第24話知りたい妹、集うフレンド

 ウェイトレス姿の峰子さんの後ろ姿を見てたら、袖が引き千切れそうなぐらいに、空が掴み掛かって来ていた。

 空気もなんだがピリピリしてる気がする。


「お兄ちゃん。あの爆にゅ……カッコいいお姉さんは誰」

「お、同じクラスの友達だよ」

「じゃあなんで名前呼びなの」

「み、峰子さんの方から、そう呼んでくれって言われたから」

「ぐぬぬ……」


 袖がミシミシ悲鳴を上げて、破れてしまいそうだ。

 このままだと片袖無しで帰ることになっちゃう。


「ま、マロンちゃんって、いつもそんな感じなんですか?」

「い、いえ。今だけな筈です」


 早見さんにも心配されてるし、ここは空のご機嫌を取る為に、頭撫で撫でをするしかない。

 そっと静かに優しく撫でると、袖の掴む力が微弱に。


「……えへへ~♪ そんなに撫でたいんだ~♪ しょうがないな~♪」

「さ、さっきとは別人ですね」

「ま、まぁ……これが空なんで」


 撫でる手を止めようものなら、僕の手を掴んで、撫でさせるのだからスゴイ。


「あの、レイブン君。少し気掛かりなことがあるんですけど……聞いてもいいですか?」

「へ? なんでしょう?」 

「その……私達、以前どこかで会ってませんか?」

「え?……あ」


 確かに早見さん見た時、どこか見覚えが人の印象だったけど、今思い出した。

 通勤通学車両で、僕の肩でうたた寝していた、あのOLのお姉さんだ。

 恰好も雰囲気もガラッと変わってて、こうして言われなかったら気付けなかった。


「あの時のお姉」

「お待たせ~ながちゃん~♪」

「もう……遅いよ。レイブン君とマロンちゃんが来てくれたよ」


 早見さんの背後に突然やって来た美人さんに、僕と空は思わず美人さんの名前を呼んでいた。


「い、岩下さん?」

「な、何でここに?」

「うふふ~こんにちは洋さんに空ちゃん~♪ 今は岩下さんじゃなくて……ジャガジャガですよ?」

「あれ? お姉とも知り合いなんですか?」

「「お、お姉?」」


 パーツの所々が似てても、言われるまで姉妹だと分からないぐらい、2人は似てはいないんだ。


 早見さんの隣に座る岩下さんは、可愛らしく喉調子を整えていた。


「んっん~♪ という訳で~改めましてジャガジャガの岩下架耶かやです~♪ ながちゃんの姉です~♪」

「お姉……近いって」

「ただのスキンシップでしょ~? いつも甘えてきたくせに~」

「子供の時の話じゃん……もう」


 姉妹とは言え、美女同士がキャッキャウフフしてる、これは百合に近いのでは。

 百合展開の収集を来亥さんに命令されているから、早く知らせないと。


 簡潔に情報をまとめ早速送ろうとした時、目の光が消えた空と目が合った。


「ひょ!?」

「お兄ちゃん。誰と連絡してるの?」


 大きい目が見開いて、瞬きもしてない。

 掴まれてる肩に、指がぐいぐい食い込んで痛気持ちいい。


「ねぇ、誰なの? 彼女? 愛人? 遊びの人?」


 こうなった空は大好物のモンブランがあっても、一切見向きもしないんだ。


 対処法は空の質問にちゃんと答えることのみだ。


「そ、そんな関係じゃないよ。ただの情報提供だよ」

「なんで」

「い、色々知りたがってるんだよ」

「私の方がお兄ちゃんを知ってるよ」


 雲行きがどんどん怪しくなっても、この流れのまま行かせて貰うぞ。


「そ、そうだね。空の方が知ってくれてるね」

「当たり前だよ。私、何でもお兄ちゃんのこと知りたいから」


 目が真っ黒になって、まるで深淵に覗かれてる感覚だ。

 顔も何だか近いし、息も少し荒れている気がする。


「はぁ……はぁ……私だけにしか知らないお兄ちゃんを教えて……」


 正気に戻らせるには、もう最終手段を使うしかないみたいだ。


 僕は空の肩を掴んで、出来るだけ優しい笑顔を向けた。


「い、家に帰ったら教えるね?」

「絶対守ってね」

「う、うん」


 ようやく空の目に光が戻った。

 けど、顔の近さに気付いて、顔が真っ赤になっていた。

 すっかりしおらしく座った空を見て、今度こそ報告文を送信。

 数十秒内に返事が来た、相変わらず早い。


