第6話姉と妹と帰宅、それにゲーム

 人通りの少ない場所で姉さん達を待っていると、空の姿が見えた。

 カゴには卵2パック、自分の役目をしっかり達成したみたいだ。


「わぁー! 凄い沢山の野菜! 流石お兄ちゃんだね!」

「宮内のお婆さん達のお陰だよ。それよりお金足りる?」

「平気平気! いつも懐に余裕を持たせてるのです!」


 ポンポンとお腹を叩く懐アピールに、どこか誇らし気だ。


 姉さんもそろそろ合流していい頃合いなのに、随分と遅い気が。

 特選牛肉のタイムセールも終わってるのに、どうしたのだろう。


「空、姉さんは?」

「いつも通り、お菓子コーナで厳選中だよ」

「あー」


 子供に混じってお菓子選びに悩んでいる姿が、鮮明に浮かぶ。

 姉さんの事だから牛肉自体は入手済みだろうし、ここで待っているよりかは僕らが向かった方が早い。



 空とお菓子コーナに行くと、屈んで一点を凝視する姉さんの姿が。

 傍に特選牛肉入りのカゴがあるし、役割はやり遂げたようだ。


「姉さん、まだ悩んでるの?」

「お姉ちゃーん。お会計済ませるよー」

「洋! 空! いいところに来たわ! これを見て頂戴!」


 興奮冷めやらぬ手招きに、一体何があるのか近付く。


「んまー棒ニンニクカルビ味30本入りが300円よ! これにするわ!」

「お姉ちゃん……」

「美味しいのよ。ふふーん!」


 んまー棒の袋を愛おしそうに抱きかかえる姿は、子供にしか見えない。

 お菓子代金はちゃんと守れている事だし、コスパ的に考えてもいいのかも。


「姉さんがそれでいいならいいんじゃない?」

「お兄ちゃんまで……もうしょうがないな……」

「ありがとう空! 大好きよ!」


 嬉しさのあまりギュッと抱擁、胸元に顔が埋もれて苦しそう。

 子連れの奥さん達も積木家姉妹の仲睦まじい姿に、微笑ましく通り過ぎて行く。

 姉さんの子供っぽい一面は、こうやってギリギリのところでバレていない。


「さぁ! 早くお会計済ませましょう! フンフフ~ン♪」

「ぷふぇ?! あ! 先に行かないでよ! お兄ちゃんも早く!」

「う、うん」


 会計は予算よりも大分浮いて大助かり、タイムセールはご近所さんの味方だ。


 大収穫だったとはいえ量が量だから、段ボール詰めにして台車を借りて運ぶことにした。

 家まで数百mでも便利なものがあるなら、我慢せずに使うべし精神だ。


「台車は僕が返しておくから」

「うん、ありがとお兄ちゃん」

「フンフフ~ン♪」


 んまー棒の大袋を抱え鼻歌を奏でる姉さんは、すこぶる上機嫌だ。

 こうやって姉弟仲良く買い物できるのは、誰でもなく蒼姉さんや空だからだと思ってる。


「はい、洋、空」

「んまー棒くれるの?」

「お姉ちゃんの分が少なくなっちゃうよ?」

「一人じゃ食べきれないもの。さぁ皆で食べましょ!」


 自分の喜びを人に分かち合う、簡単そうで中々に出来ない事を姉さんはやってくれるから、尊敬している。

