3章 人気女優は偶然に
第15話謎の美少女との出会い
町ブラを楽しんだ土曜日と平和な日曜日が過ぎ、いつも通りの高校生活が戻ってきた。
そして、必ず詰みになる状況を乗り切る、試練の日常でもある。
僕の乗る通学車両は、まだ最初に近い方だから割と空いている方だ。
それに朝も早いから、せっかく空いてる席に座らないと、なんか損してる気分になるんだ。
なるべく凹状包囲網や、角詰みを避けるように席を選んでるけど、通勤通学時間帯もあって、そうそううまくいく訳もない。
まだそれらの詰みなら、何度も体験済みだから瞬時に適応可能になっている。
ただ一番最悪なのは立ってしまうことによる、全包囲型詰みだ。
想像してみてくれたら分かると思う。
四方八方を異性に囲まれたて、電車に揺られ続けるのを。
きっとただただ無事乗り切る事だけを、切に願うしかなくなる筈だ。
幸いにもまだ全包囲型詰みは経験をしたことないから、こうやって言える立場であって、実際になってしまえば精神崩壊しかねないんです。
けどこれらは、今までの僕ならそうだったって話だ。
今は顔見知りによるセーフティー詰みによって、他の詰み要素から守られているんだ。
「おはよ」
「はよ~♪」
「お、おはようございます」
美人ギャルの白石千佳さんに、その友人の原真理さんが挨拶をしながら、僕の右隣と正面を陣取った。
千佳さんとは先日、町ブラの行き帰りでも会って、少し仲良くなれたかなって思ってる。
真理さんはというと、僕の通っている北高の英語教師サディ原先生の妹さんだと、連絡交換した日に教えて貰った。
知った時は、どおりで2人ともいじる癖があるのだと、納得をせざるを得なかった。
「そうだ1年生君。前に聞き忘れてたけど、町ブラ楽しかった?」
「はい。色んな人と仲良くなれましたし、充実しました。千佳さんも元気そうで良かったです」
「そうだね。元気の源と一緒だから、もっと元気だよ」
元気の源と一緒とは何の事だろう。
いつも一緒にいる真理さんか、朝食に美味しいものを食べた事を意味するのかな。
それにしても本当に元気になったのか、いつもより表情が明るい気がする。
やっぱり千佳さんは、笑ったり明るい方が似合ってるね。
「なになに~? 私がいない間に、仲良くなっちゃってるの~?」
「うん。まぁ、それ以上を目指してるけどね」
「え。千佳、それほんと?」
急に真理さんの口調が間延びしなくなった。
千佳さんは僕の眼を見て、優しく微笑みかけてくれてるけど、それ以上を目指してるって何なんだろう。
「真理なら分かるでしょ。私が本気だって」
「でも……気付いてるの?」
「いいの。気付いてもらえるまで、一歩一歩縮めて行くから」
「千佳……そっか~じゃあ私は支えないとだね~」
状況がいまいち飲み込めないけど、どうやら真理さんは千佳さんに協力的なのは分かった。
僕も陰ながら応援するから千佳さんには頑張って欲しい。
♢♢♢♢
千佳さん達が先に降り、僕も北高の最寄り駅へと着き、前方後方の詰み要素に警戒しながら北高を目指した。
いつも変わらない登校風景だと、僕はそう思っていたけど、今日は違った。
左手の塀向こうから、駆けてくる足音が聞こえ、僕は思わず立ち止まった。
でも、その行為は間違っていたことに、すぐに気付かされる。
「とりゃ! ……げ!」
「え」
今の起こった状況がスローモーションに見え、現実かどうかも区別付かないでいた。
だって、女の子が自分よりも高い塀を、飛び越えて来たんだもの。
しかもその着地地点に、僕が立ち止まってしまっている。
つまり、このままだと女の子との衝突は確実になり、怪我をさせてしまうことになる。
どうにかお互いが無事に済む方法を模索するも、時の流れは止まらない。
「きゃ!?」
「重量!?」
肩車の要領で着地した女の子に、突如降りかかった重量にギリギリ耐えた僕。
お互いに怪我のない奇跡だけど、この状態はどうかと思う。
とりあえず肩車の状態をやめないと、皆の注目の的になってしまう。
「……あの」
「……え? 何よ」
「降ろしますから、気を付けて下さい」
「わ、分かったわ」
女の子を静かに降ろすと、服の汚れを払う音が耳に入ってくる。
