ホ
尾崎は今日も今日とて、講演会に呼ばれて、せっせと演説をしております。
普段通り、憲政の常道を突き進むべきだ、と主張します。
そんな折、星亨に関する質問が舞い込んできました。
尾崎は堂々と答えます。
「最近は、星を真似る若い政治家も多くいます。ですが、彼のやり方は途中まではできますが、本当に上まで目指すには無理でしょう」
尾崎は星に言えなかった言葉を綴ります。
「あのままでは、誰かに殺されかねません。同じ立憲政友会の仲間として、是非とも星には反省していただきたい」
講演会が終わり、尾崎は人力車に乗って帰宅します。
そういえば、と尾崎は思いました。
あの日、立憲政友会で星と別れてから、彼の秘書が尾崎に接触してきました。
いわく、星さんは、尾崎さんのようになりたがっている、これからは尾崎風でやっていくと話しているとのことです。
その時の尾崎は、あまりにも星らしくない発言に驚きました。
多分、あれでしょう。尾崎を懐柔させるための甘言でしょう。そうに違いありません。
ですので、その場では適当に応対しました。
今でも、尾崎は星の言うことが嘘くさいな、と思っていました。
……もし、星が本当に自分のようになりたいと考えていたのなら、どうなるのでしょうか。
想像してみましたが、やっぱり賄賂を腹の中に隠す姿しか頭に浮かびません。
あとで星本人に真意を確かめてみようかな、とのんびりと考えて、人力車から降りました。
すると、血相を変えた人が走ってきました。
「尾崎さん、尾崎さん!!! 大変です!」
「? どうかしたんですか?」
「星さんが、星さんが……!」
つい三十分ほど、自分が予言した内容が、現実になりました。
「星さんが、暗殺されました!」
◯◯◯
星は、変わろうとしていました。
このままでは、自分は出世どころではなくなります。
今回乗り切っても、今後、同じようなことが起きれば、……そこからの再起は、難しいでしょう。
星が目指したのは、賄賂もなにもしていない、星が大嫌いだったあの男、尾崎行雄でした。
変わらなくては。
より、誠実に。
より、まっすぐに。
あの男のように。
政治的地位が失墜してはいましたが、まだまだ星は立憲政友会の幹部の座からは降りていませんでしたので、仕事はある程度ありました。
星は仕事をこなそうと、目的地に向かっていました。
……凶刃が襲ってきたのは、その後。
星は変化の機会を得られず、命を散らしてしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます