1章 Open up the future!! 尾崎行雄っ!!
1節 犬養との出会いっ!!
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落ち葉が砕ける音がしました。
ハッとなり、背後を確認します。
暗闇は木々を喰らい、人影をも覆い隠します。
狂気は恐ろしい呪詛を投げつけ、執拗に迫ります。
捕まってはいけない。
あれは死をもたらす化け物。
振り切らなくては。
青年は懸命に走ります。
けれど。
自然は彼を裏切りました。
木の根が盛り上がり、足を取られました。
「っ!」
今この時と、闇が青年に襲いかかった、そのとき。
青年、尾崎行雄は布団から飛び起きました。
冷や汗をぬぐい、雲一つない空を眺めます。
悪夢に染まった頭が、徐々に現実へと適合していきました。
「……久しぶりに嫌な夢をみたな」
幼い頃によく見た夢。
自分が何者かに狙われ、殺される夢。
ため息を吐いて、嫌な気分を外に逃がす。
「うかうかしている場合ではないぞ、尾崎行雄!」
なんといっても、彼は、統計員権少書記官なのです。
統計院とは、国会開設準備のため、5/30に大隈重信によって設置された組織でした。
当時二十四歳の尾崎を含め、新気鋭の人物がわんさか採用され、政界で話題になりました。
統計院について、はや三ヶ月。
これからが、本番なのです。
尾崎はうきうきわくわくしていました。
自信は溢れんばかりに持っています。
統計院に入る前、彼は新潟新聞社の主筆をしていました。
当時の主筆は社説を担当し、新聞社の売上を左右する重要な役職でした。
尾崎がやってきた当初は、尾崎のあまりの若さに新聞社の人々は戸惑いました。
尾崎を「主筆としてくる尾崎行雄さんの書生に違いない」と思い込んだほどでしたが、彼の実力によって新聞社の売上は右肩上がりでした。
さらに彼は新潟県議会の設営にも(別に頼まれていないのに)尽力しました。
自分ならば、藩閥に汚染された日本政府を改め、立派な一等国に育てられる。
そう、この尾崎行雄ならば!
きれいな妻と可愛い子どもに見送ってもらい、尾崎は意気揚々と統計院へと向かいました。
前途有望な若者がいかにして国を動かすか!
尾崎も尾崎を知る者たちも、読者の皆様も全員がワクワクしていたことでしょう。
そんな彼に、とあるプレゼントが渡されました。
尾崎が出勤すると、見かけない人が事務所にいました。
「やあ、こんにちは。統計院に新しく配属になったお方かな?」
だったら友達になろうと声を掛けますが、彼は挨拶なんてしてくれません。
どことなく緊張した面持ちです。
「尾崎行雄どの」
「はい」
「首です」
「……ん?」
「首です。速攻、荷物をまとめて出ていってください」
「……へ!?」
数分後。
尾崎行雄は、外に放り出されてしまいました。
「……な、なんで……?」
就職してから首になるまで、たった三ヶ月。
こうして、彼の役人人生は終わりを告げたのでした。
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