第52話女装の呪縛、初回のお試し
西女訪問の翌日。
昨日は色々あり過ぎて、全然疲れが残ってるよ。
自分の席に着くと、愛実さんが笑顔を向けてくれた。
「はよー夏洋……積っち!」
「わざとですか、愛実さん」
「だ、だって衝撃的な姿だったし、似合ってたしさ? へへへ」
夏洋の呪縛は一日じゃ解けないか。
元凶の呉橋会長に物言いたさが増すよ。
「おはよう、愛実、六華、夏洋」
「峰子さんまでですか」
「ん? 何がだ?」
良心の峰子さんでさ、この有様だ。
記憶が鮮明な数日間、女装イジリがあるって考えたら寒気がする。
来亥さんもほくそ笑んで、珍しく振り向いてきてるよ。
「夏洋ちゃーん……昨日は提供アリガトな」
「ど、ドウイタシマシテ」
「お陰で湧き水の如く構想が溢れてな、早速漫画に活用してるわ」
僕が女装しようが詰み場だろうが、一切どうでもいいんだもんね。
来亥さんには逸早く最高の漫画を描き上げて貰うしか、対等な関係にはなれないよね。
先の長い現実に頭が真っ白だけど、来亥さんを応援したいのは本物だ。
「あ、積木さん! ちょっといいですか!」
誰かと思えばニコニコな時貞さんだ。
入口から手招いてるけど、 用件はサポートの件だよね。
「どうかしました?」
「今日の放課後に早速お願いしたいんですが!」
「いいですけど場所どうします?」
「友達に秘密の特訓場所を教えて貰ったんで大丈夫です! ドヤ!」
鼻高々なドヤポーズはさておき、秘密の特訓場所ってどこなんだろう。
「あと、例のアレ持って来てますか?」
「ま、まぁ……カバンの中に」
「あれが有るのと無いのとじゃ、やる気が段違いですから!」
「あ、ハイ」
必ず首輪と鞭を使用しないとダメ。
そんな意味合いの眼差しだね。
「厳しく扱う練習もやっておいて下さいね?」
「え」
「渾身の鞭捌き、楽しみです! はぁ……はぁ……」
興奮気味に息を荒立てて、ある意味重症かも。
「それでは放課後迎えに来ますので、教室で待ってて下さいね!」
「りょ、了解です」
元気良く手を振り、帰って行った時貞さん。
鞭と首輪に興奮さえしなければ普通に可愛らしい人なのに。
自分の席に戻ると、愛実さん達が盛り上がっていた。
「何か面白いことでもありましたか?」
「今、会長から素晴らしい写真を送って貰ったんだ! ほれ!」
「写真? どれど……」
スマホの画面には、夏洋の恥じらう姿が。
着替えたてホヤホヤの時、呉橋会長が勝手に突入して激写した時のじゃないか。
「この機にさ、定期的に女装しない?」
「バリエーションなら用意してやるよ」
「金銭工面なら私に任せてくれ」
「勝手に話を進めないで!」
とても盛り上がっている詰み場の3名。
好き勝手される玩具にならない為にも、自分の意志を貫かねば。
♢♢♢♢
女装の件は保留で、授業を淡々と受け昼休みになった。
「こんにちわー! あ、洋お兄ちゃんー! 来たよー!」
本日選ばれたのは萌乃ちゃん先輩みたいだ。
トテトテと近付いて、何故か僕の膝上に座って来た。
「あ、あの萌乃ちゃん先輩?」
「居心地良いんだもん♪ フンフフーン~♪」
「萌乃先輩! 気持ち分かります!」
「愛実さん?」
「私も同意見だな」
「峰子さんも?」
お2人の気持ちは大変に有難いのに、来亥さんだけ歯をギリギリ鳴らして、凄く苛立ってるよ。
視線を合わせたらダメだ。
萌乃ちゃん先輩達に意識を向けるよう。
「そういえば洋お兄ちゃん」
「え? な、何ですか?」
「星さんから洋お兄ちゃんに似てる女の子の写真が送られて来たんだけど、お姉さんか妹さんなの?」
生徒会の皆さんにも拡散してるのか、あのモテない会長は。
その後も女装談議に花咲かす愛実さん達に、愛想笑いでお弁当を食べ続けたのでした。
♢♢♢♢
午後授業もあまり頭に入らず、いつの間にか放課後になってた。
「おーい積っち?」
「え? 何ですか?」
「いや、部活行くから挨拶と思って……まだ、女装のこと気にしてんのか?」
「気ニシテナイヨ」
「うわー分かり易」
本人の目の前で、楽しそうに女装談議されたんだから、現実逃避もしたくなるよ。
何となく嬉しそうな愛実さんは、ちょっとばかり気恥ずかしそうだ。
もう女装を話はこれっきりでお願いします。
「なぁ積っち……陸上の大会さ、今週じゃん?」
「え? あ、そ、そうですね」
「そのさ? ……部活も残り少ないし、悔いの無い様に……その……て、手を握ってやる気をくれないか?」
「手を? こうですか?」
正解の握り方か分からないけど、両手で優しく握ってみた。
細くしなやかで柔らかい、優しい温もりを手から感じれる。
「これ……一番やって欲しかったヤツ……」
「あ、そうなんですね」
1分ぐらい握り続け、もう大丈夫と言われて、ゆっくりと離した。
手汗を少し掻いたけど、嫌な気持ちにならなかったかな。
一応、今どんな顔か、そっと見てみた。
「あ、あんがと……じゃ、また明日……」
「あ、はい。また明日です」
颯爽と教室を出て行っちゃった、。
さっきの愛実さんの顔、言葉で言い表すのは難しいけど、顔を見て不思議な気持ちになれたんだ。
この不思議な気持ちが何なのかが、まだ良く分からないけど、きっと大事な気持ちなのは確かだ。
「あ、積木さーん! お迎えに上がりましたー!」
「は、はい」
気持ちを切り替え、ジャージ姿の時貞さんに続き数分後。
秘密の特訓場所に到着した。
「体育館裏の納屋裏です! ある程度の広さと、人目に付きません!」
「そうでしょうけど……」
首輪を着けて厳しく扱うんだよね。
誰かに目撃されれば、2人とも終わりだ。
「あのー……やっぱり普通のサポートでいいですか?」
「え? モチベ下がりますよ?」
「頑張って補いますんでお願いします!」
頭を下げてすぐ、そっと肩に手を置かれた。
もしかして、お願いが通じてくれたのかな。
「まぁまぁ、今日は初回ですし、試しに首輪を着けて下さい!」
細い首を見せ、着けられる気満々だ。
一度関わって引き受けた以上、逃れられないんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます