第49話問い詰め眼鏡女子、姉妹校と生徒会長

 時貞さんと連絡先交換後、満面の笑みで帰って行った。

 一部始終を間近で峰子さんは、肩に手を置いて同情してくれた。


 授業が頭に入らないまま昼休みに入り、愛実さんが弁当箱を僕の机に置いた。


「積っち、一緒にお昼しようぜー」

「あ、はい。了解です」

「あ、峰子師匠に六っちゃんもどう?」

「ん? そうだな、お言葉に甘えるかな。六華はどうだ」

「積木にゃ色々と聞きたいことがあっからな、是非とも参加させて貰う」


 聞きたい事って何だろうか。

 思い当たる節を探しつつ、お互いの机をくっつけ合った。


 峰子さんは三段重箱、来亥さんはサンドイッチとコーヒー牛乳。

 愛実さんはミニオムライスがメインの洋風ラインナップ。

 それぞれ個性があっていいな。


 みんなで仲良く頂こうとした時、勢いよく教室の扉が開かれた。


「や、洋君! 今日は私だよん♪」

「あ、はい」

「何その反応ーつれなー」


 恒例だった生徒会でのお昼ご飯が、今回からくじ引きで誰か1人が来るルールになったんだよね。

 初回の今日は呉橋会長なんだね。

 持参した椅子を肩に担ぎ、僕と峰子さんの間を陣取って、弁当を堂々と広げてるよ。

 わざわざここに陣取るのかが分からないや。


「ご存じの通り、生徒会長の呉橋星です♪ キャピ♪」

「義刃峰子です」

「ども、来亥六華です」

「んじゃ! 会長も来たし、今度こそ頂こうか!」


 和気藹々と昼食を摂る中、ふと来亥さんと目が合った。

 思わず背筋がゾッとして、同時にハッと気付かされた。


 聞きたい事は恐らく、時貞さんとのやり取りだ。

 体験会について当日一度も報告しなかったのを、今ここで追求されるんだ。

 箸を持つ手が震える、あからさまな動揺に、来亥さんがニヤリと笑って口を開いた。


「そういえば積木よ……時貞といつの間に仲良くなったんだ?」

「あ、確かに。なんか紙袋も貰ってたし」

「時貞って佐良の従妹の? 何でまた?」


 話題に食い付いてきた呉橋会長と愛実さんも、じりじり距離を縮めて、瞳の奥が興味津々に溢れてる。

 話題だけぶっこんで、傍観者でいるつもりなのか。


 峰子さんに助けを求めたいけど、いつまでも頼ってちゃだめだ。

 大人しく出会った経緯を話した方がいい。


「ほぉー近所の道場でサポートのバイトね。しかも女性オンリーの体験会で……いかがわしい香りプンプンじゃん」


 呉橋会長の悪い流れを止めたいのに、来亥さんが割り込んできた。

 流れを切らせる真似はさせない、そんな顔だ。


「サポートついでに、あれやこれやと女共に触れまくったんだろ?」

「ほ、ほんとなのか積っち?」

「気になるぞ」


 3人の視線が突き刺さって、してやったりな顔の来亥さんに気付いてない。

 曖昧に答えは火に油を注ぐだけだし、素直に答えて徐々に話題を逸らすんだ。


「あ、あくまでサポートで触れただけです」

「うわ、認めちゃったよ。むっつりスケベ洋君め」

「きょ、許容範囲はどこまでだったんだ?」

「ほら、早く言ってやれよ……なぁ?」


 別の話題に切り替えるのは無理だ。

 煽ってくる来亥さんがいる以上、焼け石に水だ。

 2人の興味が薄れるまで答え続けるしかないのかな。


「……そこまでにしないか」

「なんだ峰子……こちとら純粋な質問をしてるだけだぞ?」

「一方的に問い詰めるような場は、昼食に相応しくない」

「あぁ?」


 お互いに視線の火花を散らして、空気がピリピリと痛い気がする。


「そうかそうか……お前、積木と時貞が話してるのを傍で見ていたよな?」

「それがどうした」

「2人の関係性ぐらい分かる筈だ。そんだけ教えてくれたら、もう止めるからよぉ、なぁ?」


 非常にまずいぞ。

 峰子さんの知る情報は、時貞さんの運動音痴の克服サポートの件と、鞭と首輪。

 後半部分の鞭と首輪を言われたら、厄介じゃ済まない。


「……いいのか、洋」


 断れば峰子さんとの築いた信頼関係に亀裂が生じる可能性がある。

 出来るのは峰子さんを信じる事。

 きっと最良の言葉で納得させられる筈。


「み、峰子さん。是非ともお願いします」

「分かった……」


 ニカっと笑ってくれた峰子さんは、深く息を吸い込んで言葉を放った。


「洋は彼女の運動サポートの為、首輪と鞭を使用して、厳しく扱うと約束したそうだ」

「は?」

「ま、マジ?」

「つ、積っち……」


 終わった。

 信頼関係を築いてても、あまりにも峰子さんが真面目過ぎた。

 聞いた3人は分かり易くドン引き。

 嘘偽り事実だから弁解も何もできないや。


「……何かまずかったか?」

「い、いえ。代弁ありがとうございました」

「よくもまぁ、平気でいられるな。お前って男は」

「KO寸前ですよ」


 軽いジャブで確実に精神は燃え尽きて、廃人になる自信がある。

 精神的に弱り切ってる中、呉橋会長が何かハッとしてた。


「ねぇねぇ愛実ちゃん。洋君がSになるって考えたら、結構有りじゃない?」

「……確かに。ですね!」

「お、おい。積木の毒気にやられたか?」

「ノンノンノン~……一度はドン引きしたさ? けど、心の視野を広げれば、新たな世界が見えるものなのですぞ……ほほ」


 何故か菩薩の如く悟った呉橋会長、後光が射してる気がする。

 あやふやな精神論に来亥さんが納得する筈がない。


「な、なるほど……そいつは盲点だった……」


 まさかのメモに残す納得っぷりだった。


♢♢♢♢


 平和な昼休みが取り戻してしばらく。

 呉橋会長が僕のおかずを盗み食いして、面倒くさそうな溜息を吐いた。


「はぁーそういやさー今日の放課後にさー西女に行かんとならんのさー」

「西女に? 何かあるんですか?」

「合同臨海学校のお話ー姉妹校だからしょうがないんだけどさ」


 西女が姉妹校なのは、以前千佳さんから聞いたっけ。

 合同臨海学校の話も楽しそうに話してくれて、可愛らしかった。


「でもさー生徒会代表で、私1人で行くんだわー……チラ」


 本日二度目の危機感。

 席を立つ前に、呉橋会長に肩を掴み掛かれた。

 美しくも恐ろしい笑顔が怖い。


「YOU、女装して一緒に来るよね☆」

「お断りします」


 即答のお断りに諦める筈もなく、執拗に同じ言葉を言うマシーンに、呆気なく負けたのでした。

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