第45話お肉を牛耳るOL
焼肉の準備が完了して、宮内のお婆さんがパンパン手を鳴らし、くつろいでいた参加者さん達の背筋が伸びた。
「今日はお疲れ様。さぁ、思う存分食べて行きなさい」
「軍手とトングが欲しい人は、私かお祖母ちゃんに聞いて下さい! 持って行きますから!」
黄色い返事で肉や野菜を網に乗せ、焼肉が始まった。
平和な空気の中、姉さんと空、早見さんとバーベキューコンロを囲んだ。
「さぁ焼きましょう。お腹が空いたわ」
「お肉~♪ あ、飲み物用意してなかった!」
「私もだわ。先に焼いててくれる?」
「了解。あ、カルピソもお願い」
2人を見送り、早見さんと2人っきりだ。
なんだかんだ初めてかも。
「積木君! 私、今日は沢山頑張りましたよね! ふんす!」
「頑張りましたね」
真面目に頑張ってた姿を間近で見てたもんね。
マイペースでもいいから、無理せず理想の体になって欲しいかな。
それにしても、負傷した手が利き手じゃなくてホッとしてる。
早見さんもトングをカチカチ鳴らし、肉を焼いて嬉しそうだ。
「肉肉お肉~♪ じゃんじゃんお肉~♪ 貪り~欲張り~かぶりつき~♪ 全ては私の腹の中~♪」
即興オリジナルソングを口ずさんで、可愛らしいのだけど、お肉を網に乗せ過ぎじゃないかな。
結果、網一面が肉色に染まり、野菜色が一つもない景色になった。
冗談と思いたいのに、ちゃんと一枚一枚焼いてるから、野菜をわざと焼いてないのか。
「肉焼き過ぎじゃないですか?」
「な、何言ってるんですか! 焼肉はお肉のお祭りですよ!」
「あ、はい」
肉持ちトングを向ける本気の気迫に、思わず両手をあげてしまったよ。
「で、でも、や、野菜も少し焼きませんか?」
「お肉のお祭りにはNOベジタブルなんです!」
野菜は邪道だと、トングで強調している。
野菜嫌いなら食べなければいい話だけど、網一面の肉景色を解消しないと、野菜がそもそも介入余地がないんだ。
「しかも美味しそうな肉を、体験会参加費千円ちょっとで食べ放題なんですよ?! 最高じゃないですか! しかも飲み放題! うぅ~……焼肉最高!」
今日一のテンションで追加肉を乗せ、焼けたのからどんどん幸せそうに食べ始めてるよ。
空いた場所に野菜介入しようとしても、速攻で肉増援されて手も足も出ない。
「お兄ちゃん! 流さん! お待たせー!」
「はい、洋のカルピソ。早見さんはお茶で良かったですか?」
「あ、わざわざすみません! へへ~」
ヘラヘラとお茶を受け取るも、すぐトングに持ち替え、肉を続々投入する作業に戻ってる。
「お、お肉しかないね」
「空ちゃんもどんどん食べて下さいね! 食べ盛りの時期は大事ですから!」
受け皿にじゃんじゃん盛られる肉を僕らに分け、優しさ溢れる早見さん。
ここで積木家は同じ考えを視線で伝え合った。
野菜を摂らずして焼肉は成立しない。
そんな健康志向を積木家は大事にしている。
お肉祭りを終わらせるには、早見さんを満腹にすればいいと、積木家は一致団結する。
やる事はまず、肉を食べながら肉追加を同時に行い、早見さんを食べる事に集中させる事。
食の集中誘導係は、空が自ら買って出た。
「あ、早見さん! お肉焼けましたよ! どうぞどうぞ~」
「どもども~空ちゃんにも、お礼のマシマシお肉を贈呈~」
「え、あ」
受け皿の分が消費されていないのに、追加されてるだと。
姉さんとで空の追加分を減らし、自分達の物も同時に食べ進める。
10分以上経っても、衰えず上機嫌で食べ続ける早見さんに、ふとした事が過る。
ゲームのオフ会の時、早見さんの実姉岩下さんが大量の料理を、一人でぺろりと平らげていた事を。
もしかすると早見さんも、大食家なんじゃないか。
「あ、お茶がなくなっちゃった……皆さんも飲み物足りますか?」
「だ、大丈夫です」
「ま、まだあるので大丈夫です」
「もう……お腹いっぱいだから大丈夫でしゅ……」
「分かりました! あ、お肉焼いといて下さいね! フンフフ~ン♪」
お茶を取りに行ったチャンスなのに、ボロボロで全然箸が進まないよ。
受け皿にも肉が残ってるし、空は椅子で項垂れてギブアップ。
敗北濃厚な僕らの下へ、陽気な宇津姉がやって来て、驚いた顔になってた。
「わ!? 洋、こんなに食べるの?! そうか! 食べ盛りだもんね! まだ足りない感じでしょ? 今追加のお肉持って来てあげるから待ってて! あ、飲み物もないね! コップの中身はカルピソだね! 少々お待ちになってー!」
「ちょ! ……ぜ、絶対に食べきれないじゃん……」
最悪の追撃に死体蹴りじゃ済まないじゃん。
限界間近のお腹が白旗を上げてるんだよ。
もはや逃げ場はない。
そんな諦めたところへ、大きな人影が傍に来ていた。
「お? 沢山焼けてますね! 少し貰っていいですか!」
「あ、力壁さん! 遠慮なく好きなだけ持ってって下さい!」
「うっす! ありがとうございます!」
焼けた肉を大量回収する力壁さんは、まさに救世主だ。
丁度入れ違いで早見さんが帰還した。
「フンフフ~ン♪ お肉……あれ? 網のも焼けたのもスッカラカンです!?」
お肉ショックの混乱中に、野菜を投入しないと、もう野菜は焼けない。
「他のとこに全部上げちゃったんですよ」
「あ、そうなんですね。じゃあ、新しくお肉を焼きま……」
「箸休めに野菜焼きますね」
網一面が野菜で埋まり、姉さんと視線を合わせ喜んだ。
野菜が焼けて、やっと箸休めを実感できるね。
ちまちま野菜を食べる早見さんは、早々に箸を置き、両手を合わせてた。
「ふあぁ……おにゃか一杯……けぷ……ごちそうさまでした」
椅子に座って今にも寝ちゃいそうだ。
お肉タイムも終わりにして、野菜タイムに突入だ。
残りは野菜でお腹を満たせば、無事にごちそうさまだ
「お待たせー! 追加のお肉持ってきたよ! ドン!」
「「あ」」
「お、焼けたお肉も無くなってるね! こんなに食いっぷりがいいと、準備した甲斐があるもんだね! あれ? なんで蒼と洋はそんな悲しそうな顔してるの? ははぁーん! やっぱりお肉足りなかったんだね! ナイスタイミングすぎて自分でもビックリ!」
流石にこれ以上肉を食べるのは無理だと、僕らは白旗を 振ったのでした。
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