10章 変化の日常

第59話好みの髪型、恐ろしい既視感

 陸上大会から早数日。

 数日前から愛実さんと電車通学することになったんだよね。


「積っち! おはよー!」

「おはようございます、愛実さん」


 肩の触れる距離の元気な笑顔は、朝からほっこりだね。


「いやー4時5時起き習慣が抜けないわー」

「二度寝は?」

「それが出来んくてさ、結局スマホ見てんだよなー」


 今までの生活サイクルが、がらりと変わったんだもんね。

 数日で切り替えるのも難しい話だ。

 これから時間は沢山あるし、ゆっくりと慣れていけばいいね。


「あ、そうだ。峰子さん直伝の睡眠質改善ツボ押しがあるんですけど、します?」

「え~じゃあ、やって貰おうかな~」


 すべすべ柔らかい綺麗な手を、丁重に丁寧に触れて、ツボ押しを数分。

 反応はどうかな。

 

「あ、あんがと……凄く良かった」

「眠れなかったら試して下さいね」

「えー? 次も押してよ」

「え」

「ダメ?」


 軽い上目遣いのお願いはズルいよ。


「2人ともおはよ」

「1年生君~♪ めぐちん~♪ おはろす~♪」

「あ! おはろすです!」

「おはようございます」

 

 千佳さん達との初対面は、呉橋会長の件もあったし、正直不安だったけど、ご覧の通り平和そのもの。

 凹状詰み包囲網には変わらないのに、他の詰み要素が無いから安心だ。


「めぐちんさ〜部活辞めたなら、髪伸ばしたりしないの~?」

「確かに私も思った。ロングも絶対良いよ」

「え~? そうですか~?」


 嬉しそうに照れて可愛らしいね。

 ロングヘアーも似合う筈だし、見てみたいかも。

 髪といえば、小乃美さんに釘刺された、身だしなみの事をまだ言えてないや。

 言うなら今しかないよね。


「キュピーン……1年生君の意見も聞いてみましょうか~♪」

「だね、1年生君」

「え」


 異様なプレッシャーが圧し掛かって来てるよ。

 言い辛いけど、言わなきゃ。


「め、愛実さんに似合う髪型なら、どんな髪型もいいんじゃないんですか?」

「マイナス回答に1万点減点~」

「ダメだよ、1年生君」

「え―…」


 本当の事なのに、伝えるのって難しいな。


「ショートかロング! 強いて言うならでいいからさ! お願い!」

「ろ、ロングですかね?」

「ほぅほう~この中じゃ、千佳だね~♪」


 微笑む千佳さんも満更でもなさそうだ。


「じゃあ、次ね」

「つ、次?」

「ストレートかパーマ、それにカラーの好み」

「あ、あの……個人的な質問になってません?」

「そうだよ。で、どうなの」


 期待の眼差しも、さっきより強くなってるよ。

 無難に黒髪ロングストレートって言えば、平和にやり過ごせるかな。


「黒髪ロングストレートの逃げは無しね~♪」

「うっ」

「図星かな。さ、素直に言っちゃって」

「ドキドキ……」


 本当に好みの髪型髪色は分からないんだよ。

 ここはもうダメ元で好きな漫画のヒロインで、乗り切るしかない。


「せ、セミロングボブの栗色……です」

「テンプレなお答えだこと。まぁ及第点だね~」

「美容室の予約しないと」

「時間掛かりそう……くぅ……」


 個性無き男でごめんなさい。

 

♢♢♢♢


 いつも通り授業を過ごして昼休み。

 今日も詰み場の3人と一緒だ。 

 あとは生徒会の誰かが来る予定だけど、時貞さんの件もあるし、暗堂さんじゃなければいいけど。


「こ、こんにちは……あ」


 暗堂さんでした。

 目が合った途端視線を逸らされちゃった。

 原因が分かってても、かなりショックだよ。


 逸らした割に、おどおど近付いてくれるのは、暗堂さんの優しさかな。


「ふぅー……積木さん……」

「は、はい」

「私……あの日からずっと考えたの……」


 弁明なら今しかない。


「あ、あれには深い訳が」

「そして分かったんです……」


 空気がよからぬ方向に吹いてるような。

 背筋に嫌な汗を掻いてるよ。


「私も同じ気持ちを経験すればいいって……」

「い、一体何を言ってるんですか?」

「放課後、あの場所に来てね……」


 既視感のある紙袋を手渡されたけど、中身はもしかして。

 違うよね。

 

「な、中を見ても?」

「いいよ……」

「ごくり……っぁ」

 

 なにも違わなかった。

 とげとげ首輪と極太鞭のセットで、時貞さんのよりもグレードアップしてるや。

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積木君は詰んでいる とある農村の村人 @toarunouson

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