8章 癖あり女子らのお願い

第48話元気な女先生、女生徒の願い

 宮内道場体験会から2日後。

 通勤通学車両で千佳さん達と合流し、真理さんが隣に座ってきた。

 

「1年生君♪ この前はありがとうね♪」

「い、いえいえ。お、お姉さんは?」

「すこぶる元気になったよ~♪ もう元気過ぎて怖いぐらい♪」

「な、なら良かったです……み、密着し過ぎじゃ?」

「気のせい気のせい~♪」


 気のせいなら、更に密着する訳がないんだけど。

 前よりも積極性が増してるよね。

 正面じゃ黙って見下ろす千佳さんがいるのに、どうしよう。


「……真理。明日は私が隣だから」

「え~? 1年生君はどっちがお好み〜?」

「え。お、お2人にお任せします」

「だって~♪ って事で、今後どっちが座るかお楽しみ~♪」

「今日の帰りは私だからね」

「あ、は、はい」


 それぞれが最寄り駅で降り、ホームルームも終え、1時間目の英語授業が始まった。

 真里さんの言ってた通り、原先生が元気そうで良かった。


「じゃあ、ここを積木君に答えて貰おうかな~?」

「はい」


 日々の予習復習のお陰で、難なく答えれた。


「次のリスニング問題は〜日付を足した出席番号の人にしようかな~♪ おっとー? またまた積木君だね~♪」

「は、はい」


 リスニング問題も何とかクリア。


 授業終盤、文法問題を当てるのに、教室内を見渡す原先生とバッチリ目が合った。

 嘘だよね。


「はい♪ 先生と目が合ったそこの積木君♪ 今日は随分と当てられちゃいますね~♪」

「で、デスネー」


 幸い復習の文法問題で無事乗り切れた。


 休み時間早々、英語授業の余韻で、机に突っ伏して、束の間の休息を取ってる。

 愛実さんに頭を軽くツンツンされてるけど、ツボ押しか何かなのかな。


「なぁ、積っち……めっちゃ当てられてたけど、何かしたのか?」

「い、いや……何も」


 真理さんの一件しか心当たりがないよ。

 もし今後も続くなら、相応の覚悟で英語授業を受けなくちゃだ。


「まぁ、元気出してな?」

「……はい」


 ツンツンが頭撫で撫でに変わってるや。

 優しい愛実さんにほろりと心の涙を流してたら、教室を出る峰子さんが視界に入った。

 入り口で立ち止まって、何か見下ろしてるような。


「あの……積木洋さんを呼んで欲しいんですけど……」

「洋か? おーい洋、お呼びだぞ」

「へ?」


 他クラスの生徒は交流無いし、誰だろう。

 手招きする峰子さんに近付くと、栗色のショートヘアーが外跳ねした、1年の女子生徒がいた。

 最近会った気がするけど、どこでだっけ。

 軽く首を傾げてたら、パッと記憶と姿が重なった。


「あ、宮内道場体験会の?」

「はい! 1-Dの時貞ときさだかなめです!」


 パァーっと花咲くように喜ぶ時貞さん。

 ラジオ体操の時にサポートしたんだった。


「いきなりですけど、積木さんのサポートに感銘を受けた上で、お願いがあります!」

「な、何でしょうか?」


 直接お願いしに来てくれてるんだ。

 可能な限り力にはなりたい。

 

「私、とても運動音痴で人並みに運動が出来るまで、サポートして欲しいんです!」


 キラキラ期待の眼差しと、やる気に満ちた姿が凄く眩しい。


「え、えーっと……期間は決まってます?」

「夏休み終わりまでで! 新学期明けの球技大会でさーちゃんをびっくりさせたいんです!」

「さ、さーちゃんって?」

「生徒会副会長の師走佐良ちゃんのことです! 私の従姉いとこなんですよ? どや!」


 どこか空気が似てると思えば、師走さんの血縁者だったのか。


「あのー教えて貰うなら師走さんの方が適役では?」

「さーちゃんって本能で動くタイプなんで、人に教えるのはベタくそなんです」


 師走さんは確かに本能で動いてるね。

 しかも天然な性格だ。

 何か学ぶのは困難なのかな。

 それでも運動万能ウーマンだから、確実に運動知識はある筈だよね。


「で、でも師走さんなりの良さもありますよね? た、例えば……教え方が難解なだけで、的確に的を射てたり……とか?」

「さーちゃんの場合、野生動物に運動を教えてくれ、と言ってるようなものなんですよ」

「そ、そこまで言います?」

「はい」


 事情を知った上で、断る訳にも行かないよね。


「えーっと……か、可能な限りでサポートしますね」

「ほんとですか! ありがとうございます!」


 激しい握手交わして、サポート交渉成立だね。


「あ、そうですそうです。これをお渡ししますね?」


 紙袋だ。

 中身を見て欲しそうだし、見てみよう。


「……く、首輪に鞭……?」

「はい! 私に着けて、鞭で厳しく扱って下さい!」


 とんでもない事に脚を突っ込んじゃったよ。

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