第51話臨海学校の話、生徒会長と同一人物、馴染めない一年女子

 自己紹介を終え、合同臨海学校の資料を斑田さんから貰い、話が始まった。


「ざっとだが、大まかな流れを説明する」

「OKOK~」


 資料通りだと、某所海沿いの宿泊施設に、西女1年生120名、北高1年生200名が参加予定。

 2泊3日の特別活動で交流を深め、普段体験できない事を学ぶ高校行事と書かれてるね。


 肝心の中身は、海水浴に始まり、近場の人気水族館や博物館で社会科見学。

 ガラス細工や陶芸の伝統工芸制作体験、合同カレー作り、肝試しエトセトラ。


 とにかく楽しみ尽くしのラインナップだね。

 今からワクワクが止まらないや。


「北高からは何かあるか?」

「ちょこっと要望がね。アンケを見てくれたまえ」


 雑に漁ったカバンから、くしゃくしゃのアンケート結果を渡す呉橋会長。

 整理整頓して欲しいよ。


「班決めの自由化、自由時間と消灯時間の延長……お泊り行事ならではの要望が多いな。西女は賛成するが、北高はどうだ?」

「いいんじゃない? 折角の一大イベントだぜ? 縛り過ぎたら色々と可哀想じゃん?」


 あの呉橋会長が1年生の気持ちを重んじてくれるなんて、ちょっと意外かも。

 なにはともあれ会長の2人には感謝しないとだ。

 

