第37話あーんする生徒会
僕が言葉を詰まらせている間、蘭華さんは欲のままに言葉を続けた。
《ね、姉様と一緒の空間に……はぁはぁ……長時間いられるのですよ! 行かなくてどうするんですか!》
遊びに来る前提で話をしているぞ。
ここでお断りすれば、より面倒になるのは目に見えている。
だから許可するしか選択がないんだ。
《さぁ! ご決断は如何に!》
「是非遊ビニ来テ下サイ」
《片言返事が気になりますが、よろしいのですね?》
「YES」
《言質は取りましたから取り消し不可です! では、失礼致します!》
プープーと通話の切れる音で、疲れが一気に乗っかって来た。
当日無事乗り切れるか、今から心配で仕方がないよ。
すっかり疲れ切ったまま生徒会室に何とか辿り着けた。
「お、洋君。今日は遅かったじゃん」
「ま、まぁ……」
「ふーん。ま、はよ座りんしゃい」
と言っても、どうしていつも誰かしらに挟まれる場所なんだろう。
あれやこれや突っ込めない気分だし、今はゆっくりお昼ご飯を食べよう。
「ふぅ……」
「積木さん……疲れてるの?」
「まぁ……ちょっとだけ」
「そうなんだ……そんな時は糖分摂った方がいいよ」
「ですね」
「だからね、今日も甘い卵焼き作ったから……あ、あーんさせて……」
折角のあーんご厚意を無駄にしたくないし、パクリと一口で頂いた。
いつも通り美味しいや。
そんな僕の反応に、暗堂さんはみるみる顔を赤くさせ、両手で顔を隠してた。
ちゃんと、いただきますを言ってなかったのが、まずかったのかも。
「す、すみません。何も言わず食べてしまって」
「う、ううん……食べて貰って嬉しいから……気にしてないよ」
相変わらず可愛らしい人だ。
もう1つ食べてもいいか聞こうとしたら、正面の呉橋会長が大変に不機嫌な顔で、ジーっと見て来てた。
「なーに、人様の前でイチャコラこいてんだ。おぉ?」
「柄悪いですよ、呉橋会長」
「今度は私の自家製麻婆豆腐を食らえよ。ほら、あーん」
何故、弁当に麻婆豆腐かは謎だけど、せっかくだし頂こうかな。
山椒入りの本格的な味わいに、旨味ある辛さも丁度良いバランスだね。
「本格的な麻婆豆腐って感じで、すごく美味しいですね」
「……へへ。だよね~? 流石私!」
上機嫌になった呉橋会長の事だし、このまま調子に乗るだろうから、これ以上の言葉は控えておこう。
「洋後輩はあーんをして欲しいっすね! 私もご用意するっす!」
「あ、いや。大丈夫ですよ師走さん」
「遠慮しなくていいっすよ! よ、出来たっす! 焼きそば&ピロシキin theあんぱんっす! それ!」
「むぐぉ?!」
早く咀嚼しないと窒息してしまう量だよ、師走さん。
でも。餡子の甘さ、焼きそばのソース味、ピロシキの塩気の利いた味が絶妙にマッチして、意外に美味しいじゃないか。
「どうふっか? あむあむ……」
「お、美味しいです」
僕に
「やっぱり私って味覚のマジシャンっすね!」
「え? あ、そうですね」
「あはは! 洋後輩は良い人っすね! 一緒に肩組んで食べるっす!」
「うぉ!?」
自分に我慢せず、思い立ったら即実行する行動力は、本当に尊敬できる。
少し人とズレているのも師走さんらしさなのかも。
弁当が非常に食べ辛い中、萌乃ちゃん先輩がもじもじと僕を見ていた。
目が合って戸惑いを見せながら、一口サイズのハンバーグをあーんしてきてた。
「よ、洋お兄ちゃん……わ、私のハンバーグ食べてくれる?」
「いいんですか?」
「うん! あ、あーん!」
今日の皆さんはあーんの気分なのかな。
でも、普段から空や姉さんにもあーんし合ったりしてるし、あまり抵抗はないんだけどね。
とにかく有難くハンバーグをパクっと頂いた。
一口サイズなハンバーグなのに食べ応えもあって、味も家庭的で普通に美味しい。
料理苦手克服特訓で腕前がすごく上達した証拠だ。
「ど、どう?」
「味も触感もバッチリです。レンコンって入れてますか?」
「入れても美味しいって、レシピのワンポイントアドバイスにあったから……だめだった?」
「いえ。アクセントになって食べてて楽しいです」
今度真似してみるのもアリかも。
きっと姉さんと空も喜ぶぞ。
萌乃ちゃん先輩も、にへらと可愛らしい顔で、お弁当をパクパク食べていた。
「洋君ってさー……
「急に何ですか」
「別にー? こうして私とお昼を一緒にするなんて、他じゃありえないんだけどなー? なぁー?」
そもそもの話、生徒会室でのお昼ご飯は、呉橋会長に誘われたからだよ。
それを覚えているのかな。
ここは改めて聞いて様子見しよう。
「……呉橋会長は忘れていませんか?」
「何を?」
「僕がぼっち飯なのを見かねて、ここへ連れてきてくれたのを」
「……はっ!」
明らかに忘れてた反応だよね。
別に気にしてないから、いいんだけどね。
生徒会室自体は詰み場でも、安全に食べられるのは変わりないんだ。
でも、ずっと生徒会に頼るのもイケないんだ。
だから今後の為に、時々別の場所で食べる事にしないと。
「皆さんとの昼食は楽しいです。けど、いつまでもではダメだと思ってます」
「……再びぼっちの道を行くのか? 洋君よ」
「そ、そそそうなの……?」
「修羅の道を行くなんてカッコいいっすね! 応援するっす!」
「洋お兄ちゃんと、もう食べられないの?」
「うっ……じょ、徐々にですけど、そうなります」
暗堂さんと萌乃ちゃん先輩の空気が、物凄く沈んでる。
呉橋会長すらも生徒会長らしい威厳ある表情になってるぐらいだ。
師走さんは相変わらずだけど。
「……皆。洋君がぼっち卒業の一歩を歩もうとしてる。だから、その門出を祝おうじゃないか」
「……うぅ……積木さん……」
「ぐすん……洋お兄ちゃん……頑張ってね」
「ひたすらにファイトっす! エイエイオーっす!」
気まずい、途轍もなく気まずい。
さっきまでの楽しい昼食が、悲しい送別会みたいだ。
けど、これを乗り切らないと僕は成長できないんだ。
「あ、てか、今度は洋君の昼食場所に、私が行けばいい話じゃん」
「ん?」
「ず、ずるいよ星さん! わ、私も積木さんと食べたいのに……」
「私も私も!」
「昼食後の生徒会の仕事はどうするんっすか?」
「「「あ」」」
師走さんの言葉が3人に突き刺さった。
僕なんかとのお昼より、絶対仕事を優先して貰わないとね。
「んじゃー毎回くじ引きで、1人選出ってことで」
「それならまだ……んー……でも……」
「洋お兄ちゃんを独り占めできちゃうんだね! やったー!」
「さ、賛成します!」
勝手に話が進んでるけど、流石に僕も黙ってはいられないよ。
「ぼ、僕の意志はどうなるんですか!」
「あれー? 洋君~忘れた訳ー? ぼっちには二言無しさ」
さ、さっきの仕返しじゃないか。
呉橋会長め、大人げない人だ。
これ程までにドヤ顔の似合う呉橋会長に、僕は敗北を認めざるを得なかったのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます