4節 星亨の陰謀っ!!

 藩閥の人間たちは、次の議会では政府に忠実な議員を当選させようと、前時代的な選挙干渉を繰り広げました。


 板垣退助の出身地であり、自由党の本場、高知県でも、それはそれはひどい選挙干渉が行われておりました。


 政府発表だけでも、死者十名、負傷者六十六名の犠牲者を叩き出しております。


 尾崎と同じく、立憲改進党の代表的政治家、犬養毅も選挙干渉に巻き込まれました。


 暴徒が演説会場に乗り込み荒らしまくり、選挙日には犬養の支持者が持つ入場券を剥奪しようとしました。


 しかし、犬養も尾崎と同じく、見事当選を果たしました。


 これほどの騒動を起こしたにもかかわらず、議会に多少議員を送りめたのみで、政党勢力を挫くことはできなかったのです。


 かえって、自由党も立憲改進党も政府への憎悪を強めただけに終わりました。


 選挙干渉の責任をとり、松方正義内閣は総辞職。


 次なる首相は、伊藤博文になりました。


 伊藤博文はいわずと知れた、大日本帝国憲法の制作者であり、日本初の内閣総理大臣です。


 ずば抜けた調整力で藩閥だけでなく、政党からの信頼も手にしています。


 明治政府のリーダー的ポジションといっても、差し支えはないでしょう。


 つまり、伊藤さえ倒せば、明治政府は政党と妥協せざるをえません。


 立憲改進党はそれはそれは気合を入れて伊藤を叩きました。


 ですが、さすが混沌とした新政府の頂点に君臨する伊藤博文です。


 松方のように簡単に尻尾を出しませんでした。


 海軍費の増額に反対していた政党でしたが、伊藤は天皇陛下に泣きつき、和協の詔勅――海軍費の増額を認めるよう議員に訴える詔勅を提出したのです。


 自由党はすぐさま乗っかりました。


 その後、日米修好通商条約を改正しよう! といった運動が起きると、自由党は政府の意見に擦り寄ったのです。


 現外務大臣の陸奥宗光は、既知の仲であった星亨を衆議院の議長に任命させ、条約改正の基盤を盤石にしてきました。


 立憲改進党は、現状での条約改正には反対でした。


 下手に条約を改正してしまうよりも、いま締結している条約を励行させるべきだと訴えたのです。


 外国人が内地で勝手に暴走し、日本の資金や土地を奪っていくのを防ぎたいと考えていたのです。


 政府に反発しても、自由党が後ろ盾に回っていますので、うまくいきません。


 そこで、立憲改進党は、まず議長職に座る星亨を辞任に追い込み、自由党に打撃を与えました。


 議長職こそ降りましたが、星は未だ党内を支配し、政府に追随する姿勢を崩しませんでした。


 全く持って、日本政府は外交下手だと、それを支える星亨をはじめとする自由党は、政府からの支持を得たいだけの卑怯者だと、立憲改進党は憤りました。


 そんな折、日本と清の間で戦争がはじまりました。


 立憲改進党の大ボス、大隈重信の命令で、戦争中は政府に協力していました。


 ですが、ここでも政府はやらかしました。


 なんと、日本政府はドイツ・ロシア・フランスからの三国干渉をうけ、兵士たちが命をかけて手に入れた土地を奪われてしまったのです。


 これには立憲改進党だけでなく、市井の民たちも怒り狂いました。


 臥薪嘗胆の四文字熟語が急速に流行り、政府批判も今までの比ではなくなりました。


 ようやく政府は政党を内閣に引き入れる必要性を思い知ったようで、伊藤は自由党のボス、板垣退助を懐柔して、内務大臣のポストを渡しました。


 しかし、政党を御しきれず、伊藤内閣は倒閣してしまいます。


 続いての内閣は、松方正義の内閣です。


 彼は伊藤との対抗から、大隈に大臣のポストを用意しました。


 薩摩派も選挙干渉から改心して、政党を受け入れるようになったかと思った立憲改進党でしたが、期待は裏切られました。


 いざ内閣がはじまると、立憲改進党を利用するだけ利用し、言論統制の法案をこちらの了承もなく提出する始末です。


 立憲改進党も自由党も、藩閥の自分勝手にとことん愛想がつきました。


 旧体制がまともでないのならば。


 ぶっつぶすのが、明治を生き抜く若者の勤めです。


 立憲改進党と自由党は、再び、手を組むことになったのでした。




 




  



 

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