休日での出会い

第8話本心の読めない美人妻、モテない美女と偶然

 寝目覚めの良い日差しが、カーテンの隙間から射し、ゆっくりと体が起きる。

 今日は土曜日、部活もバイトもやってない一般学生の休日が始まる。

 睡眠欲を満たすのに丸一日寝たり、仲良い友達と和気藹々と遊んだり、部活に励み青春に時間を費やしたり、目的の為にバイトに勤しんだりと、休日の過ごし方は十人十色。


 僕の場合、1人で気ままに外出する、趣味の町ブラによく行ったりする。


 今回は前々から予定を組んでいる、隣町に行くつもりだから、内心浮足立っているんだ。


 気持ちが先走る今なら、朝の身支度がテキパキやれそうだ。

 ベッドを出ようと布団を捲ると、昨日一緒のベッドで寝た姉さんが、気持ち良さそうに寝息を立てていた。

 起こさず静かに抜け出し、布団を掛け直すのを忘れずに、着替えを手早く済ませリビングへと向かった。

 

 カーテンを開け日差しを浴び、朝食のトーストセットをのんびり食べ、平和な朝を堪能。


 外出予定の8時過ぎになり、玄関で靴を履いていたら、階段を下りる音と一緒に声を掛けられた。


「ふぁ……おはようお兄ちゃん~……」

「おはよう、空」

「もう行くの?」

「うん。夕飯までには帰るから」

「そっか、気を付けてね」

「うん、ありがとう」


 玄関外まで見送ってくれた空に手を振り、最寄り駅へと歩を進める。

 

 隣町行きの電車まで時間がありそうだから、今回はいつも通らないご近所を巡る寄り道をする事に。


 路地裏の野良猫のたまり場、木漏れ日の緩い坂道、近所の憩いのレトロな喫茶店、映るもの全部が刺激になる。

 道なりに進み続けてたら、あっという間に人通りのある道路に出た。


「あ、ここの公園前に出るんだ……」


 昔、近所の友達や姉さんと空とで、よく遊んだ公園。

 自然豊かで遊具も多く、いつまでも遊んでいられた記憶が蘇る。


 歳を重ねる度、いつの間にか足を運ぶことも減って、自然と来る事もなくなった。


「ブランコ……こんなに小さかったっけ……」


 時間の変化には誰にも逆らえないけど、思い出は色褪せない。


 思い出に浸りながらブランコを漕ぐ内に、とある事実に気付き始め、一筋の汗が頬を伝う。


 一緒に遊んだ友達が皆、女の子だった事実だ。

 当時は詰み体質の自覚もなく、ただただ遊びに没頭する少年だった。

 今思い返せば、何かと女の子遊びが多かったんだ。


 思い出の場所で自覚なき詰みを、今になって思い出すなんて。


 それにもし、当時の女友達が近所に住んでいれば、いずれかは遭遇する。

 もしもがある以上、呑気にブランコを漕いでる今も危険だ。


 足早に公園から去り掛けた時、ベンチに座る女性がいきなり声を掛けてきた。


「あら~♪ 洋さーん~♪ おはようございます~♪」

「え? あ、岩下さん……ですよね? お、おはようございます」


 目元しか見えない完全防備姿に、一瞬戸惑ったものの、声でどうにか岩下さんだと判断できた。

 前に公園近くに住んでいると、甘い声の耳打ちで教えて貰ったから、公園にいるのも納得だ。

 

