第40話ギャルの親友、楽しみな女優
原先生は最近の真理さんについて、落ち着いた声で聞いてきた。
「なんかね、最近元気がない感じでね。思い当たる節がないか聞きたかったんだ」
「元気がない……確かにそう言われれば……」
前はちょっかい掛けて、笑って楽しそうだった。
最近は大人しく見守ってる感じだ。
あっても、たまに相槌とか話題振ったりぐらいだ。
それに帰りが一緒になる事もなくなってるんだ。
違和感はあったけど、やっぱり元気がなかったんだ。
「積木君の前でも同じ感じ?」
「はい」
「そっか……なんか、ごめんね。ペラペラと私情を話しちゃって」
「いえ……何か僕に出来ることはありませんか?」
僕も姉さん達がいるから、原先生の気持ちは分かる。
だから原先生の力にもなってあげたい。
「ありがとう積木君。でも、あとはこっちでなんとかするから」
「……分かりました」
帰っても大丈夫と言われ、僕は生徒指導室を後にした。
♢♢♢♢
帰宅車両に乗り込んで、西女の停車駅に着くのを待ってる。
本当おこがましいけど、元気のない真理さんも、心配する原先生も、放って置けないんだ。
だからもし、今日真里さんが千佳さんと一緒に乗ってきたら、直接話を聞こうと思ってる。
西女の停車駅で千佳さんが乗り込んできたけど、真理さんは一緒じゃないや。
隣に座る千佳さんは、何でか僕に頭を下げてきた。
「朝はごめんね?」
「あ、朝?あ」
蘭華さんの件の事か。
ついつい、真里さんの問題で忘れてた。
「もう気にしてないんで大丈夫ですよ。顔上げて下さい」
「……ありがと」
嬉しそうな千佳さんに、いつものグレープ味の飴玉を貰った。
いつもならすぐ食べるけど、今日は真里さんの問題が大事だ。
「食べないの?」
「……千佳さん」
「ん?」
「最近、真里さんと一緒に帰ってないですけど、何かあったんですか」
千佳さんは少し驚いてから、すぐ申し訳なさそうに軽く俯いていた。
「……うん。原因は知ってる。けど、真理の意志だから」
自分で距離置いてるなら、もう直接話を聞くしか解決方法はなさそうだね。
今日は無理でも、明日の朝には絶対聞こう。
それより、近くから視線を感じるような。
あ、隣車両の扉越しに真里さんがいるじゃないか。
でも、すぐ姿を隠されちゃった。
僕は千佳さんに一言告げ、隣の車両に向かった。
「真理さん」
軽く体がピクついた真理さんは、何もなかった素振りで陽気な顔を見せた。
「ちょっと1年生君~? 千佳はいいの~?」
「今は真理さんに用があるんです」
「へぇ~でも、1人でいたい気分なんだよ~ほら、戻りなよ~」
「じゃあ、なんでそんな寂しそうな顔なんですか」
「……え」
原先生から話を聞いたから、余計に真理さんが寂しそうに見えるんだよ。
真理さんも自覚がなかったのかな、かなり動揺してる。
「き、気のせい気のせい~今日って天気悪かったでしょ~? そんな日ってテンション下がるんだよね~」
「今日は清々しい晴れ日和でしたよ」
話を逸らしても、今日の僕は引き下がらないよ。
「あぐぅ……い、今のは冗談で! き、昨日お姉ちゃんと喧嘩しちゃって……うん! それそれ!」
「原先生、真里さんが元気じゃないのを、本当に心配していましたよ」
図星だったみたいだ。
すっかり黙り込んじゃった。
千佳さんもやって来て、少し怒っている様にも見えた。
「ごめん1年生君。私から言わせて欲しいの」
「はい」
「ありがと」
軽く微笑んだ千佳さんは、すぐ真里さんの方に顔を向けた。
「真理。顔上げて」
「ち、千佳……」
「……支えてくれる気持ちは嬉しいよ。けど、らしくない真理に支えられるのは嬉しくない」
「ち、千佳の為だよ? 別に私の事なんか、気にしなひゃ?!」
無言強めのチョップに、真理さんは涙目になった。
「親友だから、気にするよ」
「うぅ……」
「どんな結果になっても、私は受け入れるから……だから、いつもの真理のままで支えて見守ってて」
「千佳……私、邪魔じゃない?」
「今言ったでしょ。いつもの真理に支えて欲しいの」
「うぅ……ごめんね千佳……」
千佳さんに抱き着く真里さんは、そのまま頭を撫でられて静かに泣いていた。
しばらくして、元気を取り戻した真里さんは、僕の腕に抱き着いて来た。
「んふふ~♪ ありがとうね、1年生君」
「い、いえ」
「君は君のままでいいからね~」
「え? あ、はい」
「真理……過剰な接触はダメって前言ったよね……」
「ひゃ~千佳が怒っちゃう~」
いつもの空気に戻ってくれて、本当に良かった。
原先生も真理さんから直接いい報告が聞けそうだね。
♢♢♢♢
それぞれ降車駅で降り、時間確認でスマホを見た。
そういえば、電源を切ってたんだ。
すぐに電源を入れようっと。
時間確認よりも先に、新着の通知相手に目がいった。
「……渚さんから来てたのか……」
内容は至ってシンプルだった。
《スタンプは禁止って言ったじゃない! 許すまじ、積木洋!》
つくづくやってしまった。
本日何度目の後悔なんだろう。
とりあえず謝罪が最優先事項だ。
《すみません。電源切ってました》
数秒もしない内に返事ですって。
時間が空いたし、中身が怖いや。
ここは恐る恐る見よう。
《嫌われたかと思ったじゃない! 心配して損した! あーあ! 責任取って貰うから!》
怒ってはないけど、責任はどう取ればいいんだろう。
《責任ですか?》
《そうよ! 再来週のオフ日のヤツ! アンタが正式に許可しなさい!》
遊びに来る件の事だよね。
てっきり別の事で責任取らされるかと思った。
《もう遊びに来ると思ってました》
秒の返事は案外あっさりしたものだった。
《それならいいわ。じゃ、撮影始まるから、またね》
《はい。頑張って下さい》
これで渚さんの暇潰し連絡は完了だ。
と思えば、また来た。
《楽しみにしてるわ》
口の動きが違う自撮りが、文字数分だけ送られてきた。
渚さんって案外暇なのかな。
そんな怒涛の1日を終え、よたよたと帰り道を歩くのでした。
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