《わぁー♪ 情報ありがとう♪ 役立たせて貰うね♪ 六華♪》


 可愛らしい文面なのに、眉間寄せる来亥さんがどうしても過ってしまう。


 肩の力を抜いてリラックスしてると、前方から2つの視線が突き刺さり、今いる場がどこかを思い出す。


「あらあら~2人の仲睦まじい姿を見られて嬉しいわ~♪」

「レイブン君とマロンちゃんって……ううん。兄妹愛って素晴らしいですね」

「……お見苦しい姿を見せて、すみませんでした」


 自分の赤らんでいる顔を感じながら、峰子さんが運んでくれたカルピソを頂き、熱を冷ました。

 この恥ずかしさを消す方法は、僕自身が話題転換する事だ。


「えっと……話をだいぶ戻らせて貰いますけど、確かに早見さんと以前出会ってます」

「ですよねですよね! ちなみにどの時か、覚えてますか?」

「はい。4月中旬の通勤通学の車両内で、早見さんが僕の肩でうたた寝してました」

「え。あ! あの時の学生君ですか?!」


 記憶がフラッシュバックしたのか、顔を赤らめて申し訳なさそうに経緯を話してくれた。


「あ、あの日、お姉にサバブラを朝まで付き合わされてて……つい、いつもより眠たくて……」

「そ、それでうたた寝……」

「面目ないです……へへ」

「もう~あの日も目をランランさせていたクセに~お姉ちゃんのせいにしないの~♪」


 岩下さんは触れるスキンシップが好きみたいだ。

 それに対して早見さんは、諦めと嫌々の顔で軽く押しのけて、距離を取ろうとしてる。


 僕ら兄妹も仲良い方だけど、2人も負けてないと思う。


 そんな関心をしていると、3人分の足音が近付き、姿を見せた。


「おぅおぅおぅ! モチモチとジャガジャガ! いつも早ぇな!」

あかりさん、声が大きいわ」

「おや、見知らぬ少年少女が同席してるね」


 3人の女性が現れ、それぞれが空いてる席に座った。


 声の大きい生命力溢れる二十代前半の人。

 それを注意する二十代後半の大人な人。

 童顔で僕と同じ年っぽい人、の3名だ。


 一体誰がどのフレンドなのか、全く皆目見当もつかないや。


「ふぅー……宵絵よいえの奴は、寝坊してるみてぇだぞ」

「先程連絡来ましたので把握してますよ」

「そうか! で、そっちの坊ちゃん嬢ちゃんはどちらさんだ?」


 隣に座った声の大きい女性が、グイっと距離を縮めて僕と空を交互に見てくる。

 綺麗な人だけど怖い系の風貌だから、少し苦手意識が出てしまう。


「こらこらあかりちゃん~まずは自分から名乗らないとでしょ~?」

「それもそうだな。アタシはルービーでやらせて貰ってる、ほむらあかりだ! 灯でいいぜ!」


 元々ルービーは対戦相手で、何度か対戦している内にフレンドに誘われたんだっけ。

 『エルフ』スタイルで口調がオラオラ系だったから、ずっと男性だと勘違いしてた。


 現実も性別が違うだけで、口調はオラオラ系のまま。

 格好は露出多めのラフさで、ツーブロックの銀髪だ。


「次は私ね。ウィスキルの道源寺どうげんじ琴音ことねよ。好きに呼んで頂戴」


 ウィスキルは空といつの間にかフレンドになっていた、謎多きフレンドで、チーム戦でとても心強い人だ。

 『ドワーフ』スタイル使いで、簡易チャットも控えめな、実力はモチモチに少し劣るぐらいだ。

 そんな道源寺さんは、クールな大人女子の恰好で、クリーム色の纏め髪を右肩に流してる。


「最後だね。スピリリタソの鬼島きじま菜々代ななよ。奈々でよろしくね」

 

 スピリリタソは元々、どこのチームに属さない、言わば一匹狼を貫いていた。

 ちょくちょくオンライン広場で姿を見かけて、チーム戦で人数が足りない時に、スピリリタソの方から来てくれたんだ。

 モチモチとジャガジャガの次に、フレンド歴が長い人だ。

 いつも『獣人』スタイルで、簡易チャットは絵文字だけでやり取りをしている。


 実際に会ってみると、背中まである茶髪のナチュラルファッションな若々しい人で驚いてる。


 ただ、フレンドが全員女性だという事実に、詰んでいるなと実感するしかなかった。

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