第42話頑張る知人
ラジオ体操の見回り中、屈伸運動で苦戦する10代の女の子が手を上げてた。
「大丈夫です?」
「か、体硬くて……お願いできますか?」
「はい、勿論です」
背中を軽く押してサポート完了だ。
このぐらいの接触なら、緊張感も少しで済むね。
サポートを何度かやり、ラジオ体操は乗り切れた。
参加者もじんわり体が温まったみたいだけど、マスク姿の女性が脇腹を抑えてる。
若干顔見知りと姿が重なって近付いたら、誰だか分かった。
「……モチモチ」
「し、シー!」
「やっぱり早見さんでしたか」
「はぅ!」
マスクを外しても、息が全然整ってないや。
体力の無さに自覚があるんだよね。
「レイブンく……積木君はどうしてここに?」
「師範に頼まれたんです」
「そうでしたか。ふぅ……ケホケホ……」
入念にサポートすれば、一応平気かな。
宮内のお婆さんに再開の合図を出そう。
「さぁ、体は温まったね? これから三種の簡易筋トレをするよ。まずは腕立て伏せ30秒間」
「フォームが分からない人は、挙手をお願いします! あ、今行きます!」
宇津姉がテキパキ動いてるね。
僕は早見さんのフォームを確認しよう。
「早見さん、フォーム大丈夫そうですか?」
「ふ、ふふーん! お姉の筋トレゲームを何となく見てましたから、大丈夫です!」
大丈夫な要素が見当たらないけど、一度見てから判断しよう。
宮内のお婆さんの合図で、30秒タイマーがスタート。
始まってるに早見さんがうつ伏せのまま、ピクリとも動いてない。
「……早見さん?」
「や、やれます……最後までやり遂げます……」
腕がプルプルで体が全然持ち上がってないよ。
うつ伏せ状態から変わらず、腕立て伏せは0回に終わった。
体験会の残り時間を考えたら、絶対力尽きる方が早いかな。
「さぁ、次は腹筋だよ。一分間どれだけ出来るか、己の限界を試すよ」
「隣の人と二人一組になって下さい! 一人は足を支えて、回数を数えて下さい!」
定員オーバーだし、ペア問題は無さそうだね。
なのに僕の袖を掴んでる早見さんが、上目遣いで一緒にやって下さいと訴えてるんだ。
「えーっと……ぼ、僕が支えますね」
「あ、ありがとうございます……その……敏感なので優しくお願いします」
「あ、はい」
足を支えるだけで、ビクビク動かれて凄く支え辛い。
タイマーがスタートし、一斉に腹筋が始まった。
「ふぁああああ! ふんにぃいいい!」
「……」
真っ赤な顔で精一杯力んでるのに、背中が床に着きっぱなしだ。
「はぁ……はぁ……ふにゅにゅにゅぅぅ!」
「……あの」
「な、何ですか……はぁ……はぁ……ふぎぃいぃぃ!」
「……諦めましょうか」
「諦めません! 腹筋バキバキ女子になるんですから! ふぃいいいい!」
最終的に腹筋も0回でタイムアップ。
やり遂げた感だけは一人前な早見さんだった。
「最後はスクワットだよ。目標は30回、限界が来たら座りなさい」
「スクワット後、小休憩を挟むので頑張って下さい! フォーム確認して欲しい方は挙手を! あ、今行きまーす!」
参加者のモチベーションは徐々に上がって、宇津姉も頑張ってるね。
問題の早見さんはどうだろう。
「どうです! 完璧ですよね!」
「黒タイツの芸人さんみたいですよ」
ドヤ顔されても足がプルプル震えてるよ。
フォームを保つので精一杯なんだね。
一応サポートがいるか聞いてみよう。
「フォームを正しても?」
「え!? な、直して下さい!」
「あ、はい。触れますね」
腰とお腹を優しく触れたら、さっきよりもビクビクと震えて、申し訳ない気持ちになった。
フォームを正せたし、他の皆さんのフォームも確認完了だ。
「それじゃあ行くよ……スタート!」
サポートの見回りを始めたいのに、フォーム維持したまま早見さんが動いてなかった。
「早見さん? もう始まってますよ?」
「つ……」
「つ?」
「つ、攣っちゃいました……足……一歩とたりとも動けましぇん!」
涙目の訴えにすぐ座らせ、攣ったふくらはぎをマッサージ。
ここまで体力のない人は初めてかも。
体験会に来た理由を、やんわりと聞いてみよう。
「体験会には体力作りの為ですか?」
「んっ! お、お姉にひゃん! 行ってみたらってにゃみ! 丁度暇だったのでみゅ! 来ましたみゃひぃ!」
「岩下さんが? 当の本人は来てませんけど?」
「師範にガミガミ言われるんにゅ! のが嫌だったみたいでしゅにゅ!」
2人はライバル同士だし仕方がないのかな。
岩下さんの代わりに、体験会が終わるまで早見さんを見守っておかないと。
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