3節 政府からの圧力っ!!

 日本初の議会は気合十分で始まりました。

 

 目指すは、藩閥打倒、政党内閣樹立です。

 

 自由党も立憲改進党も、足並み揃えて政府を攻撃しました。


 ……ですが……。


「まっっったく、自由党め!」


 尾崎はぷりぷりしています。


 それも無理はありません。


 第一議会で、自由党の土佐派が政府に迎合し、予算案を可決させたのです。


「全くだな」


 犬養は後ろから気配を感じました。


 恰幅の良いお腹の男をちらりとみて、犬養は声を張り上げてペラペラ喋ります。


「土佐派の連中を率いたのは、ほんの数年前、政府の健全化のため政党の別なく合同しようと訴えた、星亨だとはなあ」


 犬養はニヤニヤ笑います。


「裏では、莫大な金が自由党に流れたとのことだぞ。いやはや、あの大きな腹の中は、まっくろけっけだな!」


 星は自らが大金持ちなことを政治的に大いに利用しました。


 誰かが政治資金がほしいと願えば、星はそれ以上の金をぽんと渡します。


 これを繰り返していましたので、星はあっという間に部下たちを手球に取りました。


 たっぷりのお金を渡しますので、お金はいくらあっても困りません。


 もしかしたら、星の懐から出ている政治資金は、政府から引き出した金かもしれません。


 尾崎は唇を尖らせます。


「清く正しくあるべき政治家が、腐敗に手を染めるとは……」


 尾崎の中で、星はバッサリとしていて気分がいい人だと思っていました。


 どうやら、彼の見当違いだったようです。


 ぷくっと頬を膨らませ、尾崎はキャンキャンわめきます。


「だが! 私たちは諦めない! 目指せ藩閥政府打倒! 目指せ政党内閣! ぶちのめせ不正政治家!!」

「だな。さーてっ! 次の政府様は何をするのか。議員を買収かな? それとも恫喝?」


 彼の背中に鋭く質問を投げつけます。


「星亨様はどう思いますか?」

「……」


 気づかれたとバレた以上、立ち去ってしまえば逃げたと思われます。


 星は立ち止まり、犬養と尾崎コンビを睨みます。


 ようやく尾崎は星に気が付きました。


「星! いたのか!」


 ビシッと星を指さします。


「大同団結運動のときには、あんなに熱烈にまとめようとしていたのに! なぜ裏切ったんですか!」

「……第一議会から予算がまとまらなければ、外国から批判される。欧米列強に西欧的な国だと認識されないぞ」


 犬養はほほう、と納得したかのように頷きます。


「素晴らしいお考えだ。それで? いくらもらったんだ? 現内閣の農商務大臣様、陸奥宗光は君と懇意の仲なのだろう? いやー気になるなー」

「……ふん」


 星は不愉快そうに鼻を鳴らします。


 こんな連中の相手をするなら、逃げたと謗られる方がマシです。


 どこぞへいこうとする彼の背に、尾崎は宣戦布告します。

  

「星。第二議会では、君も政府も、追い詰めてみせます!」


 星は一瞬こそ立ち止まりましたが、すぐに歩みを進めます。


「……そううまくいくなら、藩閥政府なんてとっくのとうに終わっている」


 呟く彼の言葉は、犬養にだけ届きました。

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