第58話お嫁さん候補、大事な友達

 完全に置いてけぼりな愛実さんに、ふーちゃんを紹介しないと。


「えーっと……昔、近所に住んでいた幼馴染のふーちゃんです」

「東海高校2年! 兼森かなもり吹雪ふぶきです!」

「ど、どうも……北春高校1年の瓦子愛実です……」

「あ! 1位の人だ! ごめんね! 今気付いちゃった!」


 ぶんぶん握手を交わす愛実さんは、ただただ呆然。

 無理もないよね。

 相手は底知れない体力を持つ、元気の塊も同然なんだもん。


 握手後も愛実さんをペタペタと触れながら、僕の腕に絡み付いてきてる。


「ふふふ~よー君と再会するなんてね! 皆にも知らせないと!」

「み、皆?」

「しゅーちゃんでしょー? ひーちゃんでしょー? あと、さーちゃん!」


 懐かしい3人の名前に、再び記憶がフラッシュバック。

 ふーちゃん以外にも、3人の女の子と一緒に遊んでたんだった。

 当時から詰んでる意識は微塵もなかったよ。


「でねでね? 皆、東海高校にいるんだよ!」

「そ、そんな偶然ってあるの?」

「私も正直驚いたよ! 同じ高校に幼馴染が集合するんだもん! もう嬉しくって嬉しくって! いつもよー君の話で持ちきりなんだから!」

「ぼ、僕の話で?」

「へぇー積っちって、そんなにモテるんだーへぇー」


 ジト目と言葉の一つ一つが、グサグサ突き刺さるよ。


「で、よー君は決めてくれたの?」

「え? な、何を?」

「4人の中から誰をお嫁さんにするかだよ♪」

「な?! そそそそうなのか積っち!?」

「せ、整理する時間を下さい!」


 爆弾発言で頭がパニック状態だ。

 愛実さんもパニクって、若干バグってるもん。


 嘘下手が今でも変わらないなら、お嫁さん発言は本当だ。

 それが分ったからと言って、僕はどうすればいいのか全く分からない。


「どう? もう整理できたかな?」

「ま、まだだけど……その……お、お嫁さん話って、誰が言ったものなの?」

「皆でだよ♪ 皆、よー君が好きだから、よー君に選んで貰おうって話になったんだよ!」

「で、でもさ? その話に全然覚えがないんだけど……」

「え? ……あ! あの時、よー君いなかったんだ! うっかりうっかり♪」


 うっかりどころの話じゃないよ。

 可愛らしく自分の頭をコツンとしないでね。

 今の今まで4人だけで、お嫁さん話が進んでいた訳だ。

 忘れてたんじゃなくて、そもそもが知らなかったのが、ある意味安心した。

 目の前の現実は変わらないんだけどね。


「4人とも常日頃から花嫁修業してるから、いつでもェルカムだよ♪」

「ちょ、ちょっといいですか?」

「何でしょうか、めぐちゃん!」

「め、めぐ……ど、どうしてそこまで頑張れるんですか?」

「頑張るもなにも、好きでやってるんだよ♪」


 今の言葉は本心だ。

 過ごした時間は1年だったけど、今も思い続けてくれて、有り難い気持ちで一杯だよ。

 同時にどうしようもなく複雑な感情が溢れて、どう言葉を返せばいいか分からないんだ。


「って事で、よー君! 私、兼森吹雪を貴方のお嫁さんにしてくれませんか?」

「え、選んで貰うんじゃなったの?」

「だね! けど……抜け駆けで言っておけば、私を沢山意識してくれるでしょ?」


 耳元で甘い声で囁かれ、一気に耳が赤くならない訳がないよ。

 完全に意識が向いちゃうし、容姿をまじまじと見てしまうよ。


 僕より少し低い背丈に、メリハリを主張する体。

 短めのスカートから覗く美脚、モデルでも十分通じる容姿端麗だ。 


「えへへ♪ ちゃんと意識してくれてるね♪ まだまだ発育中だから、将来的に沢山満足させられるよ?」

「ふ、吹雪さん! ええええエッチなのは印象悪いと思います!」

「えー? そうかなー?」


 全部本気で言ってるから色々と怖いんだよ。

 2人に挟まれて、腕に絡みつかれてるし、もう滅茶苦茶だ。


「そもそも、めぐちゃんに私達がどうなるか関係ないよね?」

「か、関係は大いにあります! わ、私は、つ、積っちの事を……」


 見つめて何かを伝えてきてる。

 色々と気付いてあげたいのに、鈍いから気付けない事が多いんだ。

 ごめんね、愛実さん。


「んー? よー君の事をー?」

「だ、大事な友達と思ってるんで! へ、変な風にたぶらかされるのを止めるのは、当然だと思ってます!」


 嬉しくもあって、どこか納得したくない自分がいて、もう頭が混乱気味だ。 


「ぷっ! アハハハハ! めぐちゃんって面白いね! 気に入ったよ!」


 スルリと離れて、僕らの前で堂々と立った。

 短いスカートの先がギリギリ見えてないけど、危ないよ。


「今日からめぐちゃんはライバルね!」

「ら、ライバルですか?」

「そ! いいよね、よー君?」

「……え? え!? 僕に聞く?」


 ライバル関係と言っても、なんでそうなってるのかサッパリなんだけど。

 本当に何を考えてるか全く読めないよ。


「今の連絡先♪ 2人のも教えてね?」


 連絡先交換後、くるくると回って鼻歌を奏でてるね。

 お陰で短いスカート先の白い下着が見ちゃったし、申し訳ない気持ちで一杯だよ。


「さて! そろそろ帰る時間だから、今日はこれでバイバイね!」

「え? あ、うん」

「むぅ! 返事の素っ気ない、よー君にはこうです!」

「むぇ?! な、何を」


 顔を両手で挟まれ、少し長めの頬キス。

 唇の柔らかな感触が頬に残ったまま、離れたふーちゃんが笑ってた。


「ふふふーん~♪ 次は真ん中だからね♪ じゃあねー! 未来の旦那さんー!」


 好き放題にやり切って、軽やかな足取りで去って行った。

 慌ただしい再会の余韻も忘れて、頬キスの事で顔が真っ赤だ。


「積っち……積っち!」

「はっ! め、愛実さん……」

「ん」

「え?」


 両手を広げて一体どうしたんだろう。

 お陰で少し落ち着いたけど、今の状況はさっぱり分からない。


「まだハグして貰ってない! ん!」

「そ、そうでしたね」

「ん!」


 ふーちゃんの乱入で、ご褒美ハグがお預けだったね。

 気持ちを切り替えて再度対面。

 今度こそハグをしようとしたら、無数の視線が刺さり、額から汗が伝った。


「み、見られてるよな」

「で、です……っ!?」


 北高の陸上部の皆さんと、目が合っちゃった。

 お互い数秒の沈黙が気まず過ぎる。

 誤解される前に弁解しなくちゃなのに、一気に攻め込んできた。


「め、愛実に彼氏だぁあああ!?」

「いつの間に作ってたのよ! 今すぐ教えなさい!」

「ちょ!? ち、違うって! つ、積っちは彼氏なんかじゃないって!」

「愛実と同じクラスの、確か……積本つみもとだ!」

「つ、積木です」

「偽名で乗り切るつもりだぞ! 馴れ初めを吐かせるまで、絶対に積本を逃すな!」


 わちゃわちゃと次々に質問攻めされ、愛実さんの最後の大会が幕を閉じていったのでした。

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積木君は詰んでいる とある農村の村人 @toarunouson

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