第35話姉御女子の温もり、プイっと本音
それにしてもホームルームが始まる時間なのに、未だに峰子さんが傍で微笑んでるんだ。
「えーっと峰子さん? 授業始まりますよ?」
「ん? 心配ない。洋はゆっくり休んでくれ」
「は、はい……ちょ、峰子さん。なんで胸元を緩めているんですか?」
「シワになるから脱ぐんだ」
シワになるから脱ぐ、何かの呪文かな。
そのまま本当にワイシャツとスカートを脱ぎ始め、止める間もなく下着姿になってしまった。
「ふぅ……これで良し。ん? どうしたんだ、洋?」
「い、色々とスミマセン……」
上下お揃いの赤レース下着姿を見ちゃダメなのに、美しすぎて見入ってしまうよ。
「洋。場所を詰めてくれるか?」
「……え?」
「人肌に触れた方が温まると、早く治るらしいんだ」
その恰好でベッドに入り込む気満々だぞ。
そんな僕を他所に、峰子さんはベッドにゆっくり入ってきた。
「……温かいな」
「ソウデスネ……じゃない! しょしょ正気ですか?!」
「あぁ」
どうしようどうしよう。
今すぐ冷静に戻って教室に帰って貰わないと、本格的に高熱になってぶっ倒れる自信がある。
「き、気持ちはありがたいですけど、1人で大丈夫です」
「……洋は分かってないな」
どんどん詰められてベッドの端に追いやられた。
こんなにグイグイ来る人だと思わなかったよ。
「か、鵲先生がいるんですよ?」
「さっき出て行ったぞ。つまり2人きりだ」
なんてこった。
このまま他の誰かに見られたら、停学処分じゃ済まないぞ。
今すぐベッドから逃げるしか、もう峰子さんを止められない。
「や、やっぱり教室に戻りま」
「ダメ」
「ぬわ?!」
軽々しく腕を引っ張られ、ベッドに引き戻された。
「こうすれば、沢山温まるだろ?」
この柔らかで温かい感触は、峰子さんの胸元で抱かれてる感触だ。
終わった、もう終わった。
見た目以上の肌心地、どこまでも沈み込む柔らかさ、大人な優しい香り。
そして高めの温度が、密着するベッド内で充満してる。
「んっ……動かれるとくすぐったいな」
「ご、ゴメンナサイ……」
「いや、いいんだ。むしろ愛おしく思える」
「んうぐ?!」
これ以上抱きしめられたら、窒息してしまいます。
解放の訴えも虚しく、僕の意識は眠るように遠のくのでした。
♢♢♢♢
「……はっ」
「あ、おはよう積木君♪」
「……か、鵲先生? 僕、どのぐらい眠っていましたか」
「丁度1時間目が終わるぐらいよ♪」
「そ、そうでしたか……」
1時間寝ただけで、だいぶ楽になった気がする。
でも、見てた夢が肌色一色で、とにかく凄かった。
授業にはもう出れそうだから、今すぐにでも教室に戻ろう。
「あの、良くなったんで戻り……あ、そういえば峰子さんは?」
「1時間目開始ギリギリで戻ったわよ♪」
「そ、そうでしたか……ほっ……」
目覚めるまで一緒にいたら、また気を失っていたと思う。
教室に戻ったら真っ先に感謝と謝罪をしないと。
ベッドを出ようとしたら、手に何か握ってるのに気付いた。
握ってるそれを見て、僕の顔は青ざめた。
どこからどう見ても、峰子さんの赤レースのブラジャーでした。
なんで握ってるの意味不明過ぎるよ。
「あら♪ いいお土産貰ったわね♪」
「そ、そうじゃないでしょ! 今すぐ厚手の袋下さい!」
理由はどうあれ、峰子さんに会ったら。すぐ返却しよう。
鵲先生にブラジャーを渡し、黒巾着袋へ入れて貰った。
これなら誰にも見られずに済むね。
良かった良かった。
「積木君♪」
「な、何ですか?」
「義刃さんのサイズ、Kですって♪」
「ぶっ!? い、言わなくていいですって!」
「じゃあ聞かなかった事にしてね♪」
「~っ! と、とにかくありがとうございました! 失礼します!」
先生が生徒の個人情報を易々と口外していい筈がない。
罪悪感を噛み締め、休み時間中の教室に戻った僕は、すぐ峰子さんに話し掛けた。
「み、峰子さん。さっきはありがとうございました」
「いいんだ。ん? 何か後ろに持ってるのか?」
「あ、その……とにかくすみませんでした!」
深く頭を下げ、黒巾着袋を差し出した。
受け取った峰子さんはクスっと笑い、僕の顔に手を添えてくれた。
「見えないよう気遣ってくれて、ありがとうな」
「い、いえ。そ、その……なんで、こうなったんですか?」
「ふふ……眠った洋が愛おしそうに掴んできてな。だから外させて貰った」
「……ほ、本当に申し訳ございませんでした!」
優しい峰子さんだから軽く笑って済んでるけど、普通はフルボッコものだ。
ペコペコ峰子さんに頭を下げながら、1時間振りに自分の席に戻った。
で、僕らのやり取りを見ていた愛実さんが、顔を覗かせてきた。
「積っち、もう平気か?」
「は、はい。愛実さんにもご心配おかけしました」
「堅苦しいって。てか、峰子師匠に何渡してたんだ?」
「え」
口が裂けても言えない。
興味津々に顔を接近してきても、僕らの秘密は明かせないです。
「わ、忘れ物ですよ」
「忘れ物? ふーん……」
疑惑の眼差しがすぐニヤッと口元が緩んで、何故か喜んでいた。
愛実さんが今何を考えているか、さっぱり分からないや。
「ど、どうしました?」
「えー? 別にー? えへへ」
「?」
とりあえず黒巾着袋の件は、もう大丈夫なのかな。
ホッと胸を撫で下ろし、授業が刻々と過ぎて昼休みに入った。
♢♢♢♢
いつも通り、生徒会室で食べるけど、愛実さんはどうするか聞こうとしたら、申し訳なさそうに僕に両手を合わせてた。
「ごめん積っち! 今日は友達と先約があんだ!」
「あ、そうなんですね。僕より友達を優先してやって下さい」
「……ふん!」
「えでっ」
頬を膨らませた愛実さんに、軽く腕を叩かれた。
弁当箱片手に立つ愛実さんは背を向け、チラッとこっちを見てきた。
「……出来るなら積っちと一緒に食べたいし」
「? 僕もそうですけど」
「……積っちの意地悪」
プイっと顔を背け、小走りで教室を出て行った。
変なことを言ったつもりはないんだけどな。
でも反応の割に、凄くニヤついてたように見えた。
何はともあれ、もっと自分の発言に注意しないとだ。
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