第26話フレンドが始めた理由、理想の自分になれた女ゲーマー
流れの第一前提として、僕が灯さんに対してサバブラを何シリーズからやり始めたかを聞くべきだ。
「灯さんは何シリーズから始めましたか?」
「2シリーズだったかな? 男兄弟に混ざって、今も続けてる感じだ」
意外に古株で驚きだ。
元々対戦相手だったから気付かなかっただけかな。
男兄弟の環境なら、サバブラをやっててもおかしくない話だ。
「でも、根っから乙女だから、人一倍可愛いものに憧れが強いんだよ」
「い、言うなし! って違ぇよ!」
灯さんが奈々さんに翻弄されている。
でも2人にとって普通なんだと思う。
「灯さんって『エルフ』スタイルですよね。可愛い系にしないんですか?」
「……こ、こんな女が可愛い系使ってたら、恥ずかしいじゃん……」
見栄を張っているだけなんだね。
もし可愛い系スタイルを使ったら、ギャップがあっていいと思うけどな。
「って、アタシばっかじゃなくて、次は奈々が言えよ!」
「オッケーオッケー。私はサバブラの開発情報から知って、ベータ版から入った感じだよ」
確かベータ版も抽選で選ばれた、ごく少数しかプレイ出来なかった筈だ。
つまり奈々さんは選ばれし最古参だ。
「へぇ~初耳だわ~♪」
「初めて話すからねー」
古参アピールしたくなる筈なのに、今まで言わなかった事は、普通に凄い事だと思う。
今みたいに話の分かる仲間内でなら話してもいいかもだけど、親しくない人やSNSで言ったら、分かり易く反感を買うと思う。
「じゃあ次は私で~♪ 実は旦那がゲーム開発会社に勤めててね~? 業界伝手で初代シリーズの完パケを貰ってきてね、ついつい始めちゃったのよ~♪」
「へぇー羨ましいな」
旦那さんは有名どころの大人気シリーズを沢山担当していて、開いた口が塞がらない。
今度スタッフクレジットに、旦那さんの名前があるか確認しないとだ。
「ジャガジャガも古参なら、ランキングも強さも納得いくな」
「違うわよ灯ちゃん~とんとん拍子で上達する訳じゃないわよ~」
「じゃあ、何が強さの秘訣なんだ?」
「ただの持ち前の実力よ~♪ プレイを楽しめば、自然と実力になるわよ♪だからゲーム歴は関係ないのよ~」
とは言え、ジャガジャガの実力は初代から一目置かれていたんだ。
だからジャガジャガを見ただけで、怖いもの見たさに試合を挑んで来る程だ。
「お次は琴音ちゃんにバトンタッチ~♪」
「ま、マロンちゃんは普段どんな風に寝てるの?」
「はへぇ~……」
「話聞こえてるのかしら~?」
道源寺さんの質問攻めに、空がダウン寸前だ。
それでも止めない道源寺さんは本当にヤバい人だ。
どうにか話を聞いて貰い、意識をコッチに向けて貰った。
「触れ始めは2シリーズ目ね。目的は一つ、私だけの女の子ハーレムチームを作る為よ」
物凄く凛々しい顔で決めてるけど、言ってることは変態の域ですからね。
隣の空は空気の抜けた風船みたいに、へばってるぐらいだ。
何も出来なかったこんな兄を、家で好きにしていいから許しておくれ。
そして今日がトラウマにならないのを、切に願ってるよ。
「琴音……それって変態じゃねぇか!」
「愛よ」
「人はそれをいい訳と呼ぶんだよ」
「カツ丼頼んであげるわね~」
「まだ手は出していないわ」
やる気満々なのが見え見えで、恐ろしすぎるよこの人。
次の流れとしては、早見さんに話を振らせて貰おう。
「は、早見さんは僕より始めたの早いですよね」
「は、はい。私も初代の発売日当日からずっとやってます」
やっぱり早見さんはガチプレイヤーだ。
「そ、その……私、昔から内気で友達も少なくて、家に籠ってゲームばかりしてたんです」
「外には出てこなかったものね~ながちゃんは~」
サバブラ以前からゲーム好きだったのか。
「そ、そんな私に、お姉が初代サバブラをくれたんです」
「完パケを二つ貰っていたからよ~♪」
「FPSなんて苦手だったけど、始めたら他のゲームとは違うって、すぐに気付かされました」
発売当初からゲーマー達からゲーム革命だって言われる程の衝撃だったもんね。
