5節 離反と別れっ!!

 次の内閣は、長州出身の軍人、山縣有朋が首相になりました。


 内閣の後ろ盾は、自由党系の人間たち。


 内閣と政党の間を調整していたのは、言わずもがな、星亨でした。


 閣僚の座こそ座りませんでしたが、星は政府から信頼される人物となりました。


 とはいえ、まだまだ星は力を欲していました。


 そんな中、政党のごたごたを憂いた伊藤博文は、新党である立憲政友会を設立しました。


 伊藤博文といえば、明治天皇から信託され、政党嫌いの政治家からも頼られる人です。


 彼の作った政党につけば、いずれ政権も降りてきます。


 その政党で自身が権力を握れば、伊藤を裏で操り、自らの権力がさらに高まることでしょう。


 そこで星は、奇策を行います。


 なんと、自由党系の人たちを丸々と政友会に加入ささせたのです。


 板垣は嫌がりましたが、星は板垣の拒否を聞き流せる立場にいました。


 伊藤も星を歓迎し、彼に幹部の座を与えました。


 もう星はウキウキです。


 思わず笑みが漏れます。


「ふっふっふ……」

 

 とても悪そうな笑みで、椅子に深くこしかけ、足を組んでいます。


「……ものすごい悪役みたいですね」


 誰かが呟きました。


 部屋に、のっぽな男性が入ってきました。


 着ている服は見るからに高級品な燕尾服です。


 ただし、彼をみて着目するのは、真っ白に染まった髪の毛でしょう。


 髪の毛をちらりと見て、星は挨拶しました。


「原君か。陸奥さんの葬式以来か」

「お久しぶりです、星さん」


 白髪のっぽな彼は、原敬。陸奥宗光の懐刀でございます。


 陸奥は日清戦争の後処理によって、精神的なダメージを喰らい、そのまま亡くなってしまいました。


 一人ぼっちになった原は、しばらく新聞社で働いた後、立憲政友会に合流したのでした。


 陸奥との関わりがありましたので、名字一文字仲間の星とは知り合いでした。


 星は有頂天でしたので、悪役っぽいだのなんだのといった言葉は聞き流します。


「原君も立憲政友会に協力してくれて、喜ばしいことだ。これで立憲政友会の発展も間違いなしだ」

「ええ、その通りです! ……しかし、伊藤さんは党の゙和を乱す行為がお好きなようですね」


 原は眉をひそめて、本気で嫌そうに話します。


 何の話しでしょうか?


 星が目をぱちくりさせていると、原は「あっ、もしかしてまだ星さんまでに話がいっていませんか?」と慌てた様子で教えてくれました。


「実は、伊藤さんが尾崎行雄を誘って、立憲政友会に入れようとしているらしくて」

「………………なんと、言った?」

「大隈の下っ端、尾崎行雄が立憲政友会に入党する予定のようです」

「…………」


 星は、必死に頭を回転させます。


 そして。


「は、はああああああああああああ!!!????」


 叫びました。


◯◯◯


 尾崎は伊藤のお家にご招待されました。


 あの明治政府トップの伊藤博文から直々に入党を誘われ、尾崎はあまり迷うこと無く頷きました。


 明治十四年の政変から大隈と付き添っておりましたので、彼のことを悪く言うつもりはありまえん。


 けれど、自由党との連携を潰してしまったのは、進歩党系が閣僚数を保持したいとワガママを言っていたせいもあります。


 自由党も自由党で、性格的に難のある星亨が牛耳っており、政府に媚びへつらうことを良しとしてしまっています。


 今の政党では、日本のより良い発展は見込めないでしょう。


 伊藤が作る立憲政友会ならば、


 ……もしかしたら、日本を変えられるかもしれません。


 思い立ったら即行動。


 それが尾崎の良いところであり、悪いところでもあります。


 伊藤は尾崎に、他に賛同してくれる人たちも一緒になって入党してくれると嬉しいな、と言いました。


 尾崎は素直に分かりました! と答え、仲間内で脱党を良しとする人たちがいないか探し始めました。


 さて、伊藤はもちろんのこと、尾崎も目立つ人物ですので、二人の動向には新聞記者が目を光らせております。


 伊藤が尾崎を自宅に招待した、しかも伊藤は新党を設立しようとしている、ならば尾崎は新党に入るつもりに違いありません!


 記者たちはスクープスクープと盛り上がり、即座に新聞に情報を載せました。


 これに驚いたのは、尾崎から何も知らされていなかった。元進歩党の人たちでした。


 犬養は政界の混乱に警戒していたせいで、尾崎が突拍子もないことをする人間だとすっかり忘れていたのでした。


  

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