第46話逆プロポーズ
僕らの満腹宣言に宇津姉はケラケラと笑ってた。
「アハハ! じゃあ、お肉は全部食べちゃうからね! 何も食べてなかったから、お腹ペコペコだったんだよね! あ、トング頂戴! あんがと! 豪快に全部焼いちゃえ! えいやー!」
網一面の肉景色に、宇津姉だけが興奮してるよ。
焼けたら食べる作業が、数人もの残像が見えるぐらい早過ぎる。
「す、凄い速さで減ってるわね……」
「う、うん」
大人しく食べ終わるまで、休憩しておこう。
姉さんと話してると、復帰した空に袖をクイクイと掴まれてた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「ん?」
「流さん、気持ち良さそうに眠っちゃった」
「スゥ……スゥ……」
「あらー……」
食べてすぐ眠ちゃうなんて、まるで子供みたいだ。
自然に起きるまで静かに見守ってようかな。
宇津姉が肉を綺麗に平らげると、今度はビールをグビグビ飲み始めた。
軽く十人前の肉を食べたのに、ビールは別腹なのかな、飲むペースが全然落ちてないや。
「ぷぅふぁ! 晴れの日の外で堂々とビールを飲めるなんて、やっぱ最高だね! しかも真っ昼間! こんな好条件は中々に味わえないよ!」
「いい飲みっぷりだね、宇津姉」
「まぁね! 大学の飲みサーを何個も潰しただけはあるよ! 飲みサーなのに誰もかれもお酒が弱くて、毎回皆酔い潰れちゃってんの! で、最終的に私の1人飲みになるんだよね! グビグビ……カァー……美味い!」
6本ケースを飲み干して、次のケースに手を伸ばしちゃってる。
どんなキャンパスライフを送ってたのか想像できるね。
なのにスタイル抜群だから、なんとも言えないよ。
♢♢♢♢
そろそろ片付けムードで、早見さんを縁側に一時避難させた。
起きる気配がサッパリだけど、帰りはどうするのかな。
ビールを手放さない宇津姉は、酔わずにひたすらビールを消費するマシーンになってる。
そんな縁側でくつろぐ宇津姉の前に、宮内のお婆さんが立って見下ろしていた。
「あ、お祖母ちゃん! 一緒に飲もうよ! 飲み相手いなくてつまらなかったんだよ!」
「そんなのは後回し。さっさと仕事をしなさい」
「えー……じゃあ、この飲みかけ飲んでからね! あ! 没収しないでよ!」
「仕事は仕事、飲みは飲み。しっかりと
メリハリを付けなさい」
「ぶー……分かりましたよー」
不貞腐れてビールを一気に飲み干し、渋々片付けを始めた。
毎日、宮内のお婆さんに同じような事を言われているんだろうね。
なんだか微笑ましいね。
「洋坊や。今日は本当に助かったよ」
「いえいえ、困ったときは助け合いですので」
「カッカッカ……何かあれば遠慮なくアタシらを頼りなさい」
「はい」
「いい返事だね。これ、少ないけど約束のバイト代だよ」
「あ。では、有難く頂きます」
中身を見てもいいと言われ、有り難く確認してみた。
学生には破格の1万円と数千円、かなりの大金だ。
遠慮は逆に失礼だ。
素直に感謝しようz。
「ありがとうございます。大事に使わせて貰います」
「カッカッカ! それでいいさ。また来月に体験会をやるつもりだから、是非とも来てくれるかい?」
「え? いいんですか?」
「むしろ来てくれた方が助かるよ。丁寧で優しくて分かり易かったって、皆の評判が良かったからね」
サポートした参加者さん達をみたら、ニコッと手を振ってくれて、他の人も同様の反応をしてくれた。
僕なんかが役立てるなら、次回もお言葉に甘えようかな。
「是非、その時が来たら行かせて貰います」
「うんうん。さぁ、洋坊や達も片付け手伝ってくれるかい?」
「勿論です!」
全員で片付けやり、スムーズに終わった。
最後に宮内のお婆さんの挨拶で、今回の体験会を締めくくりだ。
「今日学んだことは、いざって時に役立つ。しかし、慌ててしまえば元も子もない。だから何時如何なる時でも冷静に行動する事。分ったかい?」
ハキハキとした返事に、優しい顔で頷く宮内のお婆さん。
「いい返事だね。一本締めで締めるよ。よーっ!」
景気よく一本締めが決まり、拍手が沸き上がりながら体験会が無事終了した。
参加者さん達が帰り際、次回もよろしくと言って貰えて、名前を教え合ったり、短いけど交流を深められた。
そんなやり取り中、空はジッと腕に絡みついて離れなかったんだよね。
そろそろ僕らも帰ろうとしたら、宇津音が何か思い付いた顔で、僕の肩を正面から掴んできた。
「え? な、なに?」
「洋! 私のお婿さんにならない?」
「ぶっ!?」
いきなりの爆弾投下に吹き出さずにはいられないよ。
腕に絡みつく空も動揺のあまり、物凄く震えてる。
「ななななな?! ううううう宇津音お姉ちゃん!? ななな何言ってるの?!」
「いや~洋のサポート姿を見てたらさ? 洋と道場経営してる将来が見えちゃった訳! って事で、来る?」
友達を軽く誘ってるんじゃないんだよ。
気持ちは有難いけど、昔馴染みのお姉さんには変わらない。
やんわりお断りしかけたら、空が乱入してきた。
「お、お兄ちゃんはまだまだ結婚しないよ! ね? そうだよね!」
「え? う、うん」
「ふふーん! という事で宇津音お姉ちゃん! もっと現実味ある結婚でよろしくね♪」
空の介入で引き下がってくれたらいいのに、宇津姉が変わらずに言葉を続けてる。
「現実味ならあるよ? だって、頑固で怖いお祖母ちゃんがほとんど人を認めないのに、洋はお墨付きで認めてんだよ? もう、お婿に来なきゃダメでしょ?」
お墨付きだからと言って、極端過ぎるよ。
ビールの飲み過ぎで、酔っ払っちゃってるんだ。
水を持ってこようとしたけど、宮内のお婆さんが宇津姉の背後に現れ、思いとどまった。
「誰が頑固で怖いって?」
「げ?! お祖母いでででで?! こめかみぐりぐりは止めて! 頭がおかしくなっちゃうから!」
見るだけでも痛そうな、こめかみぐりぐりで涙目だ。
涎も出る程痛がるなんて相当だ。
ようやく解放されて、うーうー蹲って唸ってる。
自業自得だけど同情するよ。
「洋坊や。宇津音がすまないね」
「い、いえ」
「カッカッカ……洋坊や。いつでも歓迎するよ」
「は、はい」
宮内のお婆さんも大変に前向きなのが分かった。
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