2章 休日での出会い
第8話本心の読めない美人妻、モテない美女と偶然
寝目覚めの良い日差しが、カーテンの隙間から射し、ゆっくりと体が起きる。
今日は土曜日、部活もバイトもやってない一般学生の休日が始まる。
睡眠欲を満たすのに丸一日寝たり、仲良い友達と和気藹々と遊んだり、部活に励み青春に時間を費やしたり、目的の為にバイトに勤しんだりと、休日の過ごし方は十人十色。
僕の場合、1人で気ままに外出する、趣味の町ブラによく行ったりする。
今回は前々から予定を組んでいる、隣町に行くつもりだから、内心浮足立っているんだ。
気持ちが先走る今なら、朝の身支度がテキパキやれそうだ。
ベッドを出ようと布団を捲ると、昨日一緒のベッドで寝た姉さんが、気持ち良さそうに寝息を立てていた。
起こさず静かに抜け出し、布団を掛け直すのを忘れずに、着替えを手早く済ませリビングへと向かった。
カーテンを開け日差しを浴び、朝食のトーストセットをのんびり食べ、平和な朝を堪能。
外出予定の8時過ぎになり、玄関で靴を履いていたら、階段を下りる音と一緒に声を掛けられた。
「ふぁ……おはようお兄ちゃん~……」
「おはよう、空」
「もう行くの?」
「うん。夕飯までには帰るから」
「そっか、気を付けてね」
「うん、ありがとう」
玄関外まで見送ってくれた空に手を振り、最寄り駅へと歩を進める。
隣町行きの電車まで時間がありそうだから、今回はいつも通らないご近所を巡る寄り道をする事に。
路地裏の野良猫のたまり場、木漏れ日の緩い坂道、近所の憩いのレトロな喫茶店、映るもの全部が刺激になる。
道なりに進み続けてたら、あっという間に人通りのある道路に出た。
「あ、ここの公園前に出るんだ……」
昔、近所の友達や姉さんと空とで、よく遊んだ公園。
自然豊かで遊具も多く、いつまでも遊んでいられた記憶が蘇る。
歳を重ねる度、いつの間にか足を運ぶことも減って、自然と来る事もなくなった。
「ブランコ……こんなに小さかったっけ……」
時間の変化には誰にも逆らえないけど、思い出は色褪せない。
思い出に浸りながらブランコを漕ぐ内に、とある事実に気付き始め、一筋の汗が頬を伝う。
一緒に遊んだ友達が皆、女の子だった事実だ。
当時は詰み体質の自覚もなく、ただただ遊びに没頭する少年だった。
今思い返せば、何かと女の子遊びが多かったんだ。
思い出の場所で自覚なき詰みを、今になって思い出すなんて。
それにもし、当時の女友達が近所に住んでいれば、いずれかは遭遇する。
もしもがある以上、呑気にブランコを漕いでる今も危険だ。
足早に公園から去り掛けた時、ベンチに座る女性がいきなり声を掛けてきた。
「あら~♪ 洋さーん~♪ おはようございます~♪」
「え? あ、岩下さん……ですよね? お、おはようございます」
目元しか見えない完全防備姿に、一瞬戸惑ったものの、声でどうにか岩下さんだと判断できた。
前に公園近くに住んでいると、甘い声の耳打ちで教えて貰ったから、公園にいるのも納得だ。
「うふふ~私に会いに来てくれたの~?」
「た、たまたまですよ」
「うふふ~……それでも嬉しいわ~♪」
目元の表情しか分からないけど、声色が大変に嬉しそうだ。
見た感じ、朝の散歩の休憩中っぽいし、素っ気なく去るよりも軽く世間話をしよう。
「さ、最近はずっと晴れてて、良い散歩日和ですね」
「ですね~♪ 私、晴れが好きなんですよ~♪」
「そうなんですか?」
「そうなの~♪ ポカポカ暖かくて、つい外に出ちゃうんです~♪」
「お、お気持ち分かります」
晴れの日は、朗らかな岩下さんに似合って、好きになるのも分かる。
今もベンチに座ってるだけで絵になる程、相性抜群だ。
「けど、今は違います~♪」
「え?」
立ち上がったと思えば詰め寄り、耳元まで顔を近付けてきた。
いい匂いと息遣いがダイレクトに伝わり、心拍数が一気に上昇中だ。
「晴れた日にここで待っていれば、洋さんに会えるんじゃないかって、期待してたんですよ……」
威力抜群の言葉に、顔の熱が上がり、真っ赤になる感覚を感じる。
どう返事をすれば正解なのか、人生経験の少ない僕はどうする事も出来ない。
「なーんてね~♪ ちょっとからかってみました~♪」