 濃いカルビ味とニンニクの香りが口に広がり、スナック感覚であっという間に食べ終わった。

 空も完食した一方、姉さんはまだ香りを楽しんでいた。


「やっぱりいい匂い! はむ! サクサク……ん~♪」


 お菓子一つでここまで幸せな顔になるなら、生産者さん達は喜ぶに違いない。



 帰宅するなり段ボールを下ろし、僕が台車を返す間に姉さんが夕飯準備。

 姉さんは料理上手で、何を作っても抜群に美味い。

 将来的に結婚する旦那さんは、胃袋をがっしり掴まれるだろうね。


 僕の腕前は人並み、空は台所に立つことさえ危険なレベル。


 どうして空が危険なレベルなのかには、ちゃんとした原因がある。

 あれは空が小学生の頃、調理実習の予行練習を家でやってた時、台所が数秒で地獄と化したのが原因だ。

 これがトラウマになって、冷蔵庫付近までしか台所に近付かなくなったんだ。

 無理に克服させられないから、自然と克服するのを見守るしか出来ないでいる。



 台車を返し終えて帰宅すると、私服の空が玄関まで駆け寄ってきた。


「おかえりお兄ちゃん! ねぇねぇ! 早くゲームしよ!」

「着替えてからね」


 二階の自室で私服に着替え、リビングでうずうず待ちわびてる空から、コントローラーを受け取った。


 空が待ち侘びるゲームこそ、僕が数年前からハマっているFPSゲーム、サバイバルブラザーズシリーズ、通称サバブラだ。

 様々なファンタジーキャラを屈指、それぞれの特有スキルを活かしながら最後まで生き残る、サバイバルバトルの代表格ゲーム。

 

 誕生日プレゼントに内容も確認せずパッケージ買いしたのが、サバブラだったんだ。

 右も左も分からないまま、がむしゃらにプレイする内にハマって、今に至る感じ。 


 空はずっと見る専で、最近になって一緒にやり始めて、協力プレイを楽しんでるって訳です。


「あ、モチモチさんだ!」

「あっちも僕らに気付いたね」


 やり始めた当初、右も左も分からない僕に気さくに声を掛けてくれたのが、フレンドのモチモチだ。

 早速簡易チャットで挨拶をしてきてくれた。


《オッス! レイブン! マロン!》


 黒尽くめアサシンスタイルのレイブンが僕。

 ゆるふわ系狙撃手スタイルのマロンが空。

 そして半裸のコマンダースタイルがモチモチ。

 中々に個性の強めな3人だ。


《オッス! こんばんは! モチモチさん!》

《オッス。今日はどうする?》

《丁度チーム戦をしたい連中と話しててな、どうよ?》

《賛成でーす!》

《了解》

《そういうと思って、もうセッティング済みだぜ!》


 どうやら3人体制の10チーム同時戦をやる前提だったようだ。

 かなりやり甲斐がありそうだし、腕が鳴る。


 サバブラはプレイヤー1人に付き、3つのライフ。

 全部失ったらリタイアのシンプルルール。

 通常攻撃は1ライフ削り、一度だけ使える奥義は全削り。

 あとは様々なフィールドアイテムを使って、逆転勝利を狙うのも良し。

 


