第11話 恥じらう美人生徒会書記、日焼け跡のスポーツ美少女

 道なりをブラブラし始め早数分、暗堂さんはずっと上機嫌だ。

 こんな風に上機嫌だと、つられて気分が良くなるね。


「晴れの日はいいね……ふーふふーん……♪」

「あ、その鼻歌知ってます」

「本当……? 私、好きなんだよね……ふふーん……♪」


 よくCMで流れてるし、姉さんや空も口ずさんでたから、結構耳に残ってる。

 普段高校での暗堂さんしか知らないから、今の姿はとても新鮮で見ているコッチまでほころんでる。


 鼻歌奏でる暗堂さんの後ろに続いてると、雰囲気の良さげな小道を通り過ぎたのに気付いて、少しだけ歩みを戻した。

 町ブラ歴数年の僕の勘が言ってる、ここは絶対に行くべきだと。

 今回は1人じゃないので是非とも暗堂さんに、この小道で町ブラの良さを体験して貰いたい。

 暗堂さんに声を掛けようとしたら、背後から手が肩に添えられ、とても柔らかな感触が背中に広がった。


「どうしたの……?」

「わっふ?!」


 背後から顔を覗かせてくるなんて、不意打ち過ぎて脳内がパニックだ。

 いい匂いもするし、声も静かだけど聞きやすいし、何から何まで魅惑的すぎる。

 きっと今の僕は耳まで真っ赤だ。


「あ、小道だ……気付かなかった……」

「あ、あの……そ、そろそろ離れても……」

「え……? あ、ごめんね……つい……」


 ふわっと優しく離れてくれたのはいいのだけど、心臓はずっとバクバクです。

 姉さんや空とのスキンシップとは違う、明らかな異性を感じたのは、指を数えるぐらいしかないんだ。

 こうなってしまう自分をどうか許して欲しいです。

 

