4章 ゲームのオフ会

第21話休日のゲームで宣戦布告

 4月末に差し掛かった今日は昭和の日、つまりド平日の祝日。

 部活もやっていない学生は得した気分になり、いつもよりテンションが上がるもの。

 僕も例外に漏れず、朝からウキウキが止まらないでいる。


 いつもなら趣味の町ブラに行くのだけど、今回はFPSゲームのサバブラを楽しむ事に決めてる。


 何故サバブラを選んだかと言ったら、祝日はゲームフレンドが沢山ログインして、いつもより盛り上がれるからだ。


「お兄ちゃん! 早く早く!」

「焦らないで、空」


 一緒にプレイする空は僕の胡坐の中で、今か今かと楽しそうに揺れてる。

 お菓子や飲み物もテーブルに用意して、最高のプレイ環境はセッティング済みだ。


 たまにこんな日があってもいい、そんな精神だ。


「洋、空。こまめに小休憩を挟むのよ」

「はーい!」

「うん」


 一家の長女である姉さんは、ゲームを一切やらないのだけど、ちゃんと理由はある。


 姉さんはどんなジャンルでも、ゲーム酔いしてしまう人なんだ。

 テトリ◯でさえ、ブロックの方向転換で目が回り、ぱたりと横たわるぐらいだ。


 なので、少し離れたリビングテーブルで猫みたいにジッーと、僕らの様子を眺めてる。


 そんな姉さんの分まで楽しむべく、僕らはサバブラのログインを済ませ、オンライン広場へとやってきた。


♢♢♢♢

※ここから先、22話終盤までゲーム描写が続きます。

本編だけで良い人は、読み飛ばしてもOKです。

♢♢♢♢


「お、モチモチはもうログイン済みだね」

「ジャガジャガさんとチャット中みたいだね!」


 ジャガジャガは元々モチモチのフレンドで、僕らと知り合った日からの古参フレンドだ。

 『踊り子』スタイルを愛用する、勝ち星を上げ続けてる上級プレイヤーなんだ。


 2人の場所へ移動すると、すぐモチモチから簡易チャットが送られてきた。

 

《お、時間ピッタリに来たな! レイブン! マロン!》

《オッス。今日は『バイキング』スタイルか》

《オッス! 野蛮感がスゴイです!》


 サバブラのいい点は、何時でもスタイルを変更できることだ。

 モチモチはガッチリ系のスタイルを、良く好んで使っているかな。


 『バイキング』スタイルは名前通りの見た目で、大鉈を常時担いでいる。

 短距離と中距離攻撃が可能で、一撃一撃に必ず風圧が生まれ、近くにいる相手を怯ませられるんだ。


 奥義は大量のバイキングを引き連れ、広範囲で相手を切り刻む『野蛮大行進』だ。

 『野蛮大行進』の動き自体は遅く、避けることは簡単だ。

 けど、場所と時を見極めれば相手を一網打尽出来るんだ。

 初心者から上級者まで、幅広く使える万能スタイルだ。


 今回僕もアサシンスタイルから『古の戦士』スタイルに変えてる。

 古布を巻いた格好に、三種の武器を扱えるのが特徴だ。

 投擲攻撃の古代槍、範囲攻撃の大斧、ガードとブーメラン攻撃のできる古盾。


 奥義はライフ削りの無い、十秒無敵になる『古の咆哮』だ。

 常時歩行スピードは遅いけど、攻撃を繰り出すスピードはかなり速い。

 操作感重視の中級者向けスタイルだ。


 空はいつも通りのゆるふわ系『狙撃手』スタイルで、武器を新調してる。

 新調した武器は変形型短銃で、近距離戦を得意としてるんだ。


 そんな多種多様の武器は、ゲーム内の武器ショップで購入する仕様だ。

 購入はゲーム試合で獲得できるポイントを使うんだ。

 大体は勝者上位3名が高ポイントで、チーム制も同じだ。

 唯一違う点は、チーム内でポイント配分される事ぐらいだ。

 ポイントは譲渡不可で、貯めるなら協力プレイが効率的なんだ。


 ポイントの使い道は他にも、コスチュームだったり、アバターのイメチェン、マイルームの内装、スタイル買いなどなど、ポイントの活用が広くて、アプデも頻繁だから飽きが来ないんだ。


