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ここは立憲政友会の本部。
尾崎は胸をはります。
「というわけで! 入党いたしました尾崎行雄です! よろしくお願いします!」
星は開口一番、こう言いました。
「消えろ」
原敬はそうだそうだと言いたげに深々と頷きました。
伊藤は笑顔で星をなだめます。
「まあまあ。過去は色々あったかもしれないけど、今は仲間同士なんだから、仲良く仲良く!」
「ちっ、」
星は舌打ちして、どこかへ行ってしまいました。
原もあとについで行ってしまいました。
伊藤は肩をすくめて二人を見送り、改めて尾崎に挨拶します。
「どうも、尾崎君。これからよろしくね。頼りにしているよ」
伊藤から頼りにされている発言です。これには尾崎の自尊心がぐんぐん天高くまで登ります。
尾崎のご機嫌は、赤子の手をひねるよりも簡単に取ることが出来ます。
伊藤は尾崎と適当に戯れた後、星をなだめにいきました。
星はむっつりしていましたが、伊藤がわざわざ訪れた事実に多少気持ちが和らぎました。
「なんだ、伊藤さん。あの尾崎を追い出す策略でも考えたか? ならやってみせましょう」
「違う違う。星君、怒っているかなあ、と思ってさ」
「当然です」
「けど、星君の望み通り、尾崎君は仲間を引き連れてこなかったよ」
「……」
星は無言です。
確かに、尾崎は単独で立憲政友会に入ってきました。
ですが、星の考えでは、仲間を連れてこれないのならば、尾崎は入党しないだろうと考えていたのです。
星が自由党の者たちを引き連れて立憲政友会に混じったのは、自らの勢力を保持するためです。
もし星が尾崎と同じ立場ならば、誰に反発されようとも、同志たちと共に新党に加入します。
けれど、尾崎は単独で入党してきました。
星は、尾崎の考えていることが全く分かりません。
議会が始まる前、大同団結運動のときもそうです。
尾崎は立憲改進党の者たちが星の企みにそっぽを向いても、国のためだといって、運動に参加したのです。
和を重んじるのならば、例え運動に共感していても、党の決定に従います。
尾崎は、違います。
政治家としてあるまじき行為を繰り返しています。
隠していましたが、困惑がわずかながら表情に出てしまっていたのでしょう。伊藤は星の気持ちが分かっているといいたげに微笑みます。
「君が思っている通り、尾崎君の登用は君の対策って面もあるよ。けどね、君に足りない部分を、尾崎君が持っているから呼んだのもある。二人が協力しあえば、とんでもない力を発揮できるよ」
「ふん」
尾崎と仲良くする、なんて夢絵空事よりも、星の気になるところはただ一つです。
「それよりも、伊藤さん。首相就任の大命が下されたとお聞きしましたが、本当ですか」
「ああ、さすが星君。情報が早いね。そうそう」
「もしや、あの尾崎を大臣に登用するつもりはないですよね?」
「そうピリピリしないしない。尾崎君は今回つかないよ。星君にはちゃんと用意しているよ。逓信大臣。どう?」
「逓信大臣か」
逓信省は、郵便や通信関係の職務、そして何よりも重要なのが、鉄道関係の政策を組み立てることができます。
鉄道は今や経済発展の重要な要素です。
どの地方でも我が町に鉄道を! と待ち望み、実行してくれる政治家に金と選挙票を投じてくれます。
逓信大臣としての力があれば、立憲政友会の勢力をさらに拡大し、星の名声もうなぎのぼりになります。
星はまたもや悪役のような笑みを漏らします。
伊藤は苦笑しながらも、先程の尾崎との話を思い出します。
星が怒っていなくなってから、尾崎と伊藤はぺちゃくちゃとお喋りしていました。
そんなときに、星の話になりました。
「星は優秀な政治家ですね。立憲政友会をあっという間にまとめあげていますね」
「まあねえ。つながりのある人を可愛がる人だからねえ」
「ですが、裏金を頻繁に使うのはいただけませんね」
尾崎は頬を膨らませます。
「あれでは、今はいいかもしれませんが、後々落とし穴にハマりますよ」
「あはは、そうかもね。注意しておくよ」
「よろしくお願いします」
伊藤も伊藤で、裏金賄賂どんとこい! の政治姿勢でした。
綺麗事だけでは、国を守れないのです。
そんな伊藤の目線からしても、星は、……少々、やりすぎに見えます。
さらに、彼は味方には優しいですが、敵には容赦がありません。
もともと綻びがありすぎて、いつか倒閣しそうだと思っていた大隈内閣ですが、あそこまで素早く崩れ去ったのは、他でもない、星のせいです。
伊藤も尾崎と同じように、星はあのままではやっていけないと気づいていました。
だからこその、「尾崎と仲良くしてね」発言でした。
……残念ながら、星は聞き入れてくれませんでしたが。
何事も起きないといいけど、と思う伊藤。
まさに、それがフラグとなったのでした。
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