3節 政府からの圧力っ!!
①
日本初の議会は気合十分で始まりました。
目指すは、藩閥打倒、政党内閣樹立です。
自由党も立憲改進党も、足並み揃えて政府を攻撃しました。
……ですが……。
「まっっったく、自由党め!」
尾崎はぷりぷりしています。
それも無理はありません。
第一議会で、自由党の土佐派が政府に迎合し、予算案を可決させたのです。
「全くだな」
犬養は後ろから気配を感じました。
恰幅の良いお腹の男をちらりとみて、犬養は声を張り上げてペラペラ喋ります。
「土佐派の連中を率いたのは、ほんの数年前、政府の健全化のため政党の別なく合同しようと訴えた、星亨だとはなあ」
犬養はニヤニヤ笑います。
「裏では、莫大な金が自由党に流れたとのことだぞ。いやはや、あの大きな腹の中は、まっくろけっけだな!」
星は自らが大金持ちなことを政治的に大いに利用しました。
誰かが政治資金がほしいと願えば、星はそれ以上の金をぽんと渡します。
これを繰り返していましたので、星はあっという間に部下たちを手球に取りました。
たっぷりのお金を渡しますので、お金はいくらあっても困りません。
もしかしたら、星の懐から出ている政治資金は、政府から引き出した金かもしれません。
尾崎は唇を尖らせます。
「清く正しくあるべき政治家が、腐敗に手を染めるとは……」
尾崎の中で、星はバッサリとしていて気分がいい人だと思っていました。
どうやら、彼の見当違いだったようです。
ぷくっと頬を膨らませ、尾崎はキャンキャンわめきます。
「だが! 私たちは諦めない! 目指せ藩閥政府打倒! 目指せ政党内閣! ぶちのめせ不正政治家!!」
「だな。さーてっ! 次の政府様は何をするのか。議員を買収かな? それとも恫喝?」
彼の背中に鋭く質問を投げつけます。
「星亨様はどう思いますか?」
「……」
気づかれたとバレた以上、立ち去ってしまえば逃げたと思われます。
星は立ち止まり、犬養と尾崎コンビを睨みます。
ようやく尾崎は星に気が付きました。
「星! いたのか!」
ビシッと星を指さします。
「大同団結運動のときには、あんなに熱烈にまとめようとしていたのに! なぜ裏切ったんですか!」
「……第一議会から予算がまとまらなければ、外国から批判される。欧米列強に西欧的な国だと認識されないぞ」
犬養はほほう、と納得したかのように頷きます。
「素晴らしいお考えだ。それで? いくらもらったんだ? 現内閣の農商務大臣様、陸奥宗光は君と懇意の仲なのだろう? いやー気になるなー」
「……ふん」
星は不愉快そうに鼻を鳴らします。
こんな連中の相手をするなら、逃げたと謗られる方がマシです。
どこぞへいこうとする彼の背に、尾崎は宣戦布告します。
「星。第二議会では、君も政府も、追い詰めてみせます!」
星は一瞬こそ立ち止まりましたが、すぐに歩みを進めます。
「……そううまくいくなら、藩閥政府なんてとっくのとうに終わっている」
呟く彼の言葉は、犬養にだけ届きました。
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