 今回の舞台は月夜の街、隠密に長けているアサシンスタイルとは相性が良い。


《フォロー頼むぜマロン!》

《お任せ下さい!》

《いつも通り、お互い助け合いで》


 空とモチモチの息はぴったりで、今回も安心して背中を任せられそうだ。


 宙でカウントが始まって、GOサインが出た。


《行くぜ! レイブン! マロン!》


 モチモチは特攻隊長として、近接戦で相手を倒しまくる。

 その取りこぼしや、隠れている人を暗殺するのが僕。

 高所や隠密場でフォローに徹するのが空。

 凸凹に見えるチームだけど、僕らのチームに隙はない。




 早くも2チームを倒したことで、他チームから目を付けられている筈だ。

 この時の他チームの行動は主に、侵入できる建物で狙撃手が狙ってるパターンが多い。

 一番狙われ易いのは近接戦特化のモチモチだから、アサシンの僕が狙撃手のいそうな場所に目星をつけて、確実に暗殺を執行するのが流れだ。


《フィールド縮小の時間に近づいてるから、移動するね!》

《おぅ! 気を付けろよマロン! レイブン、周囲の様子はどうだ?》

《今建物内で人影が見えた。モチモチの進路先で待ち伏せてる》

《なら、このまま突っ切るか。狙撃前にそいつらを頼むぜ!》

《了解》


 一時的に足音を消す消音アイテムで、人影の見えた建物に移動。


 絶好の狙撃ポイントで分かり易く、狙撃手の3人チームがモチモチを狙っていた。

 狙撃ポイントを通ったプレイヤーを、3人で一気に倒す作戦かな。

 悪くない作戦だけど、チラッと姿を見せたのが不味かったね。


 消音アイテムの効果時間が切れる前に、アサシンの奥義で暗殺させて貰う。


《暗技、黒蝶斬》


 不意を突いた3人の暗殺に成功。

 モチモチもストレスフリーで、そのまま猪突猛進で次々倒し続けていた。

 他にも狙っている狙撃手はいるだろうから、探しながら移動だ。




 順調にプレイヤーを倒し、いよいよ残り1チームとの対峙に。


《モチモチ。残りライフ1だから、気を抜かないで》

《おぅ!》


 相手チームは格闘家が1人、狙撃手1人、ヒーラーが1人の布陣。

 遠距離から狙う狙撃手さえ倒せば、勝機はあるのだけど、どうも相手の狙撃手が身を隠さずに堂々としてるのが気掛かりだった。


《マロン。あの狙撃手、任せていい?》

《オッケー! そりゃ!》


 空の攻撃は身を隠して回避、やっぱり違和感がある。

 そもそも相手の狙撃手から、狙撃する素振りすら感じない。

 何か策があるに違いない。


 フィールドも最終縮小まで来てるし、お互いに逃げ場はないんだ。

 時間切れになればチームのライフ総数差で敗北してしまう。

 だからここは狙撃手を直接倒す以外に、勝利はないみたいだ。


《マロン、計画変更。モチモチの援護に回って》

《任せて!》


 格闘家とヒーラーは地上で、モチモチとの相手に手一杯な感じだ。

 相手は僕が狙撃手の元に移動するのに、気を配るほど余裕はない。

 時間制限も近付いているし、向かうなら今しかない。



 狙撃手の居場所まで来て早々、狙撃手は入り口を凝視して待ち構えていた。

 アサシンの隠密の持ち味が消えても、相手は遠距離攻撃の狙撃手だ。

 近接戦に持ち込みさえすれば勝てる。


 僕が姿を見せると、狙撃手は狙撃銃を捨てて身構え始めた。


 このプレイヤーは狙撃手じゃないのは、すぐに分かった。

 変身アイテムで狙撃手を偽った格闘家だったんだ。


 相手を混乱させる良アイテムで最後まで残れているから、最良の使い方をしていたんだ。

 このチームは中々のやり手だ。

 

 僕のライフはまだ3つ、多少強引でも確実に倒し、モチモチの手助けに向かう。



 初手で動き出したのは格闘家、素早い身のこなしで距離を詰める。

 反応に遅れ一撃を貰いつつ、反撃の一撃を食らわせた。

 互いに距離を取り、どちらが先手を打つか探り合い。

 格闘家が奥義で仕留めてこなかったのは、僕の技量の様子見だったからかも。


 技量が分かった以上、今度は奥義がきっと来る。

 カウンターからの一撃でケリを付けないと、負けが確定する。



 格闘家が動き出した直後、よろめきを見せ、僕は透かさず接近して一撃。

 ライフが全て削られた格闘家は目の前で消滅した。


 突然のよろめきはゲームの不都合でも何でもない、よろめきの正体は空の援護狙撃だ。


 格闘家は身を隠し狙撃を避けていたけど、僕と対峙したことで空に背を向けてしまったのが敗因だ。


《ナイスアシスト、マロン》

《イエーイ!》


 残るは格闘家とヒーラーだけだ。

 このまま一気に畳みかけるべし。


《奥義! ハートブレイク!》


 空が奥義でヒーラーを倒してくれた。

 これであとは格闘家1人だけ。


 制限時間が残り数十秒を切った時、モチモチの空気が変わった。

 格闘家の攻撃を跳ね除け、モチモチは奥義の構えをとった。


《奥義! 爆砕拳!》


 格闘家の体に拳がめり込み、相手プレイヤーが吹き飛んでライフ全削り。

 制限時間数秒前でゲーム終了の画面が表示された。


《やったー! 一位だー!》

《今日も絶好調だぜ! ありがとうな2人共!》

《こちらこそありがとう》


 こうやってサバブラ心から楽しめているのは、楽しさを教えてくれたモチモチのお陰なんだ。

 だからこの感謝は忘れずに、これからも仲良くプレイし続けようと決めている。


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