ゲーム好きの早見さんだから、余計にそう感じれたんだ。
「サバブラ内では、強くて頼られる、そんな理想の自分になれたんです」
「段々と前向きになるようになったわよね~♪」
「うん。だからサバブラは、私の人生を変えてくれて、皆と出会わせてくれた大事なゲームだとハッキリ言えます」
誰でも違う自分になりたい気持ちが少なくともある。
早見さんはサバブラを通して、人生を変えることまで出来たんだから、本当にすごいと思う。
「べ、ベラベラ1人喋りになっちゃいました……」
「そんなことないです」
「れ、レイブン君……」
「僕達に打ち明けてくれるぐらい、サバブラが好きなのは伝わりました」
どんな時でも打ち明ける勇気はいるんだ。
もし打ち明けたら、笑われたり、人が離れたり、何とも思わなかったりするのも、普通にあり得る話だ。
でも、打ち明けた本人が平気な振りして、傷つくことだってある。
だから、僕は早見さんを笑ったりも離れたりもしないから、この言葉を伝えたい。
「けど、それを押し殺して、ずっと好きって言えなくなるのは、誰もが辛い筈なんです。だから話してくれてありがとうございました」
「レイブンの言う通りだな。打ち明けてくれて嬉しかったぜ! モチモチ!」
「これからも、もっと皆と楽しまないとだね!」
「ここにいる皆は貴方のことが好きよ。だから泣きそうにならないの」
「ばぃ……」
ホッとしたのか、早見さんは嬉し涙を流しながら笑っていた。
♢♢♢♢
それからサバブラ話やプライベート話などで大いに盛り上がった。
そして夕暮れ時もあって、初めてのオフ会がこれでお開きとなった。
「今日は本当にありがとうございました。私とジャガジャガとで奢らせて頂きますね」
「うふふ~♪ 遠慮しなくていいからね~♪」
「んじゃ、ゴチでーす。いやー今日は楽しかったな!」
「ねー結局、宵絵ちゃんは来れなかったね」
「あの子の事だわ。身支度中に二度寝したんじゃないかしら」
「「それだ」」
3人は息がぴったりで、とても仲が良いね。
2回目もやる気満々で、お互い連絡先も交換してある。
次回は是非とも宵絵さんって人とも、会ってみたいな。
空も随分と楽しんで、道源寺さんともすっかり仲良くなって、今も抱き着かれている。
トラウマにならないで本当に良かった。
「レイブン君、ちょっといいですか?」
「? はい」
皆が先に行く中で、早見さんが軽く手招いてきてた。
何だろうか。
「どうしました?」
「その……ありがとう」
「いえいえ、ありがとうは僕の方ですよ。オフ会に誘ってくれて、ほんとに嬉しかったです」
「あ、ううん。それもあるけど……」
もじもじとして何か言い辛いことなのかな。
「わ、私がこうしていられるのは、ずっとレイブン君がフレンドでいてくれて、一緒にサバブラをプレイしてくれたからです! だから、これからもこんな私で良かったら、よろしくお願いします!」
頭を下げて手を差し伸べてきた早見さんだけど、僕の答えはずっと変わらない。
「勿論です。モチモチがいなかったら、今ここにいません。またこれからも一緒に楽しみましょうね」
「! うん!」
握手を交わした僕らは、お互いに笑顔で向き合い、幸せな空気になった。
ただ視線を感じると思えば、にやにやと物陰から見てる皆が視界に入った。
空だけはギッと睨んでてギョッとした。
家に帰ったら本格的に甘えさせないといけないと、僕は心に言い聞かせた。
岩下さんと早見さんが会計を済ませ、僕らが待っていると、バイト上がりの峰子さんがやって来た。
シンプルな白Tにジーパン姿だけど、スタイルが良すぎてモデルさんかと思った。
「洋。帰るのか?」
「はい。峰子さんもバイトお疲れ様です」
「ありがと。洋、一つ聞いていいか?」
「何ですか?」
「レイブンって呼ばれてたみたいだが、あだ名とかなのか?」
同じクラスの女の子にプレイヤー名を聞かれるって、相当恥ずかしいじゃん。
こうして初めてのオフ会は、綺麗に幕を閉じた。
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