6章 溺愛する美女
第33話異様な他校の美女
普段通り通勤通学の車両に乗る僕は、異様な光景に遭遇し、身動きを封じられてる真っ最中です。
それは西女の女生徒が、僕のいる車両を埋め尽くす前代未聞の光景。
全員制服をお手本のように着こなして、誰1人会話せず、線路を走る音が静かに響いてるんだ。
これは、まごうことなき最悪な完璧詰みだって、認識せざるを得ないんだ。
この完全孤立の詰み場で、僕の隣には見知らぬ西女の美女が、凛と背筋を伸ばし静かに座っている。
気品高い姿、僕より頭1つ分大きい背丈、プロポーションも抜群。
そして横にいるから尚更分かる、ハッキリ主張する特大の豊満な胸。
そんな美女を起点に、目を閉じる西女生徒達が、僕らの方へ体を向けて、異様さをより感じるんだ。
無言のプレッシャーに殺されそうで、早く西女に着いて欲しいのに、こんな時に限って時間がゆっくり進むんだ。
そんな切なる願いをする僕に、隣の美女が不意に声を掛けて来たんだ。
「こんにちは」
「こここ、こんにちは……」
「今日は清々しい程に、いい天気ですね」
「で、ですね」
初対面の僕に対して、何故唐突に挨拶を交わし、そのまま天気の話を続けているんだろう。
この美女は一体何がしたいんだ、何者なんだ。
しかも美しい微笑みを向けられてるのに、目が一切笑っていない。
体感時間は数十分、現実で数十秒にも満たない時間は、兎に角恐ろしく長く感じる。
「北春高校の1年生ですよね」
「は、はい」
「わたくしも西女の1年生なんですよ」
「へ、へぇー奇遇ですね」
同じ年の高校生には思えない高貴さと発育の差に、内心引いてしまってるよ。
流石に口に漏れ出すようなことはないけど、細心の注意を払って対応しないといけない。
「本当に奇遇ですね。ちなみにですが、わたくしの姉様がそちらに通っているのですよ」
「お、お姉さんが北高にですか?」
「はい♪」
謎美女さんのお姉さんともなれば、人は絞られると思うけど、上級生で面識あるのが生徒会の皆さんぐらいだ。
でも、誰とも謎美女さんと雰囲気が合ってない気がするんだ。
「姉様はわたくしの理想で、常に憧れている方でもあるのです」
「そ、そうなんですね」
「はい♪ あ、申し遅れましたが、わたくし西女1年の、義刃
「積木洋で……今、義刃って言いましたか」
「えぇ♪」
待って待って待って。
つまり、この義刃蘭華さんは峰子さんの妹さんなのか。
蘭華さんの腰丈ストレートの黒髪も、よくよく見れば軽く赤み帯びてるじゃないか。
しかも峰子さんが姉って事は、蘭華さんと双子なのか。
詰み場はさておき、僕が峰子さんと知り合いなのを話した方がいいのかも。
「あ、あの……実は峰子さんと同じクラスなんです」
「まぁ! そうでしたか! 姉様がいつもお世話になってます」
「い、いえいえ! お世話になってるのは僕の方です!」
「えぇ、そうでしょうね。姉様は世界一素晴らしい、わたくしの姉様ですもの」
一気に空気が冷たくなるのは、鈍感な僕にでも分かる。
さっきまで女神の微笑みだった蘭華さんは、今は全てを見透かす顔に変わってた。
「積木様も薄々気付いていらっしゃると思いますが、今の状況はわたくしが作り上げたものになります」
「は、はい」
「どうしてか分かりますか?」
蘭華さんの目的はきっと、僕が逃げられない環境を作り、他者から邪魔されないように接触すること。
会話の中身から察するに、峰子さん関連なのは明らかだ。
「み、峰子さんについてですか?」
「正解です。積木様の噂も姉様直々に、かねがね伺っております。随分と親しい間柄なご様子で、妹のわたくしめも、大変に喜ばしい限りです」
覗き込まれる目の鋭さが増して、周囲の西女生徒さんも目を見開いて、同じような視線を送って来るし、嘘を付いた暁には公開処刑されそうだ。
「ただ、ここで1つの問題がございます」
「も、問題?」
「わたくしはいつも姉様から直々に、その日をどう過ごしたかを自室で拝聴するのが至福となっています」
「は、はい」
どうしよう、嫌な予感がビンビンだ。
西女の皆さんも心成しか、距離を詰めてきてる。
「今までなら淡白ながらに語って下さったのですが……北高に通い始めてから姉様は変わられました」
「ひっ!」
「い、いつもいつも……こ、この実妹のわたくしでさえ見たことのない、乙女な顔で楽しそうに貴方との出来事を語って下さるのですよ! この意味が分かりますか?!」
「ひょひぃ?!」
あ、圧が凄まじい。
迫力ある体だから圧が倍増してる。
壁ドン的なシチュエーションなんだろうけど、恐怖方面のドキドキをせざるを得ないよ。
それに瞬き無しで、凄まじい眼力で睨み殺されそうなんだ。
「ここまで姉様を
「や、やり過ぎでは?」
「はぁ!? 愛する女神である姉様ですよ?! これでも泣く泣く妥協してるのですよ!」
蘭華さんの妥協はもう、常人の域を超えているみたいだ。
「話を戻しますが、報告を耳にした私は正直驚きを隠せませんでした……お互いに名前呼びするわ、姉様自らがツボ押しを教えるわ、もう鼻血ものですよ!」
興奮のあまり綺麗な顔が、息の触れる近距離になってる。
普通なら何か始まりそうでも、蘭華さん自身はどうとも思ってないっぽい。
言わずとも西女の皆さんも興奮気味で、僕へと距離を縮めてきてる。
「すみません、我を忘れかけました」
「い、いえ」
忘れかけたんじゃなくて、完全に忘れてましたけど、絶対に何も言わないでおこう。
「偵察報告以外にもまだあります。以前、姉様のバイト先で姉様をストーごほん! 観察していましたが、偶然にも積木様が妹様といらっしゃいましたよね」
「え? あ、あの時いたんですか?」
「こう見えて変装は得意なものでしてね。声もある程度は変えられます」
透き通るような声が、大人なお姉さん声に切り替わってる。
変な人だとは思ったけど、ここまでやるとは世も末だ。
「ただ、いくらバイト先の姉様を観察しても、姉様は貴方にしか見せない顔になってました……そこで、わたくしは思いました」
「な、何をですか?」
「貴方にしか見せない姿ならば、貴方から教わればいいのだと」
やばい、目が狂気的だ。
ここで断る程、僕は馬鹿じゃないけど、今は馬鹿でもいいから断りたい一心だ。
そんな中、蘭華さんは立ち上がり、僕の目の前で胸に手を当てていた。
「わたくしは現在! 姉様の普及活動の為、西女へ通っています! 今では1学年の半数が姉様の信徒になっています!」
「は、はぁ」
「何ですか! その薄味の反応は! もはや同胞も同然なのですから、もっと興味を持って下さい!」
背丈の大きさが際立って、迫力が倍増してる。
僕が返事うんぬんより先に、蘭華さんはスマホを差し向け、大変に喜んだ顔で見下ろしてた。
「積木様。姉様と関わった以上、わたくしからは逃げられませんよ」
今すぐ連絡先を教えなければ、お前の未来は私の手で終わらせる。
僕にはそう感じ取れ、素直に連絡先を交換するしかなかった。
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