第18話生写真を撮りたい美人生徒会長

 最後は呉橋会長のアイディアだけになり、萌乃ちゃん先輩が尋ねていた。


「星さんはどうなのー?」

「私? んーそうだなー……」


 呉橋会長のことだ、真面なアイディアは期待するだけ無駄に思えてしまう。

 ただ現実は僕の思いを易々と裏切るものだった。


「全生徒の前で佐々坂翔と凪景に、直接注意喚起して貰う。で、良くない?」


 全くもって斜め上の発想だ。

 こんなぶっ飛んだアイディアは呉橋会長にしか出ないけど、そもそも実現なんて不可能に等しいぞ。

 流石に一般生徒である僕も口を閉ざしてたけど、正気かどうか大丈夫かどうかを確かめさせて欲しい。


「あ、あの……そんな無理難題なアイディアで大丈夫なんですか?」

「なんとかなんじゃね?」


 返答が軽すぎる。

 この調子でよく今まで生徒会長をやってこれたなと、思うしかなかった。


「ってことで、本日の議題終わりーお疲れちゃーん」

「お疲れ様……先生方に伝えておくね……」

「しくよろー」

「星さーんー! さっきのボランティアの件で追加したいことがあるのー!」

「メロンパンで糖分摂取っす! はむ!」


 これが生徒会では普通なのだから、一般生徒からすれば未知の領域を覗き込んでいるのも同然なんだ。

 つまり僕は所詮傍観者に過ぎず、何も出来ない普通の生徒なんだ。


「ほぅほぅ……その方法なら人手は確実に集まるじゃん。ナイス萌乃!」

「えへへ~♪」


 呉橋会長が萌乃ちゃん先輩の頭を撫でて、嬉しそうにしてる。

 なんか雰囲気が姉さんと空の姿と重なって、ほっこりする。 


「芽白、佐良、洋君。ちょっくら聞いて」

「なに……?」

「ふもふもも?」

「ぼ、僕もですか?」

「あ、つい呼んじゃったけど、まぁいいか」


 釈然としないけど、今更呉橋会長に突っ込んだどころで無駄だから、素直に聞く耳を立てよう。


「えー先程、萌乃の追加意見を取り入れ、ボランティアの人手集めの際、特典を付けようと決めました」

「特典……?」

「バイトしないと賄えないっひゅぽ?!」

「最後まで聞きなさいな」


 頬っぺたサンドされ、みるみる赤面していく師走さんは一気にしおらしくなった。

 金髪のシャギーも下向きになって連動している。

 感情とリンクしてるなんて思わなかった。


「で、特典は……私達の生写真になります!」


 呉橋会長達の生写真で人手を集めるのって、結構まずい感じがするのは、僕だけじゃない筈。

 何かあれば世間に出回る可能性だってあるんだから、止めておいた方がいい気がする。


「ポラロイドカメラはあるし、フィルムも結構あるから費用は0円に等しい! ほっほーい!」

「いやいや、ダメですって!」

「なんだい洋君。たかが写真に何を想像したんだい? んー? お姉さんに言ってごらん?」


 まんまと呉橋会長の罠に片足を突っ込んでしまった。


 ここまでの流れは完全に僕を巻き込む前振り。

 呉橋会長がお手本のようなドヤ顔で愉悦に浸りながら、僕を見てくる。


 ここで僕が屈するような素振りを見せれば、呉橋会長の思う壺。

 堂々と否定しないと僕は勝てない。


「み、皆さんの生写真で何かあったら遅いっていいたいんです」

「じゃあ洋君は、私達の生写真を見たくない訳?」

「い、今目の前にいる実物の皆さんの方が、生写真よりずっと魅力的なのを知ってますから、結構です」

「フ、フーン……魅力的ネー」


 さっきまで威勢の良かった呉橋会長が、視線を逸らしながら軽く頬を染めてる。

 確か先日も、呉橋会長の率直な印象を言わせて貰った時も、ロボットみたいな口調になって自然に治るまで待った筈だ。


 僕は事実を口にしたまでだし、何故こうなるのかが未だに全く分からない。


 よくよく他の皆さんを見たら、暗堂さんも赤面して僕をジッと見つめていた。

 萌乃ちゃん先輩も、指先同士をくるくる回して、軽く火照った顔で僕をチラ見。


 ただ師走さんだけは、あっけらかんとして特に変化は起きていなかった。


「こほん……でもー残念だなー」


 どうにか持ち直した呉橋会長は、再び自分のペースに取り込もうと、余裕の表情で言葉を続けた。


「せっかく私達のスク水生写真を、洋君だけにあげようと思ったのにー」

「スク水っすか? 今着てるんで脱ぐっすね!」

「ちょ?!」


 不意打ちの師走さんの脱衣は、もはや誰にも止められなかった。

 引き締まった体のラインが強調された美しいスク水姿。

 ただし場所はまごうことなき生徒会室だ。


「よっと! さぁ洋後輩! 好きなだけ撮っていいっすよ!」

「と、撮りませんって!」

「何を言ってるんだい、洋君……生女子高生が生スク水姿で、撮っていいと直接許可してるのだよ? 私達は目を瞑ってるからさ……お好きにしていいんだぜ?」


 わざわざ回り込んでまで、僕の肩に手を置いてきた呉橋会長。

 口元のニヤニヤが物凄い。

 本当にこの人が生徒会長であることが不思議でたまらない。


「もしかしてー佐良だけじゃ物足りない感じかな? んー?」

「わ、私も着ないとダメ……?」

「私スクール水着持って来てないよー! 借りてきてもいいー?」


 皆さんが完全に流れに飲まれ、正常な判断が出来ていない。

 これは非常にまずい。

 呉橋会長と暗堂さんはスタイル抜群だから、スク水になれば色々と目のやり場に困るのは、目に見えている事。

 でも問題は、萌乃ちゃん先輩だ。

 生徒会役員の中で一番似合う筈なんだけど、より一層小学生にしか見えなくなる。

 このまま撮影会にでもなれば、僕にロリコンの烙印が押され、呉橋会長に弱みを握られたも同然になる。


 何としてでも、この状況を否定し続けないとダメなんだ。

 だから僕の今の気持ちをハッキリと呉橋会長に言うしかないんだ。


「僕は……」

「お? やっぱり我慢できなくなったのかなー?」

「僕はありのままの皆さんが好きなので、スク水姿になっても一切撮りません!」

「あ、ありの……ママ……しゅ、シュキ……」


 僕が真面目に気持ちを伝えてるのに、なんでロボット呉橋会長になってしまうんだ。


 そんなこんなをしている内に、昼休みの終わり前の予鈴が聞こえてきた。

 今回は呉橋会長に勝ちは譲るけど、次は絶対に負けないぞ。


「も、戻らないといけないんで、これで失礼しま……あ。あの、暗堂さん」

「ふぇ? な、なに……?」


 何故かとてもニヤニヤしていた暗堂さん。

 甘い卵焼きのちゃんとしたお礼を、まだ言えていなかったから、今言わせて頂こう。


「甘い卵焼き美味しかったので、また食べたいです」

「あ、ありがとう……積木さんの為なら……ずっと好きなだけ作るよ……」

「ほんとですか? 嬉しいです!」


 また食べられると考えたら自然に涎を啜ってしまう。

 すっかり胃袋を掴まれてしまった証拠だ。


「あ、明日も作るから……待ってるね……」

「ありがとうございます。じゃあ、僕はこれで」


 生徒会室を後にした僕は、明日の昼休みを楽しみにしながら、教室へと戻って行った。

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