第46話 舞い降りるコタツ?

 ――で、でっかぁあああああーーーッ!?


 布越しでもハッキリとわかる、その圧倒的な重量感と存在感。


「…………っ」


 ある意味、非現実的な光景にアイラは体の痛みも忘れ、じっと二つの大玉スイカを見つめていた。


「これから、ここにコタツが運ばれてくる」

「…………へっ?」

「あの男を運べ」

「え、ええ……? 運ばれてくる? それってどういう…――――わぁっ!!」


 突然、体が吹き飛ばされそうになるほどの突風が巻き起こり、慌てて上を向くと、


「へっ……ヘリコプター!?」


 爆音の二基のプロペラを回す黒一色のヘリコプターが、ゆっくりと降下していた。


「で、でもこんなに風が吹いたら、煙が……」

「問題ない。あの玉は、一分間、煙を出し続ける」

「そ、そうですか……って、あれは……」


 機体の下にワイヤーで吊るされていたもの、それは……


「コ、コタツ……!?」


 ――コタツが…空を飛んでる……!?


 また非現実的な光景を目の当たりにして驚き疲れたアイラに向かって、操縦席から手を振る人物がいた。


「……っ!! 伊藤さん……!?」


 優しい笑みを浮かべていたのは、どこから見ても管理人の伊藤だった。


 ――どうして……あなた、管理人ですよね!? 一体、何者なんですか……っ!?


 と心の中で呟いている間に、コタツが目の前の木陰に下されると、ワイヤーが外された。


 そして伊藤は親指をスッと立てると、なにも言わずに飛び去った。


「カ、カッケェ……って、そんなことを言ってる場合じゃなかった!」

「行け」

「い、言われなくてもっ!」


 倒れているクゥールを慌てて起こし、肩を支えながらコタツの前まで運ぼうとしたが、


「ちょっと、少しは自分で歩きなさいよっ! 重いじゃない!」

「………………」

「もおーっ!!」


 ――ていうか、あの綺麗な人は誰なのよ……っ!! アンタのことを知っているみたいだけど。


「………………」


 ――これが終わったら絶対に聞いてやる……っ!


 と心に決め、クゥールをコタツの中に入れると、苦し気な表情が少しずつだが和らいでいるように見えた。


「すごい……っ。入れただけで顔色がよくなってく……っ」

「っ……アイ…ラ……」

「!! 目が覚めたのねっ! よかった……」


 ホッと息を吐くと、膝枕をされていることに気づいていないクゥールがキョロキョロと周りに目を向ける。


「……煙か?」

「えぇ、そうよ。急に現れた爆乳お姉さんが――」

「爆乳……?」

「やっぱり、そこが気になるのね。アンタが見たら目が飛び出るわよ」

「ふーん……」


 ――そうか……ふっ。……ナイスアシストッスよ、椿つばき先輩……


「ん……よぉ……っ」

「ちょっ、急に動いちゃダメよ! あんた体がボロボロなのよ!?」

「いいから……早く俺を起こしてくれ……」

「っ……わかったわよ!」


 背中を支えながらガタガタの体を起こすと、クゥールの口から「ハァッ……ハァッ……」と乱れた息がこぼれる。


 たったこれだけの動作でこの状態だ。いくらコタツの中に入ったからといって、僅か一分間でどれだけ回復できるか。


「お前……あいつに……勝ちたいか……?」

「え? そんなの……勝ちたいに決まってるでしょ! ……でも、アタシじゃ……」

「なに弱気になってんだよ……いつものお前らしくない……」

「だ、だって……」


 俯かせた顔が、今も震え続けている手をじっと見つめる。


「……はぁ。アイラ、俺の目を見ろ」

「目? …………っ!!」


 アイラが見たのは、迷いのないぐな瞳だった。


「あいつが……何の目的で俺を探していたのかはわからないが……あいつは俺たちに拳を向けたんだ。だったら、どんな用件であれ倒す。……違うか?」

「っ……それはそうだけど、なにか策でもあるの?」


 アイラの問いに、クゥールは含みのある表情で返した。


「あると言えば…――――ある。一か八かの賭けになるが……それしか勝つ可能性がない」

「え、あるの!? だったら早く教えなさいよ! 時間がないんだから!」

「よし……。じゃあ、よく聞けよ……」

「ええぇ!」




 煙の効果が切れるまで、残り――――――十五秒。

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