第56話二人だけの思い出、大胆な性格の姉御女子

 注文したセットが届いて、記念に撮ってから頂くことに。

 普段写真なんか撮らないから、イマイチな出来栄えだ。


「撮り慣れてないと上手に撮れないですね」

「私もだ……あ、良いことを思いついたぞ」

「なんです?」

「被写体と人を一緒に撮ればいいんじゃないか」

「ナイスです!」


 人ち一緒なら誤魔化しも多少は効くもんね。

 先に撮ってくれるから、抹茶ラテセットに手を翳した。


 スマホは構えてるのに、中々シャッター音が鳴らないや。


「峰子さん? どうかしました?」

「……あ、いや。な、何でもない」


 珍しく動揺した後、何枚か撮ってくれた。

 一緒に確認したら、僕の方が画角に多く納まってる。


「もう一回撮りませんか?」

「これでいいと思うぞ」

「そ、そうですか? じゃあ、次は僕が撮りますね」

「あ、ちょっと待って」


 軽く身形を整えて、準備バッチリ。

 セットと峰子さんを画角に入れたいけど、顔が入らないや。

 位置的に立派なお胸が強調される一方だよ。

 

「あの……セットを持ってくれませんか?」

「……ん? あ、あぁ、セットか」


 ボーっと見つめてた峰子さんは、少し慌ててセットを持ってくれた。

 今度は綺麗な顔も入って、数枚撮れた。


「こんな感じです。どうですか?」

「洋はどう思う」

「そうですね……峰子さんが綺麗ですから、何でも絵になるので、これで大丈夫かと……」


 チラッと顔を見たら、仄かに頬が赤いような。

 口元も何だかプルプル震えて、表情を堪えてるのかな。

 時間差で視線に気付いて、慌ててプイっと顔を背けちゃった。


「……わ、私もそれでいい」

「なら良かったです。じゃあ、今度は一緒に撮りましょうか」

「……え」

「2人だけの思い出が欲しいって言ってたので。お節介でしたか?」

「そ、そんな事ない! 凄く嬉しいし、一緒に撮りたい!」


 余計な気遣いかと思ったけど、前向きで良かった。

 2人で自撮りってなると、距離は物凄く近くなるね。


「もしよろしければ、撮りましょうか?」


 気の利いた店員さんが来てくたし、お言葉に甘えちゃおう。

 ポーズは無難にピースだね。


「撮りますね……ハイ。どうでしょうか?」

「あ、バッチリです! ありがとうございます!」

「ありがとうございます」


 ツーショットも撮れたし、お互いほっこりだ。

 注文したセットも美味しく頂こう。


「ん……このクッキー凄く美味しいぞ」

「抹茶プリンも中々いけますよ」


 ここのテラスカフェは完全に当たりだね。

 ほのぼの過ごす空気が、落ち着けて心地良い。

 時間もまだ余裕だし、もう少し楽しめるね。


 セットの抹茶ラテと抹茶プリンを食べてたら、峰子さんがクッキー片手に何かハッとしてた。


「よ、洋、あ、あーん」

「え。あ、あーんですか?」

「あ」

「っまむ!?」


 見切り発車のあーんだったから、止まらずに強行されちゃった。

 急なあーんだったし、クッキーの味が分からなかったよ。


「お、美味しいだろ?」

「ふぁ、ふぁい」

「ふふ……口横に付いてるぞ」

「あ」


 クッキーの欠片を取って、パクっと食べられちゃった。

 ニコニコ微笑む峰子さんは、2人っきりだと大胆になる性格なのかな。

 気恥ずかしさを紛らわさないと平常心になれないよ。


 視線を逸らして気持ちを落ち着かせてたら、ゾッとする視線を感じ、恐る恐る見てみた。


 奥の席で監視する蘭華さんだ。

 手をワキワキさせて、今にも飛び掛かってきそうだ。

 全部見られてた証拠に、蘭華さんから連絡が来た。


《先程の姉様の写真を送って下さい。でないと、貴方に不幸が起こるでしょう》


 不幸を起こされる前に、さっさと写真を送ろう。

 数秒後、蘭華さんの腰砕け声が聞こえ、ご満足して頂けたみたいだ。


 ともあれ、蘭華さんのお陰で落ち着けた。

 視線を元に戻したら、変わらずにニコニコな峰子さんが、もう一回あーんするかと、クッキーを差し向けてた。


「だ、大丈夫です。峰子さんの分が無くなりますよ」

「今は食べてさせたい気分なんだ。あーん」


 クッキーがある限り、あーんが繰り返されちゃうぞ。

 これじゃあ心臓が持たないから、目には目を、歯には歯をだ。


 掬った抹茶プリンを差し向けるあーん返しに、目をぱちくりさせて軽く動揺してる。


「よ、洋こそプリンがなくなるぞ」

「峰子さんに食べて欲しいので。あーん」

「……あ、あむ……」


 目を瞑りながら無事にあーん返しに成功。

 頭から煙が出て、真っ赤な顔で俯いちゃった。


 その後あーんは無く、楽しく時間を過ごし、お会計に。

 マグカップのお礼に、支払いは僕持ちだ。

 前の人の会計が終え、伝票を渡した時、会計カウンターのギフトクッキーが気になった。


「あ、愛実さんと来亥さんのお土産にどうですかね」

「私も同じことを考えていた」

「なら、買わないとですね。すみません、クッキーもお願いします」


 会計後、外で時間を確認したら、会場に向かうのに丁度良い時間だった。


「思ったよりのんびり出来たな」

「ですね。今日はこの辺にしてましょうか」

「だな」


 会場に向かう道中でも、恋人繋ぎをしてくれた。

 温かく優しい手の平に、若干照れる中、峰子さんは微笑んでた。


「洋、また私とデートしてくれるか?」

「ぼ、僕で良ければ」

「ふふ……楽しみにしてる。さ、行こうか」


 上機嫌に手を引かれ、会場に向かう僕らだった。

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