2

「……うん?」


 尾崎は自分の当選を聞いて、目を瞬きます。


「いや、……なんでだ?」


 立候補はしていません。


「……さては……」


 尾崎は地元で尾崎を応援してくれる人たちに、会いに行きました。


 想像通りでした。


「尾崎さん、勝手なことをしてすみません。ですが、あなたは次の議会も出席すべきです。そうするべきなのです||」


 なんと、尾崎応援団たちが、勝手に立候補を届けていたのです。


 そして見事、当選したのです。


 悪気があってやったわけではありません。


 それはわかっていますが、尾崎はついこの前、「議員らは次の選挙を辞退すべき」と訴えているのです。


 主要な戦前政治家たちは、尾崎の言葉なんて気にせずに立候補していました、


 ですので、尾崎の渾身の訴えは、いつものごとく影響なしでした。


 明治の大政治家が良いこと言っているなあ、で終わりでした。


 ただ、尾崎は言った本人ですので、厳守したいのです。


「私は今回の選挙は出てはいけないのです。大変申し訳無いですが、辞退します」


 きっぱりという尾崎。


 さすが、「Go Ing My Way」の尾崎です。


 ただ、尾崎講演会のん人たちも、病めるときも健やかなるときも尾崎を見守り、尾崎を支援してきたのです。


 支援者当の本人から断られたって、すごすごと引き下がりません。


 尾崎応援団の人たちは、絶対に引っ込まないぞと足を踏ん張ります。


「敗戦した日本に必要なものは、食べ物だけではありません。どんな逆風のなかでも正義を貫く、あなたのような人が必要不可欠なのです」


 別の支援者も力強く説得します。


「尾崎さんは戦争責任を気にしておいでですよね。俺等は尾崎さんに責任があるとは全く思っていません。ですけど、もし万が一にも責任があると仮定したとしても、混迷極める日本を助けるため、尾崎さんは議員になるべきなんです|」


 日本の未来のために、なんて言葉をかけられたら、尾崎も反論がしにくくなります。


「……ですけど……。私は……」


 支援者たちは、深々と、頭を下げます。


「お願いします。日本のためにも、どうか、議員になってください」

「おねがいします||」


 政治的な圧力には屈しない尾崎ですが、こういった誠心誠意の訴えには、どうにも弱いのです。


 しばらく黙っていましたが、尾崎はうめきます。


「……分かりました。議員になりましょう」


 支援者たちは花が咲いたように笑います。


「わあ! ありがとうございます!!」

「これで日本の未来も明るいですね!!」


 喜ぶ支援者たちを見ていると、尾崎も気分が和らいできます。


「……こうなっては、私も気合を入れて、新たな日本を支えていきましょう!」


 こうして、尾崎はいつものごとく手のひら返しをしたのでした。


 戦前から何度も手のひらクルクルしていたので、世間も「はいはい風物詩風物詩」と軽く流したのでした。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る