第44話腕に絡みつく女性達

 体験会終了の5分前なのに、野菜が半分残ってる。

 到底間に合わない量に絶望が過る中、肩に手を置かれた。

 振り返ったら、ポニテエプロンの姉さんが立っていた。 


「ね、姉さん?!」

「やっぱり洋だったのね。町ブラはどうしたの?」


 経緯を簡潔に説明して、姉さんもここにいる理由を話してくれた。


「宇津姉さんに急遽来て欲しいって連絡があったのよ」

「そうなん……あれ? 宇津姉の連絡先知ってたの?」


 話を聞けば、前のタイムセールの日、僕と駅で合流する前、宇津姉と偶然会ってたみたいだ。

 つまり4月には再会してたんだね。


「さ、今は手を動かしましょう」

「そうだね」


 心強い助っ人が来てくれて、絶望感は綺麗さっぱり消えたぞ。


 体験会終了時間ピッタリに野菜を切り終え、姉さんとハイタッチした。


「姉さんのお陰で間に合ったよ」

「可愛い弟の為よ」


 昔から優しく微笑んで、頭を撫でてくれる姉さん。

 心からホッできるね。


「そういえば空は?」

「庭にいる筈よ」

「そっか」


 ほんわか空気の中、宇津姉が勢い良く現れた。

 キラキラ目を輝かせて、僕らを抱き締めてきた。


「蒼ぉおお! 手伝ってくれてありがとう! あ、そういえば空にも会ったけど、思わず挨拶代わりに抱き締めちゃった! ちんまり具合は前と変わんなくて、とても良かったよ!」

「宇津姉さん……頬擦りが激しいわ」

「すべすべモチモチの現役女子高生の生肌だよ? もっとすりすりしないと損じゃん! しかもめっちゃ良い匂いするね! シャンプーって何使ってるの? あとで教えてね!」


 怒涛の言葉攻めとスキンシップに、姉さんはなされるがままだった。


 道着から私服に着替え、宇津姉達と野菜を庭へ運んだ。


 庭では宮内のお婆さんがテキパキ火付け中で、参加者さん達が感心の声を上げてた。

 私服姿の参加者さん達は和気あいあい会話したり、のんびり休憩したり、のどかな時間を過ごしてるね。


 空が見当たらないけど、早見さんと縁側で楽しそうに会話してたみたいだ。

 野菜をテーブルに置いて近付くと、空が気付いてくれた。

 

「あれ? お兄ちゃん?」


 本日二度目の事情説明に、何か思い立った空は密着してきた。

 スンスン匂いを嗅がれてるけど、軽く汗臭いだけだよ。


「い、いつもよりお兄ちゃん臭が……スンスンスン……はふぅ……」

「空、汗臭いから離れて」

「あ、あと少しだけ……はふぅ……」


 見かねた姉さんが、渋々引き剥がしてくれた。


「うぅ-! んー! ま、まだ嗅ぎ足りないよ!」

「ダメなものはダメ」

「だ、だってー! んー!」


 下唇を噛み締めて、物凄く悔しそうに訴えてるけど、もう今日は嗅がせないよ。


 そんなやり取りの中、宇津姉がハッと僕の腕に絡みついてきた。

 柔らかな大きめな胸に挟まれて、一気に動揺してしまう。


「ねぇねぇねぇ! せっかくの積木家三姉弟が揃ったんだし、私と記念撮影しようよ! ほら、蒼、空! 私の方に寄って寄って! もっとギュッとしないと!」


 姉さんと空が密着し、ポーズを決めて仲良く記念撮影。

 皆で写真を確認してる一方で、空は歯をギリギリ鳴らしてた。


「ぎぎぎ……おっぱいでお兄ちゃんを挟んでる!」

「抱き着いたら自然と挟んじゃうんだよ! 洋も何だかんだで嬉しそうだったもんね!」

「ちょ! 宇津姉! 変なこと言わないでよ!」


 空が信じられないって顔で、わなわな震えながら言葉が溢れてた。


「や、やっぱりお兄ちゃんって、おっぱい大きいのが良いの?!」

「な、なんで?」

「だ、だって! 私が抱き着いても全然動揺しないもん! 私のが全然おっきくないからでしょ!」


 最近の空は、こういった類の話になると眼の光が消えて、本当に怖いんだよね。


「そ、そんな事ないよ。兄妹同士だから動揺しないだけだよ」

「くはっ! そ、それでも私は……お姉ちゃんみたいな巨乳に、なり……たい……」


 まだまだ成長期だし心配しなくてもいいのに、落胆っぷりが凄まじい。

 美味しい焼肉を食べて欲しいし、元気になって貰わないと。


「……家に帰ったら甘えていいよ」

「ほんと!」


 笑顔満開の可愛らしい顔に戻った。

 

 いよいよ焼肉が始まる空気になり、空腹が増す焼肉ムードの中、早見さんがスマホを胸の前に抱え、あたふたと傍までやって来た。


「あ、あの積木君……私とも記念に撮ってくれませんか?」

「え? あ、はい」

「ほ、ほんとにいいんですか?」

「? はい」

「あ、ありがとうございます! では、失礼しますね!」


 早見さんは腕を絡めて自撮りを始めた。

 まさかの大胆行動に、動揺と赤面が隠し切れないよ。

 早見さんも顔を赤らめて、もじもじじゃないか。


「そ、その……程良くならあると思うんですけど……どうですか?」


 程良くあるお胸を更に密着させる早見さん。

 今にも顔から火が出そうだよ。


 絶賛動揺中、早見さんは何も言わず撮り終え、そのまま写真を確認してた。

 顔も胸も全てが近過ぎて、頭がパニック寸前だ。


「えへ……ちゃんと撮れました! 見て下さい!」

「い、色々と近いですよ……」

「ふぇ? ……はみゅ!? す、すみません! う、嬉しくてつい……」


 ゆっくりと離れ写真を見せて貰った。

 僕は照れた残念顔、早見さんは赤面笑顔。

 見栄えこそイマイチだけど、早見さんがぽわぽわ嬉しそうならいいのかな。


 一方、ペタペタ自分の胸に触れ、表情がパァーっと明るくなる空は、僕の胸元に抱き着いてきた。


「お兄ちゃん! 私にもまだ希望があるんだよね!」

「え? う、うん?」

「むふぅぅー! お姉ちゃんみたいに大きくなるね!」


 何とも言えないけど、とりあえず空の頭を撫でて上げた。

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