2節 桂太郎内閣ぶっつぶせっ!!

 気力をなくし、咢堂を名乗るようになった尾崎先生ですが、国政の情報を取り入れる努力はしていました。


 何度も何度もお伝えして申し訳ありませんが、現在は桂園時代でございます。


 藩閥桂太郎と西園寺公望が交互に政権を譲りあい、二人の間に入ってあれこれと世話をしていたは、白髪政治家こと原敬でした。


 野党である立憲国民党が内紛しているおかげで、総合的にみれば安定した政治をしていました。


 ただし、桂と立憲政友会全くの対立がないとまでは言えません。


 立憲政友会の西園寺公望、原敬は藩閥政治家たちを尊重し、かなり気を使っていました。


 問題だったのは、桂太郎です。


 彼は立憲政友会の意見を呑まねばならない現状に嫌気がさしていました。


 とはいえ、立憲政友会は衆議院の多数を誇っています。


 彼らの意向を無視して政治はできません。


 イライラした桂は、ふと、ある良案を浮かびました。


 そうだ、政党作ろう、と。

 

 思い立ったら吉日と、桂はうきうきと結党の準備を始めました。


 しかし、桂の上司であり、政党嫌いであった山県有朋に邪魔されました。


 ちょうど明治天皇陛下が崩御なされ、まだまだ若い新帝が就任しました。


 新たな陛下の補佐のため、そして桂に新党を結成させないために、山県は桂を天皇陛下の補佐を行う内大臣にぶち込みました。


 昔から(といっても明治時代からですが、)天皇陛下に政治の責任を負わせないために、宮中の人間は政治活動をしてはならないという慣習がありました。


 言い方は悪いですが、桂は山県によって政界から追放されたのです。


 ただし、桂のことを知る西園寺公望と原敬は、こう思っていました。


 あの陰謀大好き出世欲マシマシ陰湿男が、このまま黙って隠居するはずはない、と。


 その予想は的中しました。


 ときは第二次西園寺内閣。


 日露戦争後の不況がまだまだ続き、国家予算の削減をせねばなりまんでした。


 にもかかわらず、陸軍は二個師団増設したいとわめきはじめました。


 陸軍の勝手な要求に、世間は憤りました。


 西園寺は今年はできない、次の年だったらなんとかすると説得して、最初は陸軍大臣も譲りました。


 やれやれ一安心と胸をなでおろした西園寺ですが、数日立つと、陸軍大臣はやっぱ今年中じゃねえと駄目だと意見を翻してわめきだしたのです。

 

 裏には、桂太郎がいました。


 この問題を対処できずに西園寺が辞めれば、自分のもとに首相就任の大命が下ると予想しての陰謀でした。


 実際に西園寺内閣は二個師団増設問題によって倒閣。


 山県有朋は仕方なく桂太郎を首相に推しました。


 本来なら内大臣から政界に戻ってはいけませんので、天皇陛下からの詔勅を出してもらい、政界に復帰しました。


 さらに、海軍大臣候補が入閣を渋りましたので、これにも詔勅を用いました。


 手軽に詔勅を使うなんて、天皇陛下を利用している! と新聞各社は怒り狂います。


 それでも桂は、政党さえ打ち立てて、人員を集めれば政治はスムーズにできると考えていました。 


 メンバーを集めるため、彼は立憲政友会や立憲国民党から参加者を募ります。


 立憲国民党は内紛状態だったことからすんなりと受け入れ、犬養に反発する派閥の人たちが軒並み新党に参加してしまいました。


 ただし、立憲政友会は原敬がしっかりと首根っこ抑えていましたので、脱党者はほぼいませんでした。


 想定していたよりも少ない人数でのスタートとなりました。

 

 人員の引き抜きという、どうあがいても敵対行動を取られ、さすがの立憲政友会内でも桂太郎への批判が強まってきました。


 ですが、実質立憲政友会をまとめていた原敬は、桂との提携を崩したくないらしく、内閣の倒閣は消極的でした。


 犬養ら立憲国民党が、一致して政府を倒そうと誘っても拒否しました。


 しかし、党員たちを強引に抑えては自らへの反発が来ると考え、原は党員個人が倒閣を目指すこと自体は止めませんでした。


 党としては内閣を潰せない、ですが個人としての動きは黙認されている状況で、立憲政友会の強硬派たちは、とある人物を擁立しました。


 そう、尾崎行雄でした。


 


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