「は、はぇ?」
「可愛い反応が見られて、私満足です~♪」
やっぱり美人は何を考えているのか、さっぱり分からない。
顔も離れて行き、ホッと一息付くのを見て、岩下さんはご満悦そうに微笑みを浮かべてるような雰囲気を出す。
「ところで洋さん~♪ 今日はお出掛けなんですよね~?」
「ま、まぁ……そうですね。隣町までちょっと」
「まぁ~♪ いいですね~♪ このまま付いて行きたいです~♪」
冗談なのか本心なのか、全く分からない。
「でも~残念ながら今日はお掃除する日なんです~」
「そ、そうなんですね」
「なので~♪ 私の分まで楽しんで来て下さいね~♪」
両手で優しく手が包まれ、何か紙切れを握らせてきた。
美しいご尊顔が耳元へと接近し、甘く囁く声が耳に入ってくる。
「それ……私の住所です……今度遊びに来て下さいね……♪」
「へぇ?!」
包まれた手が解けるように離れ、折り畳まれた紙の中を確認。
本当に住所が書いてあって、携帯番号と無料SNSの連絡先まで抜かりなかった。
会話中に住所を書く時間や素振りは無く、前々から準備済みだったのか。
冗談だと言った公園で待っていた話が現実味を帯び始めてる。
「うふふ……♪ それでは洋さん~♪ 私はこれで~♪」
「は、はい」
優雅に公園を去って行く後ろ姿に、ただただ唖然とするしかなかった。
寄り道はここで切り上げ、足早に最寄り駅へと足を向けた。
最寄り駅に着いて早々、待ち時間が長くてもホームで最前列を確保すると決めてる。
休日の外出だからと言って、詰み要素回避は欠かさないんだ。
小説でも読んで時間潰しと行きたかった時、誰かが背後から肩を叩いて来た。
外出する事は家族以外知らないし、中学の友達だったら声を掛けてくれる筈。
もしかすると後ろ姿が知人に似て、勘違いで肩を叩いたのかも。
万が一を考慮しながら、肩を叩く人を確認。
振り返った先では、人差し指が待ち構え、頬っぺたに優しく突き刺さった。
「あ、やっぱ洋君だった」
「く、呉橋会長?」
「外で会長呼びは、いーやーよー」
「ぐ、ぐりぐりしないで下さい」
どうしてここに私服姿の呉橋会長が。
以前、住んでいる場所は北高近くだと聞いた気がする。
ここは無駄な詮索をするより、素直に聞いた方が早い。
「えーっと……呉橋か……さんは、何でここに?」
「友達の家でお泊りしてて、その帰り。洋君は?」
「ぼ、僕ですか? 隣町までちょっと……」
「1人で? 何しに?」
「ぶ、ブラブラするだけです」
「え、つまんなくない?」
本当に容赦のないド直球な言葉だ。
町ブラは決してつまらなくはないけど、捉え方は人それぞれだから、そう思われても仕方がない。
リア充な呉橋会長には、1人でどこかへ行く選択肢がないのかも。
「てか、ここで会ったのも何かの運命だし、今日一日洋君に付いて行くわ」
「へ?」
「別に問題ないでしょ? 1人で町ブラするぐらいだし。ね?」
突拍子もない提案に開いた口が塞がらない。
もし付いてくれば行き当たりばったりな事になるだろうし、楽しませるようなプランもないから、色々と自信がない。
やっぱりプレッシャー負けしそうだから、曖昧にやんわりと断ろう。
「で、でもですね? 僕と一緒だとつまらないですよ?」
「別に? 洋君とならどこでも楽しそうだし」
「くっ……後悔しても知りませんよ」
「どっちにしたって、どう思うか決めるのは私じゃん」
「ぐ……」
つまらないのが前提では通じないか。
むしろ同行意欲を更に掻き立てる、墓穴を掘る始末だ。
もう同行を認める以外に、納得させる術は無さそうだ。
「わ、分かりました……一緒に行きましょう」
「イエーイ! 流石だね洋君! ぼっち離れの第一歩だ!」
「……で、でも、飽きたら帰ってもいいですから」
「え? 最後まで楽しむに決まってるじゃん」
ハードルが勝手に上げられ、本当にどうしたらいいのやら。
軽く苦悩する中、呉橋会長は肩を組んで楽しそうに揺れ始めた。
「休日に年上美女とデート! 最高じゃん!」
目を引く美人ではあるけど、ここまで堂々と言っちゃうのが呉橋会長らしい。
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