「では、北高も賛成か」

「んだ。あとさ、班決めの際にさ、例年通り男子生徒は一括りにされると思うんだわ」


 男子の数が少ないから、きっとそうなるだろうね。

 未だ同じクラスの男子にさえ、コミュニケーションが取れてない現状だし、もしそうなれば気まずくなりそうだ。


「ふむ。私達の時もそうだったな」

「でしょ?」

「あぁ。大事な交流が妨げになる括りは好ましくないな」


 水無月さんの威厳ある言葉に、嫌な予感がする気が。


 黒木場さんが気怠そうに手を上げ、ポッヒーを咥えながら喋り始めた。


「だったらよー寝泊り以外、北高は女の班に、男が1人ずつ入ればよくねー?」

「お、ナイス明日久ちゃーん♪ それ採用♪」


 臨海学校2泊3日が詰み場になるのか。

 詰みからは逃げられない運命なんだね。

 今すぐにでも気を失いそうだよ。


「1年生としての意見も聞きたいな」

「だね。夏洋ちゃんと蛍ちゃんよろぴー♪」

「は、はい! わ、私は皆さんが楽しんで貰えればいいので、賛成します!」


 ここで1人、首を横に振るのはあり得ない話だ。

 覚悟を決め、静かに首を一度縦に振り、賛成の意を示したのでした。


 班決め諸々の採用後、自由時間と消灯時間の延長の件の話題に。

 早々に意見を述べたのは、綺麗に手を上げる鵜乃浦さんだった。


「わたくしは延長に反対します。適切な休養を取らなければ、確実に後日へと響きます」


 まともな主張に対し、再び黒木場さんが口開いた。


「澪さー去年の臨海学校で、誰よりもはしゃいでー臨海学校終わった直後、丸一日子供みたいに寝ちまったよなー」

「……それは言わない約束ですよ、明日あすっぺ」

「知らねーとりま、あーしは延長に賛成ー」


 大和撫子風な鵜乃浦さんが、臨海学校ではしゃいでたんだ。

 全然想像出来ないや。

 当の本人は両頬を膨らませ、真っ赤な顔で黒木場さんを睨んでた。

 涼し気な空気はどこへやら。

 ギャップがある可愛らしい一面だと思うよ。


 延長の話も賛同で採用され、その後も臨海学校の話は順調に進んだ。


「ふむ、話は以上になるな。皆、お疲れ様」

「おつおつ~」

「星、夏洋君。今日はご足労をかけたな」

「もうー堅苦しいなー私と宵絵ちゅわぁんの仲でしょ~?」


 抱き着いて頬っぺたをツンツンする呉橋会長。

 もしかすると百合っぽい眼福光景じゃないかな。

 来亥さんに一報したら、数秒も経たずに返事が来た。


《最強のカップリングだね♪ 伝えてくれてありがとうね♪ 今日の事はもう気にしないでね♪ 六華♪》


 宮内道場の未報告の一件は許されたみたいだ。


♢♢♢♢


 用事も済み、帰り支度をしてたら、呉橋会長が水無月さんの大机で何かを発見していた。


「おりょ? これってラバーストラップかい?」

「サバイバルブラザーズのだ」

「人気ゲームのアレ?」

「あぁ。昔から好きでな、最新シリーズも最高だ」


 サバブラを遊んでるなんて、ギャップがあっていいね。

 ちょっと聞きなる話題だし、聞く耳を立ててみよう。


 どうやらかなりのサバブラ通で、ペラペラと熱く語り、呉橋会長が相槌マシーンになってた。


「それでだ。フレンドの中で尊敬して止まないフレンドがいてな……この前のオフ会で、本当は会える筈だったんだ」

「筈? どうしちゃったのよ」


 オフ会に参加するのが意外だったけど、当日に何かあったのだろうか。


「会えるのが楽しみ過ぎてな、気を紛らわすのに連日徹夜でサバブラをやっていたんだ」

「ほぅ、そんで?」

「結果、当日寝坊……最悪なコンディションのままでは無理と判断し、オフ会を諦めたんだ……」

「あちゃーま、ドンマイ、ドンマイ」


 落胆する水無月さんを抱き撫で慰める呉橋会長。


 話を聞いている内に、額から嫌な汗が流れるけど、気のせいじゃない。

 

 まさかと思うけど、サバブラのオフ会に寝坊して、結局姿を見せなかった、フレンドの宵絵じゃないよね。

 いつも甘々言葉で、べた褒めしてくれる、人懐っこい宵絵が、水無月さんと同一人物とは考え難いよね。


「宵絵がそこまで尊敬する方は、どんなお方な訳?」

「一言で言うなら頼れる方だ。私はレイブン様と呼んでいる」

「んっ?!」

「ど、どうしました夏洋さん?! あわわわ! お、お水持ってきますね!」


 あ、危なかった。

 咄嗟に口を塞いだお陰で、声バレせずに済んだ。


 水無月さんのレイブンという発言で、もうフレンドの宵絵と同一人物だって確定しちゃったよ。


「お、お水持ってきました! ど、どうぞ!」


 ミネラルウォーターを受け取り、カラカラな喉を潤した。

 何故か斑田さんが隣に座って来たけど、モジモジと何か言いたそうだ。


「あ、あの夏洋さん。よ、良ければ……れれれ連絡先交換しませんか!」


 両手でスマホを差し向け、プルプル震えて頭を下げてる。

 今連絡先交換すれば、確実に本名がバレる。

 身振り手振りで伝えてみると、とても悲しい顔になってた。


「だ、ダメですか? シューン……」


 今にも泣き出しそうだ。

 ハッ、そうだ。

 スマホのメモ機能を使えばいいじゃないか。

 すぐ文字を入力して、画面を見せた。


《すみません斑田さん。気持ちは大変に嬉しいんですけど、別の機会では駄目でしょうか?》

「……私がダメではないんですね?」

《はい》

「よ、良かったです。てっきり、こんなデカ女だから、嫌われてかと思ってました!」


 パァーと百点満点の笑顔に心が痛い。


「あ、あのですね? わ、私、高校から1人でこっちへ引っ越してきたので、まだ環境にも同じクラスの人とも馴染めていないんです……」

《そうなんですね》

「はい……で、でも、夏洋さんとなら仲良くなれそうと思って、声を掛けさせて貰ったんです」


 申し訳ない気持ちで一杯なのに、呉橋会長に声を掛けられて、文字を打つ手が止まった。


「おーい夏洋ちゃーん。お暇するよー」


 扉前で早く来いと手招いてる。

 急いで斑田さんに伝えたい事を文字に起こした。


《斑田さん。今度会う時、きっと貴方を驚かせてしまう筈です》

「ふぇ? そうなんですか?」

《はい。その判断次第で連絡先交換するか決めて下さい》

「よ、よく分かりませんけど、私は夏洋さんと連絡先交換したいです!」


 純粋でまっすぐな綺麗な瞳に、女装姿を今すぐバラして土下座をしたかった。

 罪悪感が凄まじい中、僕と呉橋会長は西女の生徒会室を出た。

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