改めて女の子を見ると、ここらで見かけない制服だった。
凄い綺麗な顔で、茶髪のツインテールが凄く似合ってる。
でも、何かどこかで見かけた顔で、僕は記憶をギュッと絞り、思い出そうとした。
「ねぇ」
「え? な、何ですか?」
「ここらで安全に隠れられる場所はないかしら」
「か、隠れる? あ、思い当たる節はあります」
「今すぐ教えて」
女の子の真剣な表情からは、困惑の感情が薄っすらと感じる。
きっと本当に隠れないといけない事情がありそうだから、ここは今すぐ力になって助けないと。
僕は女の子の手を握り、町ブラの知識を生かした人通りの少ない小道を通った。
数分後には、安全に隠れられる小さな神社へと着く事が出来た。
「神社……?」
「う、裏手に行けば、まずは気付かれません。行きましょう」
裏手の腰掛けられるスペースを手で軽く払い、女の子に座って貰った。
これで一安心だけど、なんでこの子はそこまでして隠れたがったんだろうか。
聞いたどころで嫌な思いをさせるだけだろうから、口には出さない方がいいかな。
「ここなら安全そうね……ありがとう」
「いえいえ。それじゃあ僕はこれで……」
「どこ行くのよ」
どこへ行くも何も登校中だったのだから、高校にしか行かない。
なのに、すでに袖を摘ままれ行かせてくれなさそうだ。
今さっき出会ったばかりのこの子と、どこまで付き合えばいいのか、ハッキリしない以上困ってしまう。
「あ、あの……そろそろ登校しないとなんですけど……」
「えぇ?! この私を置いてくつもり?!」
この私、が誰なのかが一番知りたいのだけど、このまま付き合ってサボる訳にもいかないしな。
ただ幸いにも登校時間は早めだから、ちょっと時間に余裕はある。
遅刻しないギリギリまで付き合えるけど、それ以上になると無理だ。
とにかく、今は傍にいなくちゃならないみたいだ。
「わ、分かりました。遅刻ギリギリまで付き合いますから」
「最初からそうしなさいよ。たく……」
あまり好ましい態度ではないけれども、これがこの子にとって普通なのかも。
何事もなくスマホをいじり出した女の子は、すぐに電源を切り、僕の方を見てきた。
本当に何がしたいのかが読めない人だ。
「どうして一緒に来てくれた訳?」
「え。か、隠れ場所を知りたいって、言ってたので……」
「教えてくれればスマホ頼りで行けたわ」
言われてみれば、この子には場所を教えてとしか言われていない。
なのに、僕の方からわざわざ手を握ってまで、神社まで連れてきてしまった。
女の子が悪い訳じゃない、僕の完全な早とちりだ。
一緒にいられて迷惑だったろうけど、置いていくなって言われたから、少しは許してくれているのかも。
それでも、勝手な行動をとった僕から謝らないとだ。
「ご、ごめんなさい。アナタの話をちゃんと聞いてなかった僕が悪かっただけです」
「ちょ、ちょっと。別に悪いとは言ってないわよ」
怒ってはいないみたいで良かった。
ちょっと口調が強めだから、怒られたら僕は委縮して何も言えなくなると思う。
「たく……で、君は私が誰か分からないの?」
「え? あ、はい。初対面ですし、こんなに綺麗な人だったら覚えてる筈です」
「……何でかし……そうだったわ! メイク済みだからか!」
「?」
今どきの女子高生はメイクをするのが普通なのでは。
言葉が色々と変な女の子で、つかみどころがない。
そんな風に思うのを他所に、女の子は突拍子もない行動をし始めていた。
「これで分かるかしら……よっと……」
茶髪ツインテールがかっぽり外れて、更にはヘアーネットを取ったんだ。
そして金髪ショートの姫カット姿になり、僕はようやく女の子が一体誰なのかが分かった。
「な、凪景さんぐんぬぅ!?」
「声がデカい!」
声はテレビの時とは違って、若干トーンダウンしてるけど、怪演技の時に似た様な声を聞いた覚えがある。
メイクで分かり辛いけど、この大きな吊り目は紛れもない、現役女子大生女優の凪景だ。
「たく……これだから年下は……」
ガシガシと髪をくしゃくしゃにして、苛立ちを見せる凪景さんに、ただただ開いた口が塞がらなかった。
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