「うふふ~私に会いに来てくれたの~?」

「た、たまたまですよ」

「うふふ~……それでも嬉しいわ~♪」


 目元の表情しか分からないけど、声色が大変に嬉しそうだ。

 見た感じ、朝の散歩の休憩中っぽいし、素っ気なく去るよりも軽く世間話をしよう。


「さ、最近はずっと晴れてて、良い散歩日和ですね」

「ですね~♪ 私、晴れが好きなんですよ~♪」

「そうなんですか?」

「そうなの~♪ ポカポカ暖かくて、つい外に出ちゃうんです~♪」

「お、お気持ち分かります」


 晴れの日は、朗らかな岩下さんに似合って、好きになるのも分かる。

 今もベンチに座ってるだけで絵になる程、相性抜群だ。


「けど、今は違います~♪」

「え?」


 立ち上がったと思えば詰め寄り、耳元まで顔を近付けてきた。

 いい匂いと息遣いがダイレクトに伝わり、心拍数が一気に上昇中だ。


「晴れた日にここで待っていれば、洋さんに会えるんじゃないかって、期待してたんですよ……」


 威力抜群の言葉に、顔の熱が上がり、真っ赤になる感覚を感じる。

 どう返事をすれば正解なのか、人生経験の少ない僕はどうする事も出来ない。


「なーんてね~♪ ちょっとからかってみました~♪」

「は、はぇ?」

「可愛い反応が見られて、私満足です~♪」


 やっぱり美人は何を考えているのか、さっぱり分からない。

 顔も離れて行き、ホッと一息付くのを見て、岩下さんはご満悦そうに微笑みを浮かべてるような雰囲気を出す。


「ところで洋さん~♪ 今日はお出掛けなんですよね~?」

「ま、まぁ……そうですね。隣町までちょっと」

「まぁ~♪ いいですね~♪ このまま付いて行きたいです~♪」


 冗談なのか本心なのか、全く分からない。


「でも~残念ながら今日はお掃除する日なんです~」

「そ、そうなんですね」

「なので~♪ 私の分まで楽しんで来て下さいね~♪」


 両手で優しく手が包まれ、何か紙切れを握らせてきた。

 美しいご尊顔が耳元へと接近し、甘く囁く声が耳に入ってくる。


「それ……私の住所です……今度遊びに来て下さいね……♪」

「へぇ?!」


 包まれた手が解けるように離れ、折り畳まれた紙の中を確認。

 本当に住所が書いてあって、携帯番号と無料SNSの連絡先まで抜かりなかった。


 会話中に住所を書く時間や素振りは無く、前々から準備済みだったのか。

 冗談だと言った公園で待っていた話が現実味を帯び始めてる。

 

「うふふ……♪ それでは洋さん~♪ 私はこれで~♪」

「は、はい」


 優雅に公園を去って行く後ろ姿に、ただただ唖然とするしかなかった。


 寄り道はここで切り上げ、足早に最寄り駅へと足を向けた。



 最寄り駅に着いて早々、待ち時間が長くてもホームで最前列を確保すると決めてる。

 休日の外出だからと言って、詰み要素回避は欠かさないんだ。


 小説でも読んで時間潰しと行きたかった時、誰かが背後から肩を叩いて来た。

 外出する事は家族以外知らないし、中学の友達だったら声を掛けてくれる筈。

 

 もしかすると後ろ姿が知人に似て、勘違いで肩を叩いたのかも。


 万が一を考慮しながら、肩を叩く人を確認。

 振り返った先では、人差し指が待ち構え、頬っぺたに優しく突き刺さった。


「あ、やっぱ洋君だった」

「く、呉橋会長?」

「外で会長呼びは、いーやーよー」

「ぐ、ぐりぐりしないで下さい」


 どうしてここに私服姿の呉橋会長が。

 以前、住んでいる場所は北高近くだと聞いた気がする。


 ここは無駄な詮索をするより、素直に聞いた方が早い。


「えーっと……呉橋か……さんは、何でここに?」

「友達の家でお泊りしてて、その帰り。洋君は?」

「ぼ、僕ですか? 隣町までちょっと……」

「1人で? 何しに?」

「ぶ、ブラブラするだけです」

「え、つまんなくない?」


 本当に容赦のないド直球な言葉だ。

 町ブラは決してつまらなくはないけど、捉え方は人それぞれだから、そう思われても仕方がない。

 リア充な呉橋会長には、1人でどこかへ行く選択肢がないのかも。


「てか、ここで会ったのも何かの運命だし、今日一日洋君に付いて行くわ」

「へ?」

「別に問題ないでしょ? 1人で町ブラするぐらいだし。ね?」


 突拍子もない提案に開いた口が塞がらない。

 もし付いてくれば行き当たりばったりな事になるだろうし、楽しませるようなプランもないから、色々と自信がない。


 やっぱりプレッシャー負けしそうだから、曖昧にやんわりと断ろう。


「で、でもですね? 僕と一緒だとつまらないですよ?」

「別に? 洋君とならどこでも楽しそうだし」

「くっ……後悔しても知りませんよ」

「どっちにしたって、どう思うか決めるのは私じゃん」

「ぐ……」


 つまらないのが前提では通じないか。

 むしろ同行意欲を更に掻き立てる、墓穴を掘る始末だ。

 もう同行を認める以外に、納得させる術は無さそうだ。


「わ、分かりました……一緒に行きましょう」

「イエーイ! 流石だね洋君! ぼっち離れの第一歩だ!」

「……で、でも、飽きたら帰ってもいいですから」

「え? 最後まで楽しむに決まってるじゃん」


 ハードルが勝手に上げられ、本当にどうしたらいいのやら。

 軽く苦悩する中、呉橋会長は肩を組んで楽しそうに揺れ始めた。


「休日に年上美女とデート! 最高じゃん!」


 目を引く美人ではあるけど、ここまで堂々と言っちゃうのが呉橋会長らしい。

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積木君は詰んでいる とある農村の村人 @toarunouson

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