 ―― つまり、『激し過ぎた』でOKっ?


 俺は萌々の頭を撫ぜ、頬をさすり、優しく啄むようなキスを暫く続けた。

 やがて少し、とろん、としてきた萌々が両腕を俺の首に廻して自分から舌を挿入れてきたのだった。


 俺は萌々の左腿(秀流たちに見える方だ。因みにエロスキャンティが引っ掛かっている方だ(笑))を抱えあげて下腹部を密着させた。

 あ、勿論、俺は学生ズボンを穿いているぞ(笑)。

 あまり深い意味は無かったのだが。良い絵になりそうだと思っただけだ。

 しかし、


 ―― じゅわっ!?


 ……っと、がっ!?



            【つづく】

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