《レイブンちゃんにマロンちゃん♪ 今日はよろしくね♪》

《ジャガジャガも参戦ってことは、4人制のチーム戦か》

《わーい! ジャガジャガさんと一緒だ!》

《役者は揃った! 行くぜ! 野郎共!》


 今回の舞台は『孤島の戦地』。

 5分ごとにランダムで悪天候に変わる仕様だ。

 チーム数は20の合計80人、かなりの大人数になるぞ。


《さぁ始まるぜぇ! 気を引き締めろよ!》

《相変わらずの脳筋だな》

《頑張るぞー! おー!》

《うふふ♪ 負ける筈がないわ♪》


 ゲームスタートのカウントが始まり、いよいよチーム戦が開始。


♢♢♢♢


 最初の悪天候は『氷雪』だ。

 一気に画面がホワイトアウトになって、仲間の3人がギリギリ見えるぐらいだ。


 『孤島の戦地』での第一前提として、元々の地形をあらかた理解していないといけない。

 もし理解できていなければ、悪天候の中で立ち往生しながら、敵襲を警戒するしかないんだ。

 そしてその時の誤った判断は、なり振り構わず攻撃をすること。

 わざわざ敵に自分の場所を知らせ、自分を攻撃して下さいと言ってるようなものだ。


 そこで役立つのが、フィールドアイテムのサーモグラフィ。

 大体の悪天候下でも相手を熱感知できて、独壇場になるんだ。


《マロン! 1人で屋内に行けるか?》

《大丈夫です! 行ってきます!》


 幸い建物の距離は近く、簡易チャットもあるから、ホワイトアウト状態でも最低限の連携はとれる。


《無事到着! 敵影を数人目視しました!》

《景気よく、やれ!》

《はい!》


 風吹く音に交じり、3発の狙撃音が静かに響いた。

 総プレイヤーカウントが1つだけ減少、確実に1人倒した証だ。


 ただ残りのプレイヤーは流石に仕留めきれなかったみたいだ。


《撃ち残しがそっちに出て行くよ!》

《オレに任せろ!》


 3つの足音がこちらへ接近し、構えたモチモチが大鉈を振るった。

 ダメージ音が3つ鳴り、ライフをそれぞれ1つずつ削ったようだ。


 モチモチの猛攻は止まらず、視界不良の中に突っ込み、怯んだ相手に追撃を与えていた。


《総プレイヤーカウントが3人減ってる。流石だな》

《そうね♪ あ、レイブンちゃん♪ 古代槍を私の真後ろに投げてくれないかしら♪》

《了解》


 古代槍を力強く投げ放つと、遠くでダメージ音が鳴った。

 確実に仕留めるのに追撃したら、ギリギリ視界に入ったプレイヤーに当たり、倒すことに成功した。


《ナイスね♪》

《お前ら! そろそろ5分経つぞ! 次に備えろ!》


 5分経過した途端に『氷雪』が止んだ。

 雪景色の視界が綺麗に元に戻ってる。

 そして次なる悪天候『蜃気楼』が発動した。

 居ない筈のプレイヤーの幻影を見える、視覚頼りが通じない悪天候だ。


《マロン。狙撃は慎重に》

《うん!》


 幻影の大まかな見極めは、姿が若干ブレているかどうかだ。

 狙撃手ならスコープで相手を拡大できるから、見極めはだいぶ楽になる。


 『氷雪』とは違い、視界自体は良好そのもので、幻影の見極めを知っていれば有利になれる。

 よって、チームが固まって動くのは愚策なんだ。


 僕がモチモチとジャガジャガに離れる方向を伝えた時、一発の狙撃音が鳴った。

 空が撃ったんじゃない、敵だ。


 瞬時にガード体勢に入るも、狙われていたのはジャガジャガだった。

 けれども、僕は心配していなかった。


 ジャガジャガは狙撃弾丸を、輪刀の回転を利用して、完全に勢いを殺した。

 そして動かなくなった弾を指で砕きながら、ジャガジャガは笑った。


《どうやら私狙いみたいね♪ いい度胸してる♪》


 『踊り子』スタイルは、ジャストタイミングで相手攻撃を回避できるスタイルなんだ。

 その強みを生かし、相手の隙を作り、連撃で一気に仕留められるんだ。 

 ただタイミング自体シビアで、初心者や中級者が使えば、むしろ大隙きを生むんで、逆に仕留められるんだ。


 そんな上級者向けの『踊り子』スタイルのジャガジャガが狙われたのも、当然の理由がある。

 それはジャガジャガが、サバブラ日本ランキングトップ10に入ってるからだ。

 

 ランキング上位者を倒せば、自分がやられてもポイントは必ず入る仕様なんだ。

 トップ10ともなるとポイントも莫大なんだ。

 

 そんな喉から手が出る高ポイントの為、自分の実力を試す為、ジャガジャガを狙ってくるんだ。


《宣戦布告か! 腕が鳴るじゃねぇか!》

《うふふ♪ とりあえず、軽く5チーム程消してくるわね♪》

《ジャガジャガが敵じゃなくて良かった》

《だ、だね》


 やる気に満ち溢れるモチモチとジャガジャガに続き、僕も本気で動き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る