三
大同団結運動には、自由党の元党員はもちろん、立憲改進党の人たちにもお誘いがきました。
確かに、立憲改進党も政府に言いたいことは五万とあります。
言論統制はもちろんですが、最近ですと、政府のふざけているとしか思えない鹿鳴館外交にも批判が集まっていました。
現在の外務大臣、井上馨は、欧米の人たちを欧米式でOMOTENASHIすれば、条約改正なんてイチコロだぜ! と考えていました。
そこで井上は鹿鳴館で外国人を日夜歓迎していたのですが、所詮は最近欧米文化を知ったばかりの東洋人ですので、思ったようにはOMOTENASHIできず、逆に外国人からバカにされ、条約交渉も進みません。
米価が下がり、農家が困っているというのに、政府は意味不明な社交パーティーを繰り返す始末。
立憲改進党も、政府の外交や言論統制をバリバリに批判しまくっていました。
尾崎は今まさに目の前に井上馨や伊藤博文でもいるかのように、キャンキャンと吠えます。
「こんな間抜けなことをするのも、政府が民間政党を受け入れないからです! 国会開設もすぐそこまで迫っている今、腐敗する国家を立て直すためには、立憲改進党も自由党も関係なく、ともに戦うべき! ですよね犬養さん!!!」
尾崎は大同団結運動に参加する気満々です。
ですが……。
「……立憲改進党の内部は、あまり乗り気ではないな」
乱暴者の集まり、自由党。
そしてエリート集団の集まり、立憲改進党。
前述した通り、両党は水と油で、険悪な仲です。
大同団結運動も、「自由党の残党が旗を振るのに納得いかない」と否定的でした。
それでも、政府を批判する姿勢こそ同じでしたので、自由党と合同の宴会には参加しました。
ここで、事件が起こりました。
なんと、飲み会の会場で、星の取り巻きが立憲改進党の重役をボコボコにぶん殴って瀕死にさせてしまったのです。
立憲改進党の人たちは怒り狂い、大同団結運動から手を引きました。
……一部の尾崎行雄を除いて。
「そうか、だったら、私一人でやる!」
「……今は団結する時期ではない。止めたほうが良いと思うぞ。立憲改進党の皆が参加しないのに、君一人参加しては、足並みが崩れてしまうぞ」
読者の皆様も、なんとなーく理解しているでしょうが、組織とは、ときには自分の意志とは異なる判断であっても従わなくてはならないのです。
特に、政党は党則に支配されがちです。
政党は様々な意見の政治家をまとめておりますので、ガシッと誰かが頭を抑えなくてはならないのです。
犬養は日本人気質ですので、そこらへんの常識は当然理解できていました。
ですが、尾崎はそこら辺を理解できないようで……。
「大丈夫! この前、大隈先生に話したら、『まあ良いと思うのであるぞ』と言っていましたよ!」
「大隈先生は、禁酒会議と酒促進会議を渡り歩いているお人だぞ? あまり信用しないほうがいいのでは?」
「ですがその後、『今はその時期ではないと思うのであるんである』って言っていましたけどね! 構わず参加しますよ!」
「……一応、あの人は立憲改進党のてっぺんだぞ? 言うことを聞いたほうがよいのでは?」
「大丈夫大丈夫!」
「……」
何が大丈夫なのでしょうか。
犬養の頭ではよくわかりません。
「……まあ、いいんじゃないか?」
もはや面倒臭くなって、適当に相槌を打つ。
「では犬養さんも一緒に、」
「いやいやー残念だなあ、俺は洋行準備があるから、参加は難しいなあー」
「ああ、そういえば、そろそろ犬養さんの洋行でしたね! いいなあ、私も行きたいなあ」
「お先に失礼するぞ」
「ええ! いってらっしゃい!」
洋行するのは確かに事実だが、大同団結運動に関わりたくないのも事実です。
どうせ、参加したところで、大失敗して政府にボコされておしまいです。
例え成功したとしても、星亨に手柄を持っていかれるオチに違いありません。
それなのに、尾崎は元気いっぱいにこう宣言します。
「私は私で、日本をよりよい国にするために、頑張ってみせます! めざせ、大同団結運動成功! 目指せ藩閥政府打倒です!!」
裏の思惑も探らず、尾崎は張り切っています。
「……」
純粋な彼を、犬養は黙って見つめていました。
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