「顔赤いよ……疲れちゃったの……?」

「い、いえ。心配には及びま」

「大事な友達だから、心配するよ……熱は……?」


 ひんやりと冷たい手が、おでこに触れ、熱を測ってくれた。

 そんなことされてしまったら、もっと熱が上がる一方です。


「熱っぽい症状じゃないから……火照ってるだけ……?」

「そ、そうです」

「なら良かった……でも、気分悪くなったら言ってね……?」

「りょ、了解です」


 前まではミステリアスな上級生のイメージだったけど、今は面倒見の良い綺麗なお姉さんだ。


 そんなこんなありながらも小道を通り、本格的な町ブラが始まった。

 道脇の小さな用水路、屋根上で戯れるスズメ、大人しい柴犬のいる家前、生垣を整える人、様々な景色が映る。

 地元の人には当たり前な風景でも、僕らからすれば新鮮そのものだ。


 小道を抜けた先では、こじんまりした休憩所と奥には上り階段があった。

 近くの案内看板によれば、階段先には町を見渡せる高台があるみたい。


「高台があるみたいです」

「いいね……行ってみよ……?」

「も、もちろんです!」


 せっせと階段を上り切り、高台の安全柵近くまで向かった。


「おぉー……いい眺めですね……」

「うん……風も気持ちいいね……んー……」


 気持ち良さそうにググっと背伸びし、完全にリラックスしてる。

 思った以上に楽しんで貰えて、心底良かったなって思える。


 ただ、いたずらな風が暗堂さんのワンピースを捲り、白肌のお腹や美脚、白レースの下着をモロ見えさせたんだ。

 様子を見てただけなのに、こんなハプニングになるなんて、想像しえなかった。


 暗堂さんは真っ赤な顔で、捲れたワンピースを戻しながら、僕の方をうるうる瞳で見つめてきた。


「見た……?」


 しっかりくっきりと可愛らしく美しい姿が、脳内に焼き付いて離れません。

 そして弁解の言葉を言うつもりが、焼き付いた景色が邪魔をして、思わぬ言葉を放っていた。


「ぼ、僕は好きでした!」

「す……き……え、えっち……」


 そっぽを向かれた。

 嫌われても無理はない。

 完全に言動が誤っていたのだもの。


 地面に頭擦り付けて謝らないと、絶対に許してくれないぞ。

 即実行し掛けた時、暗堂さんが振り向き、恥ずかしそうに口を開いた。


「……でも……見られたのが積木さんで……良かった……」

「……おっふ……」


 暗堂さんが可愛すぎて、零れる言葉が語彙を失った。

 僕の熱帯びた顔に、そよ風が吹き抜け、より一層火照っているのを感じる。


「ねぇ積木さん……」

「……え? はい?」

「今日出会ったのも、何かの縁だから……その……」

「?」

「私と一緒に……記念写真撮りませんか……?」


 スマホを大事そうに胸の前に抱え、もじもじな暗堂さんは顔が真っ赤だった。

 そもそも断る理由はないけど、僕なんかでいいんだろうか。

 暗堂さんはとても魅力的だから、絶対に僕では不釣り合いなのは目に見えている。

 でも、直接言葉にして頼んでくれてるんだ。

 どんな写真になったとしても、拒否るだけはあり得ないんだ。


「ぼ、僕なんかで良かったら」

「! ありがとう……えっと……こっちの眺めいいところでいい……?」

「了解です」


 町を背景に並ぶと、暗堂さんの方からグイっと身を寄せてきた。

 柔らかくて、いい匂いで頭がショート寸前だ。


「じゃあ……撮るからね……」

「は、はい」

「せーの……わっ!? か、風が……」


 二度目のいたずらな風が、暗堂さんの顔目掛けて吹き抜けた。

 そして長い前髪で隠れた素顔を初めて見たんだ。


 両目元に泣きぼくろの端正な美人顔で、どこからどうみても美人と認めざるを得なかった。 


 そんなあまりにも美しい素顔に、言葉がポロっと零れていた。


「前髪……ない方が好きです……」

「ふぇ!? あ!」


 不意に鳴ったシャッター音で、慌ててスマホをじーっと見つめる暗堂さんは、ただただ無言だった。

 きっと失敗だっただろうし、納得いくまで付き合わねば。 


「と、撮り直しますか?」

「ううん……これがいい……」


 一体どんな風に撮れたのか見せて貰おうにも、何か言い辛くて諦めた。

 でも、口角が上がっているから満足はしてるみたい。

 

 気の利いた言葉の一つでも出ればいいのに、全く出ないでいたら、時刻を確認した暗堂さんがどこか寂しそうな顔をしていた。 


「積木さん……そのね……帰る時間来ちゃったみたい……」

「そ、そうなんですね……あ、駅まで送らせて下さい!」

「ううん……ここで大丈夫……今日は本当に楽しかったよ……」


 心から楽しかったって言って貰えて、一緒に町ブラした僕の方も本当に楽しかった。

 いつも1人で町ブラする時、どこか色映えしない節があったんだ。

 でも、今日は鮮やかに色付いて、心から楽しむ事が出来た。


 だから一緒に町ブラを楽しんでくれた暗堂さんには感謝しかない。


「ぼ、僕も楽しかったです。ありがとうございました」

「良かった……じゃあ積木さん……バイバイ……」


 手を振りながら階段を下って行き、姿が見えなくなるまで見送った。


 1人残った僕はそのまま町並みを眺め、短い思い出に静かに浸っていた。


♢♢♢♢


 それからというと、近くに河川敷があるとのことで、のんびりと足を動かし向かっていた。


 行き着いた河川敷の空き地では、少年野球の試合をやっていたり、川岸には釣り人がいたりするのどかで平和な景色が広がってる。

 のどか過ぎて思わず大あくびが出て、無意識にごろんと土手に寝っ転がっていた。


 このまま少し眠ろうと目を閉じると、音だけが鮮明に耳に入ってくる。

 土手を歩いたり、走ったりする人に絶対見られてるだろうけど、僕の視界に入らないから関係ないんだ。


 友達と一緒だったら、こんな自由に寝っ転がれないし、1人ならではの特権なのかもしれないね。


 土手の環境にも馴染み、うとうとし掛かっていた時、土手から規則正しい駆け足の音が聞こえた。

 どんどん近付き、何故か僕の傍で足音が止まっていた。


「よ、奇遇じゃん」

「ん? え? か、瓦子さん?」


 声を掛けられ目を開けたら、同じクラスの瓦子愛実さんが見下ろしていた。

 日焼け跡の分かるへそ見えスポーツウェアに、ポニテ姿のスポーツスタイル。

 部活動の姿とも違う、完全にプライベートな雰囲気を感じる。


 そんな瓦子さんは、爽快に掻いた汗を拭い、隣で胡坐を掻いた。


「よっと……つみっちって、ここらの人だっけ?」

「い、いえ。ふらっと遊びに来てたんです」

「そうなんだ。積っちらしいな」


 にっこりと白い歯を見せ、腰ポーチのボトルを手に取った瓦子さん。

 小気味いい喉越し音で水分補給する姿は、結構様になってる。


 そんな横目で見ていた事に気付いたのか、ついさっき飲んでいたボトルを差し向けてきたんだ。


「ん? 飲む?」

「え」

「飲みたそうに見てたじゃん。ほら」

「そ、そんなじゃないです。なんか絵になってたので、見入って……」

「嬉しいこと言ってくれるじゃん」


 頭をぽりぽり掻いて、分かり易い照れ隠しをする姿に、ほっこりと空気が和んだ。

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